ファントム、謎解きをする3
「なるほどね、このレンズを通して絵を見れば、不可視インクが見えるってわけだ」
瀬尾はすぐに紫外線ライトを用意し、レンズ越しに絵画を照らす。
だが──、絵には何も浮かび上がらなかった。
「……なぜだ?」
再び、全員が壁に突き当たったその時。
三枝先生が、震える声で呟いた。
「あ……、一つ言葉が抜けてました」
彼は記憶の糸を手繰り寄せるように言う。
「『……闇夜に三十六の星を探し……賢者の石にて、真実を、“重ねて”、写し取れ……』」
「……重ねて?」
灰島がその言葉を繰り返す。そして、はっとしたように額縁と絵画を手に取り、セグレトの壁に向かうと、瀬尾に指示を出した。
「瀬尾、店の照明をすべて消せ。俺の背後から、紫外線ライトを一点に集中させろ」
照明が落とされ、店内は完全な闇に包まれる。
灰島はまず、絵画をライトの前にかざした。壁には、ぼんやりと人物の影が映るだけ。
次に、絵画の数センチ手前に額縁をかざす。
――その瞬間、奇跡が起きた。
紫外線が絵画を透過し、額縁の内側に刻まれた微細な溝(回折格子)を通り抜ける。
そして、その光が中央の螢石レンズを通過したとき──
壁に映し出されたのは、一枚の完璧な「地図」だった。
静まり返った店内で、瀬尾が呆然と呟いた。
「……なんだよ、これ……。プロジェクターじゃねえか……」
彼の言う通りだった。 三枝の祖父が仕掛けたのは、大戦中の技術と思想でしか作り得ない、究極のアナログ・セキュリティ。三つの部品に、分解された「プロジェクター」だったのだ。
壁に映し出された、複雑な光の模様。 それは、誰もが見たことのない、奇妙な「地図」だった。
「……クソッ、どこの地形データとも一致しねえ」
瀬尾が世界中のあらゆる地図データと照合させるが、該当する場所は見つからない。 セレスティーナも、MI6のデータベースを検索するが結果は同じだった。
「……私たちはもしかしたら、根本的な間違いをしているのかもしれない」
それまで黙って壁の模様を見つめていたユキが、静かに口を開いた。




