ファントム、謎解きをする6
「……でもさ。なんで今になって、アルケナが三枝先生のことを狙ってきたんだ? 額の存在なんて、誰にも知られていなかったんだろ?」
その問いに、三枝は小さく息を吐き、頷いた。
「ええ。祖父が亡くなったあと、彼の遺品を整理していたんです。その中に、この額がありました。当時まだ学生でしたが、この額が特別なのは分かっていました。だから、その謎を解くために論文を書いたんです」
「論文?」
「ええ。『戦前期ヨーロッパにおけるユダヤ系美術収集家の文化的影響』というテーマで。額の写真も載せましたが、特に注目されたわけでもなく……。だからなぜ今頃? と私も思っていました」
「留学先の大学で書いたでしょう?」
そう言いながら、セレスティーナはスマートフォンを操作した。
「その論文、大学のデジタルアーカイブに収録されてるの、知ってたかしら? アルケナは、過去十年間にわたって、戦時中に失われた美術品の痕跡をネット上で探していた形跡がある。私たちは彼らの検索パターンを監視していたのだけど……数ヶ月前、彼らがあなたの論文にアクセスしたログを検出したわ」
その事実に三枝は、はっとしてゆっくりと目を伏せる。
「……つまり、私自身が“番人”であることを、知らず知らずのうちに、世界に向けて発信してしまっていたんですね」
セレスティーナが肩をすくめる。
「まあ、あなたのせいじゃないわ。誰も、あの額が“鍵”だなんて思わない。……でも、アルケナは違った。彼らは、見逃さなかった」
瀬尾が苦笑する。
「なるほどね。だから、今になって急に動き出したってわけか。……ネットってのは、便利だけど、怖ぇな」
灰島は黙って頷いた。
そして、テーブルの上に置かれた三つのアイテム──絵画、額縁、詩篇──を見つめながら、静かに言った。
「……それでも、約束は守られた。三代かけて、ようやく」
その言葉に、誰もが黙った。
セグレトの空気は、深夜の静けさと、歴史の重みをまとっていた。




