ファントム、依頼される13
フロアの空気が凍りつく。ディーラーの顔から血の気が引いた。
「な、何をするんだ、貴様……!」
灰島は掴んだディーラーの手をゆっくりと持ち上げさせる。その指には、デッキの一番上のカードではなく、二番目のカードが巧みに挟まれていた。完璧な「セカンド・ディール」(二枚目のカードを配るイカサマ)のまさに現行犯だったのだ。
「……拙い、手品ですね」
灰島が冷たく言い放つ。
「き、貴様! でたらめを……! 誰か、こいつをつまみ出せ!」
その声に反応し、フロアの影に控えていた元軍人の屈強な警備員たちが即座に二人を囲んだ。
「やめませんか?」
警備員が灰島の腕を掴もうとしたその瞬間、灰島は静かに彼らを制した。その声には、奇妙な威圧感があった。
「ここは紳士淑女の遊び場。……カジノなのでしょう?」
灰島は警備員たちと、その奥で事態を見つめているフロアマネージャーに向かって静かに告げた。
「暴力は無粋です。もし私のでたらめだと言うのなら、『ゲーム』で証明したらいかがでしょう? このイカサマ師と私。どちらの『腕』が上か」
あまりにも不遜な提案。 マネージャーは数秒間、灰島を値踏みするように見つめていたが、やがてインカムに何かを囁くと頷いた。
『オーナーと取引成立だ、クロウ』
どこかで盗聴しているのだろう、インカムから瀬尾の声が聞こえた直後、フロアマネージャーが灰島に歩み寄ってきた。
「……よろしいでしょう。テーブルをお空けしろ」
客たちが遠巻きに見守る中、テーブルには灰島と震えるディーラーだけが向かい合う。
「……貴様、後悔するなよ」
ディーラーは怒りと屈辱に顔を歪ませながら、新しいデッキをシャッフルする。 灰島はそのカードを受け取ると、静かに立ち上がった。




