ファントム、見守る8
『ロスチャイルド・フレーム』
『美術界の闇市場で噂される、幻の額縁』
『推定市場価格:8,000万~1億2,000万』
「わお、マジですか! こっちが本命とは驚きだねぇ」
「ってか1億!? 円だよね!? ウォンとかじゃないよね!?」
「……あの違和感の正体は、額だったのね」
3人が感嘆の声を漏らす中で、一人だけ何も言わず画面の中にある『ICOP』の文字に見つめていた。
国際刑事警察機構(ICPO)が追い続ける、幻の『ロスチャイルド・フレーム』。それがなぜ、一介の美術教師の手に。
「っつか、なんでお前、これ分かったわけ?」
「……昔、ICPOの最重要手配リストを見たことがある。そこにこれに似たものを見たから、もしかしてと思っただけだ」
何でもないことのようにそう説明する灰島に、瀬尾は肩をすくめる。
「どういう記憶力してんだよ」
「瀬尾」
灰島は静かだが、有無を言わせぬ口調で命じた。
「その三枝という教師の全てを洗い出せ。金の流れ、交友関係、過去の経歴。何一つ見逃すな」
「言われるまでもないねぇ」
瀬尾の指が再びキーボードの上を踊り始める。 数分後、彼は意外な事実を、モニターに映し出した。
「うーん、特に怪しい点はないねぇ。銀行の収支も問題なく、派手な生活をしているわけでもない、渡航記録は……」
そこで、瀬尾の指が止まった。
「イタリアで美術修復師としての留学経験あり」
画面には有名絵画に囲まれ、同僚であろう外国人の修復師にまぎれ、三枝も笑っている写真が一枚。
「イタリア……、ならその時にこの額を手に入れたのかしら?」
「その可能性はあるだろうねぇ。絵を修復すると見せかけて、額の価値に気づき入れ替えた、とか?」
ユキと瀬尾の推理に、玲奈が「うーん」と唸る。
「でも、それならなんで売らずに生徒に貸したんだろう? しかも模写させるとか、意味わかんない」
玲奈の意見も、もっともでその答えは誰も持っていない。
「ま、どうでもいいっちゃどうでもいいけどね」
瀬尾はそう言いながら、彼の写真画像をモニターから消す。
「……そうね、いいんだけど……、あんなに真面目に描いてるのに」
佐々木が模写しているのは、ただの古い絵。価値あるものが額縁では、模写をする意味がない。それに対し、ユキの感情が動いている。
「そうですねぇ。なんとか、してあげたくなりますねぇ」
マスターはそう言いながら、灰島を見た。その視線に気づき、灰島は観念したように小さく息を吐いた。
正直なところ、担任が何かの犯罪を犯していたとしても、大した問題ではない。ただ、ユキの通う学園が注目を浴びるのは好ましいとは言えない。
静かに穏やかに、ただひたすら平凡な日々を望むことが、これほどまでに困難なことだとは……。
「ひとまず、逃げはしないだろうが、監視は必要だな」
教師として生計を立て、自ら生徒に絵を貸している以上、彼がすぐに逃げ出すことはないだろう。しかし、彼の真の目的は依然として不明だ。
「当たり前だろ?」
このため、瀬尾は灰島の提案通り、彼の行動すべてを監視することになった。




