ファントム、謎解きをする2
「先生は何か知ってるんじゃない?」
至極当たり前に玲奈がそう聞くが、三枝はブンブンと首を振る。
「分かっていたら、すぐにでも回収します! 祖父にとっては罪でも私にとっては素晴らしい美術品でしかない。とはいえ、危険な美術品と知っていたから、簡単には行動できないし、そもそも『絵』がなかったから、探しようもないってところが本音です」
彼の意見に納得し、彼らはありきたりな方法を試すことにした。
瀬尾が額縁を非破壊スキャンにかけるが、隠し部屋も機械的な仕掛けもない。
ユキが絵画の顔料を分析するが、不可視インクの類は検出されない。
三枝が記憶を頼りに、『詩篇』を何度も暗唱するが、それ自体が直接的な場所を示しているわけではなかった。
「……ダメだ。八方塞がりだ」
瀬尾が頭を掻く。 誰もが手詰まり感を感じ始めた、その時だった。
それまで黙ってコーヒーを淹れていた灰島が、静かに口を開いた。
「……先生。その詩篇、もう一度、最初の一節を」
「え……? ああ。『闇夜に、三十六の星を探し、賢者の石にて、真実を写し取れ』……ですが」
「……賢者の石って、錬金術の……?」
ユキがそう呟いた瞬間、灰島は即座に首を振った。
「違う。戦時中、ドイツで“賢者の石”と呼ばれていたものがある」
その言葉にユキが「あっ」と声を上げ、ノートパソコンを操作する。モニターに映し出されたのは、ドイツの光学メーカー「カール・ツァイス」が軍事用に開発した特殊なレンズ──螢石レンズの古い写真だった。
「このレンズは、特定の紫外線にだけ反応して、不可視インクを見るために使われていたの」
「レンズ……?」
瀬尾が額縁を持ち上げて眉をひそめる。
「でも、どう見てもこれは木彫りの……」
そのとき、ユキが叫んだ。
「待って! 額縁の中央上部にある紋章!」
彼女はモニターの写真を拡大する。そこには、ツァイス社の古いロゴマークが刻まれていた。それは、額縁の紋章と酷似していた。
灰島は静かに立ち上がり、マスターから特殊な工具を受け取ると、紋章の部分に慎重に差し込んだ。カチリと小さな音がして、紋章が外れる。中から現れたのは、直径5センチほどの、美しく研磨された円形の螢石レンズだった。
額縁は、地図そのものではなかった。
地図を「見る」ための、究極の道具だったのだ。




