ファントム、謎解きをする5
「私の祖父は外交官として、大戦中のドイツに駐在していました。そして、彼には一人の友人がいました。ユダヤ人の銀行家です」
彼の言葉に、全員が聞き入る。
「迫害が激しさを増す中、友人はこれ以上耐えられないと悟り、私の祖父にすべてを託しました。それは、一族が何代にもわたって築き上げてきた資産のありかを示す『地図』です。彼は祖父にこう言ったそうです。『いつか戦争が終わり、世界に平和が戻ったら、生き残った私の一族にこれを返してほしい』と」
セレスティーナの表情が険しくなる。
「なぜそんな重要なものを、わざわざ日本の外交官に?」
三枝は続けた。
「それこそが、彼の最後の『賭け』だったのです。彼はスイスもアメリカも信用しませんでした。全ての国が自らの利益のために動いていたからです。だからこそ、彼は唯一信頼できる友人であった私の祖父に託したのです。『誰も、日本人である君に財産を預けるなんて思わないだろう?』と」
「……戦後、なぜ返さなかった?」
灰島の静かな問いに、三枝は視線を落とした。
「返せなかったんです。戦後、祖父は友人の一族の行方を必死に探しました。しかし、ホロコーストで全員が亡くなり、誰一人見つからなかった。そして戦後の混乱の中、この『地図』の存在が公になれば、連合軍に没収されてしまう。祖父は、誰に返せばいいのかも分からないまま、友との約束を守るためだけに、すべてを秘密にしたんです。横領犯だと思われることを恐れながら」
それは、一族が三代に渡って背負い続けてきた、あまりにも重く、悲しい秘密だった。彼は犯罪者の末裔ではなかった。果たされることのなかった、聖なる「約束」の最後の『番人』だったのだ。
静まり返った、セグレト。 重い沈黙を破ったのは、セレスティーナだった。
「そんな話を聞いたら、それを横取りする私が悪者みたいじゃない」
そう言いながら、セレスティーナは肩を上下させた。
「仕方ないわ。この件はMI6が責任を持って引き継ぐわ。ユダヤ系の国際機関と連携し、この資産を管理する財団を設立させる。どうかしら?」
彼女なりの敬意の表し方に、灰島もフッと笑みを浮かべる。それにつられるように、セレスティーナも口の端を上げた。
セレスティーナの提案に、場の空気がようやく落ち着きを取り戻し始めたその時。
瀬尾が、ふと眉をひそめた。




