ファントム、謎解きをする4
「私たちはこれをずっと地上の地図だと思っていた。でももしこれが天の地図……、つまり『星図』だとしたら?」
その一言に全員が、息を飲んだ。 そしてセレスティーナが、初めて感心したような声を上げる。
「……なるほどね。ユダヤの神秘主義思想『カバラ』では、天の星々の配置は神の設計図そのものだと、考えられている。ありえない話では、ないわね」
ユキは続けた。
「詩篇には、『三十六の星を探し』とあった。ユダヤの伝承には、『ラメド・ヴァヴ・ツァディキム』……世界を支える三十六人の義人の伝説があるわ。この壁に映った光と影……、もし、この『影』の部分こそが『星座』を示しているとしたら……?」
瀬尾がユキの言葉に、弾かれたように、ノートパソコンを操作し始めた。
「……壁の模様をスキャン。影の部分だけを抽出して、左右反転……。古代の星座のデータと、照合……!」
モニターに無数の星図が表示され、高速でマッチングが行われていく。 そして、数秒後。一つの星座が赤くハイライトされた。
「……ヒットした! 『うみへび座』……! その心臓部分に位置する二等星、アルファルド……! 『孤独なるもの』を意味する星だ……!」
「孤独なるもの……」
三枝がその言葉を繰り返した時、彼の脳裏に祖父から聞かされた最後の記憶が蘇った。
「……思い出した。祖父のひとり言、あれはまだ詩篇の続きだったんだ! 『塩の海のほとり、孤独なるものが、眠る場所にて、約束は果たされる』……!」
「塩の海……!」
瀬尾が、叫ぶ。
「死海だ! イスラエルとヨルダンの国境にある、あの塩湖!」
彼は即座に人工衛星のデータをハッキングし、死海の詳細な地図をモニターに映し出した。
「アルファルドの星の位置から割り出した座標は……ここだ! 死海の西岸……、クムランの洞窟……! 『死海文書』が発見された、あの歴史的な場所のすぐ近くだ!」
全ての謎が繋がった。 そこはユダヤの民にとって、最も神聖な場所の一つ。
「でも、どうしてナチスの美術品をそんなところに隠したのかしら?」
誰もが感じた疑問をユキが口にすると、三枝は「違います」と首を振った。
「それは……、ナチスの略奪品では、ありません」
彼は静かに語り始めた。




