ファントム、依頼される5
数時間後。
「うーん、監視カメラでは怪しい動きをする人物はいないけどなぁ」
「うん、もう画面と睨めっこで目がショボショボするわ」
数時間、瀬尾と玲奈からはなんの情報も得られない。
「指紋が断片的だからなのかしら? 国内で照合できるものは全部やったけど、該当無しよ」
ユキの方もお手上げだ。
「なら、国外はどうだ?」
灰島に言われて、ユキも「そうね」と海外のデータにアクセスする。
「犯罪者記録だけではなく、興行、ライセンス……あらゆる指紋登録データに範囲を広げるわ」
「そんじゃ、俺も手伝うかね」と、瀬尾もキーボードを叩き始めた。
「時間短縮のために、ちょーっと借りちゃうよ~」と彼が不敵な笑みを浮かべる。
玲奈が興味津々に期待を込めて尋ねた。
「借りるって、何を?」
「ん? アメリカ国家安全保障局……NSAのメインサーバーさ。世界中のあらゆるデータが集まる『図書館』だからね。こっそり裏口からお邪魔して、検索キューの先頭に、俺たちのリクエストを割り込ませてもらうだけ」
海外の情報機関を、まるで近所のコンビニのように扱う瀬尾に、灰島は小さく息を吐く。
「バレるなよ?」
「そんなヘマしません! これ以上長官怒らせると、脳梗塞起こしかねないからなぁ」
本気で心配しているのではないのだろうが、彼がここまで言うのならバレることはないのだろう。それ以上、言及しないでいると、ピコンと電子音が響いた。
「引っかかったわ。北朝鮮のデータだけど」
ユキのモニターに表示されたのは、シルクハットを被った粋な老紳士の古い白黒写真。
『プロフェッサー・シルク。本名、柳 俊之。1970年代に一世を風靡した伝説の奇術師。10年前に引退』
「柳さん!? 一体いつセグレトに!?」
彼を知っているのだろう、マスターがそう叫ぶ中、瀬尾の指は止まることなくキーボードを叩く。
「これか、マスター。俺たちのいない3時くらい、白髪の男性が来ただろう? 彼の耳の形と、この写真の耳の形が一致する。うまいこと変装してるね、これじゃ別人だ」
瀬尾のPCに映し出されたのは、ユキの画面に映し出された画像の人物とはまるで別人だった。
ここまでの状況に灰島は、全てのピースがはまっていくのを感じた。
「……盗まれてなど、いなかったんだ。最初から」
「どういうことだ?」
瀬尾の質問に、灰島はカウンターのコーヒー豆を見た。
「保管庫に入っているものを、入れ替えたわけじゃない。保管に入る前、すでにすり替わっていたんだ。マスター、あなたはお客に豆の袋を見せませんでしたか?」
マスターは、はっとしたように頷く。
「ええ、常連の皆様にお見せして……」
「その時です」と灰島は断言した。
「彼は巧みな話術であなたの注意を逸らし、その一瞬で本物の豆が入った袋と、彼が用意した同じ見た目の『偽物の袋』をすり替えた。あなたが大事に金庫にしまったのは、もはや抜け殻だったというわけだ。ほら、ここ」




