ファントム、依頼される18
翌夜、カジノの最上階にあるオーナー室へ、クロウこと灰島は足を踏み入れた。大きな窓を背に大理石でできた机が置かれ、革張りの椅子に座るオーナーはまだ若く40代くらいだろうか? 真っ白なスーツを着こなした男は、気障な笑みを浮かべながら 「ようこそ」と彼を迎えた。
その隣には明らかに不機嫌なキングが立っていた。灰島よりも少し年上に見えるキングは、均整の取れた体の灰島とは違い、華奢で頬は痩け、神経質そうな印象を受ける。
対照的な二人を見比べて、 オーナーは静かに口を開いた。
「さて、クロウ、要求を聞こうか」
灰島は、まるでメニューを注文するかのように淡々と告げた。
「契約金は前払いで5000万。私が働いた夜のカジノの総売上、20パーセントを成功報酬としていただきます」
「……なっ!?」
キングが、思わず声をこぼす。あまりにも法外な要求だったが、オーナーは笑っていた。
「面白い。いいだろう。ただし、条件がある。今夜は特別に『オークション』があってね。そのエキシビションゲームでディーラーを務めてもらう。今夜、お前のディーリング(ディーラーが行うゲームの進行と管理全般)で、キングよりも売り上げてみ、というのはどうだ?」
見方によっては、キングのプライドを守りつつ灰島を雇うための演出だと思えるだろう。けれど、明らかに二人を、キングを煽っているのだ。
「……私は構いませんよ」
その煽りに、灰島が乗る。
「その言葉、後悔するなよ 」
そして、キングもそれに乗るしかなかった。
二人の反応に、オーナーは満足げに頷き告げた。
「よろしい。では、今宵の『闇オークション』の余興として、最高のショーを期待しているよ。クロウ、君にはメインフロアを任せよう。キング、君にはVIPラウンジを任せる。AI『ステラ』のサポートは平等に受けられるが、どちらが私の期待に応えられるかな?」
そう言って、オーナーは楽しそうに微笑んだ。
その夜、カジノ「エリュシオン」は異様な熱気に包まれていた。オーナー直々の余興として、「鴉」と「キング」による売上対決が開催されることになったのだ。この対決自体は客には知らされていなかったが、それでも普段より豪華なステージ演出に会場は沸き立っていた。




