ファントム、協力する2
「少し前に見た時は、佐々木君の絵の方が綺麗と思えるような出来だったのに、今日見たら完璧な模写だった。いいえ、あれは模写なんて可愛いものじゃない。完全な贋作よ……!」
閉店時間を過ぎたセグレトで、ユキはそう叫んだ。
「しかも額を3Dプリンターで作るなんて、将来的にはうちにスカウトしたいくらいだね」
瀬尾はそう言いながら、PCの画面から目を離さない。
「あの額には削りこまれた暗号らしき傷まで、すべて再現されていたわ。着色は先生も手伝うって言ってたらしいから──」
「作品のすり替え、しか考えられんな」
灰島の言葉に、そこにいた誰もが頷いた。
「でも、3Dプリンターじゃ所詮、樹脂だろ? 手触りや重さで、一瞬で見破られそうじゃない?」
玲奈の素朴な質問に、瀬尾が「そうだねぇ」と答えた。
「そこは何とでもなるだろ? 3Dプリンターで作るなら、額の中身は空洞だ。そこに細工をすれば重さは誤魔化せるし、スプレーガンで手触りも再現しようと思えばできるだろうね」
贋作作りのノウハウを聞いて、マスターは「世の中、便利になりましたな」と感心しながら笑っている。
「だとしても、それに騙されるような阿呆だとも思えないけどね」
瀬尾の画面には、とあるマンションの監視カメラの映像が映し出されている。そこに車が止まり、三枝は何事もなく、マンションのエントランスへ入っていた。彼を付けている人間も、怪しい人物もあたりには見当たらない。
「ユキですら驚くような出来だ。一瞬程度ならだますことは可能。それを狙っているのか? それとも、完全に騙せるだけの自信があるのか……?」
まだ、誰もその答えを知らない。
放課後の美術室では、佐々木が最後の仕上げに入っていた。 彼の描く『名もなき貴族』の模写は、もはやユキが最初に見た時とは別物だった。完璧にコントロールされた筆致は、オリジナルが持つ拙さや歪みまでをも忠実に再現している。 そして、その隣では三枝先生が、佐々木が作った額縁のレプリカに特殊な塗料を塗り重ねていた。
「……この塗料を薄く、何層にも塗り重ねて部分的に剥がしていくんだ。そうすることで、何十年も時が経過したかのような、古びた質感を出すことができる」
元修復師としての知識と技術を、惜しげもなく注ぎ込む三枝。その横顔は追い詰められている、というより、むしろ自らの仕事に没頭する職人のそれだった。
けれどその風景は、教師と生徒ではなく、まるで職人の師匠と弟子のようで、ユキには違和感しかなかった。




