ファントム、依頼される11
「『名前:クロウ。経歴:不明。マカオのVIPルームをたった一人で潰した伝説のディーラーがいる。指先が速すぎて監視カメラにすら映らない』……って、どうよ、この中二病設定。キングの中二病センスなら、絶対食いつくと思わね?」
「……馬鹿げてる」
ユキは冷ややかに呟く。
「でも、その『噂』を『真実』にすればいいんでしょ?」
そして、ユキもノートパソコンを開いた。
「マカオの複数のカジノの過去の収支データに侵入。良かった、まだAEGISを使ってるのね。えーっと、数年前に原因不明の赤字が発生した日のログを改竄し、そこに『クロウ』の痕跡を残す。あと、SNSにも過去のログを残して……これで、AIが裏を取ろうとしても、『伝説』は『事実』としてヒットするわ」
「うーん、仕事が早くて助かるね。そんじゃ次の仕事は、キングのお気に入りのディーラー……、へぇ、『アントワン・デュボワ』って名前のフランス人ね。彼には申し訳ないけど消えてもらいましょ」
「えっ、消すって……、もしかして殺しちゃうの!?」
そう言って、慌てて自分の口を両手で塞ぐ玲奈に、瀬尾は笑う。
「いやいや、サスペンスの見過ぎでしょ。物理的にじゃなくて社会的にって意味」
「あぁ……」と恥ずかしそうに浮いた腰を落ち着ける玲奈の向かいで、 ユキが冷静に引き継ぐ。
「アントワンの裏の資金の流れを追跡。……見つけたわ。彼はカジノの売上の一部を、数年前から小額だけど横領し、ライバル組織の秘密口座へ送金している 」
「おっと、そりゃマヌケな裏切り者だな。さてさて、その証拠を知ったら王様はどうしちゃうかな?」
瀬尾は、決定的な「証拠」を、カジノのオーナーではなく、キング本人宛に匿名で送信した。キングはAIを盲信しているが、実際は猜疑心の塊だ。AIですら見抜けなかった「裏切り」の証拠を見せられたら、どうなるか。
「アントワンを即刻切り捨てる」
灰島の答えに、瀬尾も「だろうね」と同意した。
「というわけで、今夜キングの横には、『ディーラーの、空席』が一つできる。さあ、パパ、『オーディション』の時間ですよ」
「……それ、やめろ」
「衣装は調達しておきましたよ」
二人の会話に割り込んで、マスターが嬉々として衣装片手に現れた。
「あ、もう一つ偽造しておかないとね」
その衣装を見て、ユキはまたPCに向かった。




