ファントム、見守る11
「──っ、嘘だろ!?」
思わず声を上げ、カメラが映し出した映像を瀬尾は確認した。解像度を上げ、画像を鮮明に変換する。けれど、それははっきりと彼女だと確認しただけで、彼の希望を完全に裏切る結果となった。
「くそっ……なんでこんなところに!!」
そう言いながら、彼はキーボードを叩きすぐに行動に移した。
灰島は2階の慌ただしさを感じ、そして腕に感じる振動でスマートウォッチを見た。
『ユキの学校にMI6確認、即時確保に向かう』
瀬尾からのメッセージに、灰島は眉をピクリと動かす。自分も動くべきかと、考えたがすでに瀬尾はこの店を出たあとだ。
「どうかしましたか?」
マスターも、瀬尾が店をこっそり出たことに気が付いたのだろう。穏やかな表情のまま、そう聞く彼に、灰島は「いいえ、なにも」と答えた。
瀬尾も一流のエージェントだ。彼が手伝えと言わない限り、なんとかなると判断したのだろう。そして、彼の手に負えなければ、自分にまた連絡が入る。だからそう判断し、入店して来た客に「いつものブレンドでよろしいですか」とオーダーを取った。
玲奈のスマートフォンが、静かに震えた。 普段、授業中には決して見ることはないのだが、今は警護対象がいる。だから、机の下でそっと画面を確認した。
『ユキちゃんを回収する。適当な理由で外に出して。俺が拾う』
そのメールの緊急性に、玲奈は血の気の引くのを感じた。
「先生! ちょっと気分悪いので早退します!」
「は? いやいや、元気いっぱいに見えるぞ?」
呼び止める先生を振り切るくらいは問題ない。
「お腹痛いの! とりあえずトイレ! 止めたら泣くから!!」
「へっ!? 待て、じゃなくて、紅林!?」
どう対応すればいいか困惑する先生を横目に、「失礼しまーす!」と玲奈は教室を出て、中等部を目指した。
ユキはまだ、呆然としていた。
セレスティーナ。
なぜ、彼女がここにいるのか? MI6の目的は? 私? それともあの額縁? いや、あの額縁を誰かが知っている可能性があるの?
思考がまとまらない。世界が、歪んで見える──。
その時だった。 教室の後ろの扉が、静かに開いた。
「失礼します。神崎ユキさん、いますか?」
入ってきたのは保健の先生と、心配そうな顔をした玲奈だった。
「ユキちゃん、お父さんから緊急の連絡。おばあ様の容態が……。すぐに、来てほしいって」
当然、祖母なんて知らない。けれど玲奈がここに来たのは、自分を連れ出すためなのは明白だ。
「そうなんですか? えと、あなたは高等部の……」
「紅林です。彼女と親戚なので、私も一緒に帰宅します。ユキちゃん、大丈夫? 顔色が悪いよ?」
実際、ユキの顔色は最悪だった。駆け寄る玲奈に、ユキはすがるように彼女の腕をつかむ。
「……彼女が」
そう言いかけたユキに、玲奈はなんのことか分からないが「大丈夫」と返した。
「すみません、すぐに親戚のおじさんが迎えに来てくれるらしいので、彼女と帰ります」
玲奈の言葉に、保健医も担任の藤崎も「気を付けて」と二人を教室から出してくれた。
「急いで、瀬尾さんが迎えに来てる」
「……うん」
靴に履き替え、昇降口から外に出た。そこで、玲奈は視線に気づき振り返った。
「玲奈……っ」
2階の窓から見えたのは、美しい金色の髪をかきあげる彼女の姿。
「セレスティーナ……!? なんで彼女が!?」
彼女の存在は疑問でしかなかったが、これで瀬尾が焦って回収に来た理由が分かった。だから玲奈は、ユキをかばうように急いで学園の外を目指した。
「こっちだ!」
すぐそこには瀬尾がいて、二人は彼の車の後部座席に飛び込む。そしてドアが閉まる前に、車は急発進した。
巻きあがる砂埃をみて、真っ赤な唇が弧を描く。
「まさか、こんなところで出会えるなんて……。ふふ、これは運命かしら?」
彼女はそう呟いて、スマートフォンを取り出し操作した。




