ファントム、協力する5
文化祭前夜。
三枝は目の前に2枚の同じ絵を並べ、じっと見つめていた。彼の目から見ても、すぐには見分けがつかないほど 、精巧な模写、いや、これはもう贋作だ。
「……彼は、きっといい美術修復師になる」
そう言いながら、指先で額に触れた。
「これで、すべて終わる。じーさん、これでいいよな?」
誰もいない部屋でそう呟いて、その絵を丁寧にカバンにしまった。
一方、閉店間際のセグレトでは、文化祭のパンフレットを広げて二人が楽しげに話していた。
「お化け屋敷コンサート? なにこれ」
「うんとね、それは軽音部なんだけど、普通にやっても受けないから、お化けに仮装して演奏するんだって」
「……それ、受けるの?」
二人のほのぼのとした会話を聞きながら、灰島はカップを洗い棚に戻していく。そして、彼の前にも同じパンフレットがあり、会場の地図のページが開かれていた。
同じころ、セレスティーナ はシャワーを浴び、バスタオル一枚で出てきたと思ったら、ソファに座る。テーブルの上には、愛用のワルサーPPK/S。
「使う必要がない方がいいのか、それとも……」
そう言いながら手にし、メンテナンスを始める。
「私は、どちらでもいいのだけどね」
とても楽しそうにそう呟いて、銃を構え夜空に浮かぶ月を照準に合わせる。
「BAN!」
こうして、夜は更けていった。
文化祭当日。
抜けるような秋晴れの下、私立K中学校・高等学校の門は、朝から多くの来校者で賑わっていた。校庭には吹奏楽部のファンファーレが高らかに鳴り響き、模擬店のテントからは焼きそばの香ばしい匂いや、わたあめの甘い香りが漂ってくる。
クラスTシャツに身を包んだ生徒たちの弾けるような笑い声、子供の手を引いて歩く保護者たちの穏やかな表情。誰もが、年に一度の平和な「祭典」を心から楽しんでいた。
「ユキちゃん、何食べたい?」
「え? えと、朝ごはんは食べたけど?」
「灰島さんの料理、美味しいもんね。それならどこみたい? お化け屋敷に、モンスターカフェも面白そうだよね」
「……よく、分からないけど」
そんな会話をしながら、二人は文化祭を満喫していた。
そして、美術部の展示室は、今年の目玉企画である「本物と偽物」展のおかげで、朝から黒山の人だかりだった。壁には、生徒たちが精巧に模写したゴッホの『ひまわり』やフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』が、本物の写真と並べて展示されている。
その中央には、厳重にガラスケースに収められた「名もなき貴族」があり、その横には「本物」という札が添えられている。一方、その隣の壁には、もう一枚の「名もなき貴族」が無造作に立てかけられ、こちらには「贋作」の札がかかっていた。
「佐々木くん、すごいね! どっちが本物か、全然見分けがつかないよ!」
友人たちの賞賛に、佐々木は照れくさそうに頭を掻いた。
「ふふっ、ありがとう。でも、先生も手伝ってくれたから。僕一人ではここまでは無理じゃないかな?」
笑顔でそう話す佐々木とは対照的に、その部屋の隅にいる三枝の表情は曇っていた。




