表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コードネーム・ファントムの新たな日常2~少女と名画、そして英国の魔女~  作者: 桜瀬ひな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/53

ファントム、協力する4

 文化祭の二日前、深夜。

 三枝の書斎には、煌々と明かりが灯っていた。アルケナ側から一方的に連絡を受けるためだけに持たされていた、プリペイド式のスマートフォンが彼の手にあった。しかし今夜、彼は初めて自らの意志でその電話をかけようとしていた。

 数回のコールの後、相手が出た。 抑揚のない、あの男の声だった。


『……どういう、風の吹き回しですかな、先生。こちらから、連絡する前に、電話をかけてくるは』

「もう、うんざりだ」


 三枝はこの数週間で憔悴しきっていた。


「疲れた……。ナチスの亡霊に取り憑かれるのは、もうごめんだ」


『ほう』電話の向こうの男が興味深そうに相槌を打つ。


「だから、……取引をしたい」


 三枝は言葉を続けた。その声は恐怖に震えていたが、彼の目には強い意志が宿っている。


「文化祭の混乱に乗じて、あれを奪ってほしい。私が協力する。美術室の警備が手薄になる時間も教える。だから……だから、もう、私と私の家族を見逃してくれ……!」


 三枝の嘆願する声に、スマートフォンからは小さく嘲笑う声が聞こえる。


「私の祖父は、戦後ずっと、怯えて暮らしていたんだ。ナチスに加担した罪がいつか暴かれ、戦犯として裁かれ、家族にまで累が及ぶことを──」


 彼は自身の髪をかきむしり、それでも続けた。


「これは祖父の遺言でもある。この『呪い』を誰にも知られず、ただ静かに消し去ってほしいと……、だから頼む、金などいらない! この呪われた額縁を、私の人生から消し去ってくれ!」

『えぇ、勿論です。その代わり、暗号の方も教えていただかないと』


 そう、このナチスの財宝は、絵と額だけでは解読できない。


「そうですね……。でもそれを教えたら、私を殺すつもりなのでしょう?」

『……まさか。我々は美術コレクターであって、殺人鬼ではありませんよ』


 白々しい台詞に、今度は三枝が笑った。


「ははっ、君たちがテロリストの資金源となっている組織なのは知っている。けれど、祖父の遺産を無かったことにしてくれるのだから、私は喜んで暗号を教えるよ」

『それは賢明な──』

「だが、これから言うことを忘れないで欲しい。私の腕には常に医療用ウェアラブルモニターが、装着されている。心拍、血圧、体温……私のすべてのバイタルデータは、24時間リアルタイムで特定のサーバーへと送信され続けているのだ」


 その先を察したのか、電話の相手は黙ったままだ。


「私が雇ったプログラマーが、そのサーバーに特殊な設定を施している。もし私の心拍が一定時間以上停止した場合、つまり私が死んだ場合、サーバーはそれを自動で検知し、ある「ファイル」を全世界のニュースサーバーと政府機関に一斉にばら撒くようになっている」

『……なるほど。その暗号とやらも公になる、と?』

「そのデータには、君たちがどうやって絵画を集めてきたか、どんな“いわくつき”の作品を扱っているのか――その経緯まで詳細に記されている」


 三枝の脅迫にも似た発言に、相手の男のトーンが一段下がった。


『……どうやってそれを入手したか、なんて愚問ですな。あなたも、あなたの祖父も同じ穴のムジナ、ということなのでしょうから』


 彼らと一緒に括られるのは、甚だ心外だが、三枝はそれについては語らない。


「私は、あの美術品の番人なんだ。この程度の保険は当然でしょう」


 そう言うと、電話の向こうから笑い声が聞こえてきた。


『はっはっはっ! いや、そうですな。えぇ、公の場で堂々と盗ませていただきましょう。そうすることで、あの額と先生は無関係になる。それでは暗号を──』

「それは盗んでからだ。その際、生徒には絶対に手を出すな、これが条件だ」

『ふむ……、邪魔をしなければ手を出しません。先ほども言いましたが、我々は殺人鬼集団ではありませんから』


 全く信用など出来ないが、こうして三枝とアルケナの危うい交渉が成立した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ