ファントム、依頼される12
その夜。
「日本でも遊べるところがあるのね、クロウ」
「はい、アイシャお嬢様。ですが、どうかはした金ではしゃぎすぎませんよう」
シンガポールの天真爛漫なIT企業の令嬢を演じる玲奈と、その執事に扮したクロウと呼ばれる灰島、二人の姿はカジノ『エリュシオン』のVIPフロアにあった。
『ここがいまだにAEGISを使ってくれてて助かるわ』
『うんうん、俺の仕事も楽になっちゃう。ということで、AIのスコアは調整済みなので、好きにやっちゃって~!』
特殊な超小型インカムから聞こえるノリノリな瀬尾の台詞に辟易しながらも、灰島は執事として完璧に玲奈をエスコートする。
玲奈はAIの「脆弱性スコア」を上げるため、無謀な賭けを繰り返していた。ブラックジャックのテーブルに着くと、わざと負けを装い「また負けちゃった! 次こそは勝つんだから!」と、大量のチップを派手に滑らせ、完璧な「カモ」を演じていた。
『ふふ、これならAIをいじる必要もないくらいね』
インカムから聞こえるユキの声に、少し気をよくして「クロウ!」と灰島を呼ぶ。
「はい、アイシャお嬢様」
「パパにもっとお小遣いもらって! 勝つまでやめないんだから!」
「……承知いたしました」
ディーラーは、そんな玲奈を表面的な笑みであしらいながら、淡々とカードを配っていた。AIの分析によれば、この「カモ」は一度勝たせればさらに大金を引き出せる典型的なパターンだ。
「きゃあ! 勝ったわ! クロウ、見たでしょう?」
「はい、お見事です」
無邪気に喜ぶ玲奈扮するアイシャお嬢様に、ディーラーも「おめでとうございます」と微笑む。
「さあ、次も勝って全部取り返すんだから!」
そう言ってすべてのチップを滑らせる彼女に、ディーラーはにこりと笑ってカードを手にする。
罠にかかった。そう確信したディーラーは神業の「フォールス・シャッフル」(シャッフルしたように見せかけ、カードの順番を変えない技)で玲奈に有利なカードを仕込み、そして自分にカードを配ろうとしたその瞬間、――ガシッ!
それまで玲奈の後ろで、石像のように佇んでいた執事の灰島の手が雷光のように伸び、ディーラーがカードを配ろうとしていた右手首をテーブルに押さえつけた。
「なっ……!?」




