ファントム、依頼される9
「玲奈ちゃん、君は根本的に間違っている」
「え?」
「彼らは金稼ぎに行くのではない。金を『使いに』行くんだ」
瀬尾は皮肉っぽく、この世界の真理を語るように続けた。
「考えてもみてごらん。違法カジノだぞ? 捕まるかもしれないというスリル。法を犯しているという背徳感。そして何より、『自分だけが選ばれた特別な場所にいる』という優越感。……そいつは、金じゃ買えない、最高級の麻薬なんだよ」
「麻薬……」
「そう、しかもここはなかなか面白いことやっててね。客はまず最初に“運命の扉”というゲームに挑戦すんの。3つの扉のうち1つが大当たり。なんだけど、扉の選択は事前にAIが客の心理傾向から予測済み。選ばせたい扉に誘導する演出が仕込まれている。だけど客は「自分で選んだ」と思い込んで、大当たりの扉をくぐるとVIP専用のカジノステージにご案内ってわけ」
瀬尾はそこで一度言葉を切ると、心底面白そうにニヤリと笑った。
「で、VIPステージに入ってからが、またタチが悪い」
「まだ、何かあるんですか?」
玲奈が、身を乗り出す。
「ここから彼らはランク付けすんの。それは『賭け金』だけで、ランク付けしてるんじゃない。『脆弱性スコア』。つまり、『客が、どれだけ、操りやすいか』を、AIが徹底的に数値化してんのよ」
「脆弱性……?」
ユキがその言葉に反応する。
「そう。まず、最初の『運命の扉』。あれはただの心理ゲームじゃない。その時点でAIは、客のリスク許容度と権威(この場合はAIの演出)への服従度をテストしてる。そしてVIPフロアに入ってからが本番だ」
瀬尾はハッキングした内部資料をモニターに映し出す。
「フロア内の全てのカメラとマイクが、客の賭け方の傾向、負けた時の瞬きの回数、勝った時に発する声の周波数を分析する。AIはその客が『損切り』ができる冷静なタイプか、それとも『負けを取り返そうとする』感情的なタイプかを瞬時に判断する」
「うわぁ」と玲奈が声を漏らした。
「そういうの、全部AIに判断されちゃうんだ。怖いなぁ」
「人間より公平だからね。で、そのスコアに応じて、客には『宮廷ランク』が、与えられる。『男爵』だの、『侯爵』だの、中二病みたいだけどね。そして、そのランクが上がれば上がるほど、もらえる酒も案内される部屋も豪華になっていくって仕組みよ」
「センスからして最悪ね」と毒づくユキに「全くだ」と瀬尾も返す。
「悪趣味でも、とりあえずここに入り込むところからスタートしないとね。キングと対面でいるのは、宮廷ランクが与えられた人間だけだ」
彼の手にある、プロフェッサー・シルクの手帳を奪い返す。それこそが目的だから。




