ファントム、見守る15
「さあ? その答えは、あなたたちがどこまで理解しているか次第かしら」
セレスティーナは挑戦するように、瀬尾のノートパソコンの画面に表示されたままの、『名もなき貴族』の画像を顎でしゃくった。
「その額縁……、あなたたちはそれをただの『美術品』だと思っているの?」
試すような、問いに答えたのは瀬尾だった。
「ICPOの最重要手配リストに載るほどの美術品『ロスチャイルド・フレーム』、さらに付け加えるなら、『ナチスの略奪美術品』ってことは知ってるけど?」
こちらの手の内をあえて見せたのは、この情報はすでにMI6も把握していると踏んでいたからだ。ならば彼女は、それ以上の情報を持っている――そう確信できる。
「……そこまでは合ってるわ。でもまだ及第点には及ばないわね」
値踏みでもするように、テーブルを形の良い爪でトントン……、と叩きさらに要求する。
「この額は美術品としての価値ではなく、それ以上の何かがあるってこと?」
ユキの小さなつぶやきに、セレスティーナの赤い唇が弧を描く。
「ナチスによる美術品の略奪はこれだけではない。それに、その考えを進めると、グルリット事件のようになってしまうわね」
玲奈が「グルリット……?」と聞き返すと、瀬尾は「まあ、知らないよね」と、出来の悪い生徒に歴史を教える教師のように語り始めた。
「コルネリウス・グルリット。彼の父親は、ナチス公認の画商だった。戦後、彼のアパートからナチスが略奪した、1500点以上の美術品が見つかったのさ。ピカソ、シャガール、マティス……、まさに世紀の大発見だったわけだが、別に彼が盗んだわけでもないから罪には問われていない。そもそも、発見されたのも脱税調査で分かったことだしね」
瀬尾は自分でそう説明しながら、「待てよ」と思い出したようにキーボードを叩き始めた。
「マジか!?」と瀬尾は叫ぶと、画面を灰島に見せた。
「三枝の祖父は、外交官だ!」
その任務期間は、第二次世界大戦時。
「外交官は外交特権によって、荷物検査を免除されることが多い。それを利用すれば──」
ナチスの略奪美術品を、持ち込むなんてことは造作もない。




