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コードネーム・ファントムの新たな日常2~少女と名画、そして英国の魔女~  作者: 桜瀬ひな


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ファントム、協力する6

「……気になるんだ?」


 玲奈の言葉に、ユキは窓の外に目をやりながら苦笑した。


「私がいても何の役にも立たないことくらい、分かってる」


 瀬尾があらゆる監視カメラで目を光らせ、不審者がいればセレスティーナが即座に対応する。万が一の事態には、待機している灰島やマスターが駆けつける手筈になっている。

 いや、もしかしたらすでに灰島は、校内に紛れ込んでいるのかもしれない。


「そんなことないよ。今回のことだってユキちゃんがいないと分からなかったわけだし?」

「……ただの偶然よ。それに私が気付かなくても、セレスティーナが動いてたわ」

「だって、それが彼女の仕事だもの」


 さっくりと返される言葉に、ユキは思わず「え?」と顔を上げた。


「私たちは学校で、学園生活を満喫するのが仕事。彼女はこの世界に起きた事件とか問題を解決するのが仕事」


 ちょっと外れるときもあるけどね? と玲奈は笑う。


「灰島さんも瀬尾さんも、おじいちゃんも、みんな大人だから私たちのために働いてる。私たちは甘えてればいいんだよ。それが仕事」


 そう説明はされたものの、ユキは複雑な顔をする。


「……私、これでも二十歳を超えて」

「今は中学生! いいじゃん、それで。ユキちゃんが私より年上だから敬語を使いなさいって言われても困るもん」

「……言わないけど」

「学校、初めてなんでしょ? 他人との共同生活とかも。そういう経験をさせたくてみんな頑張ってるんだから、屁理屈言わない!」


 まるで姉のような言い分に、ユキは一瞬固まって、それから吹き出すように笑った。


「そうね、玲奈お姉ちゃん」

「うんう……? え?お姉ちゃん!?」


 玲奈が驚くのを見て、ユキは再び微笑んだ。この優しい「お姉ちゃん」に、一度「大人」という立場を忘れ、「中学生」として甘えてみてもいいのかもしれない。そう思える今が、とても大切なものに思えた。



『……そろそろかな。二人とも準備してくれる?』

「──っ」


 二人が装着していたインカムから、瀬尾の声が聞こえてきた。


『じき、美術室の下、化学実験室から火災が起きる。美術室から遠い、非常階段へ誘導するんだ』

「分かった」


 玲奈がそう答えると、隣でユキも頷く。

 今回のミッションの目的は、誰も怪我することなく終了すること。


「ところで、うちのパパは? 朝起きたら、朝食もお弁当で玄関に置いてて、見てないのよ」


 実は、今日は朝から姿を見ていない。勿論、準備をしているに違いないのだが、何をするのか? どこにいるのか? 全く連絡もないのだ。それでもこのインカムで聞いてるはずだから、茶化して『パパ』とわざと呼んだのに、彼からの返事はない。


『さあ? 監視カメラにも映ってないし、寝坊でもしたかな?』

「はい!?」

『ま、今回はそれほど難易度高くないから大丈夫大丈夫、お、そろそろかな?』

「ちょ──っ」


 ユキが文句の一つも言おうとした瞬間。

 ジリリリリリリリリリッ!!

 火災を告げるベルが、学校中に響き渡った。


「火事!?」

「嘘! に、逃げなきゃ!!」

「どこに!? ってか、火事ってどこ──、煙!!」


 生徒の一人が指さした先、そこは物理室や化学室、家庭科室に裁縫室――さらに美術室や書道室、音楽室が集まる移動教室棟だった。そこから煙が上がっていた。


「こんな時の救護班よ!」


 玲奈はそう言うと、腕に『救護班』とかかれた腕章を身につけた。


「出来れば、もっと文化祭、堪能したかったけど」


 隣のユキを見てそう言ったが、彼女はにこりと笑う。


「十分堪能したわ。うちのクラス、謎解き迷路だったんだけど、作るだけでも楽しかったわ」

「……それ、ユキちゃん考えたの? え? 誰かクリアできるの?」


 真顔でそう尋ねる玲奈に、ユキはクスリと笑ってパニックを起こす寸前の会場を見た。


「ほら、玲奈お姉ちゃん。早く避難させて。私も手伝うわ」

「そうだった! よし、行こう!」


 二人は煙の上がる建物へ向かって、駆け出した。


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