ファントム、依頼される14
「あなたの手品は見飽きました。『本物』をお見せしよう」
次の瞬間。 灰島の両手が残像のように動いた。カードはまるで生き物のように、宙を舞い、滝のように流れ、再び寸分の狂いもなく彼の手の中に収まった。 柳の神業すら凌駕する、完璧な『アブソリュート・シャッフル』。
「……お嬢様。お望みの手をどうぞ」
「え? えっと、じゃあ、ブラックジャックがいいわ!」
玲奈が無邪気に言う。
灰島は頷くとシャッフルしたデッキをマネージャーに差し出す。
「……お好きなだけ、カット(デッキを分けること)を」
マネージャーはゴクリと喉を鳴らし、デッキを三つにカットした。 灰島はそのバラバラの山を再び一つにまとめ、玲奈と自分、そしてハウス(カジノ側)にカードを配った。
玲奈の手元。……「A」と「K」(ブラックジャック)。 灰島の手元。……「A」と「Q」(ブラックジャック)。 ハウスの手元。……「10」と「9」(19)。
完璧なコントロールに、フロアが静まり返った。 それはイカサマではない。あまりに高度な技術による『支配』だった。
玲奈が手を叩いてはしゃぐ。
「すごーい! クロウ! 次も勝たせてよ!」
「えぇ、お嬢様」
「──こんなのはイカサマだ!!」
ディーラーの糾弾する声に、灰島はクスリと笑う。
「どこに証拠が?」
誰もそれを指摘できるものはいない。
『凄ぇな。カメラの速度は確かに落としたけどさぁ。これ、俺が見ても分かんねぇよ』
インカムからは瀬尾の声。監視カメラでも、灰島のイカサマの証拠は撮影できなかったのだ。
「そ、それはっ」
「見苦しいですよ、君」
フロアマネージャーがそう言うと、屈強な男二人がディーラーの両脇を抱えた。
「え? ま、待ってください! 俺はっ」
「お客様を不快にさせるディーラーは必要ありません。下がりなさい」
連行されていくディーラーの哀れな悲鳴は、カジノの喧騒にかき消された。
フロアマネージャーは、冷徹な表情を一変させ、灰島と玲奈に深々と頭を下げ、完璧な営業スマイルで謝罪した。
「アイシャお嬢様、クロウ様、この度はスタッフの無礼を心よりお詫び申し上げます」
「当たり前よ! せっかくの気分が台無しだわ!」
と、玲奈は完璧なお嬢様を演じ、顔をそむけた。
「つきましては、お詫びとクロウ様の『神業』に敬意を表し、本日のお嬢様のチップは全てハウス負担とさせていただきます。どうぞ、あちらのプライベート・サロンで、最高級のシャンパンとキャビアをご用意いたしますので、お寛ぎください」
これはカジノ最上級の「謝罪」と「歓待」だった。
『……いい子だ、AIを使ってクロウの過去を調べてる。玲奈ちゃん、執事と遊んどいで。奴らはその間にクロウを調べ上げてさらに接触を試みるはずだ』
インカムから瀬尾の楽しそうな声が響く。
「……仕方ないわね。くつろいであげるわ。クロウ、行くわよ」
「はい、お嬢様」
灰島と玲奈は、マネージャーの案内の元、さらに奥のVIPエリアへと通されていった。




