ファントム、見守る3
やがて、午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
その瞬間、教室はそれまでの静寂が嘘のように賑やかな喧騒に包まれた。
生徒たちは思い思いのグループを作り、机をくっつけ楽しそうに弁当を広げ始める。
「ねえ、神崎さん、一緒に食べない?」
女子のグループの一人が、そう声をかけてきた。
「……えぇ」
一瞬躊躇したが、断る理由が見当たらない。だからそう答えると、数人の女子がユキの周りを囲み、お弁当を広げた。
「わ、そのお弁当、めっちゃ美味しそう!」
一人の子が、ユキのお弁当を見るなりそう言えば、その輪にいた女子全員がお弁当を覗き込んだ。色彩は勿論、栄養もすべて考えられた完璧なお弁当だ。
「お母さんが作ったの?」
自分にとってお母さんとは誰のことを言うのだろう? 遺伝子上の話をすれば、自分、ということになる。あくまで彼女はクローンであり、その遺伝子を操作され作られた人間なのだから。だが、彼女たちはそんなことは知るはずもなく、他意のない質問なのは分かっている。それにこれを作ったのは──。
「これは、……パパが」
「え? パパ!? 一緒に来てた!?」
「お父さんが作るんだ! 凄い! シェフか何かなの!?」
「あ、もしかして世界的に有名な人とか!? だから英語もペラペラなの!?」
勝手に盛り上がる彼女たちを、まるで展示された動物でも見るような目で見ていた。こんな話題で、どうしてここまで笑えるのだろう。
「……別に、有名でも何でもないよ。今は喫茶店の店員だし」
いや、とある世界では有名だが、彼女たちはその世界を一生知ることはないだろう。
テンションが低いままのユキの返事に、彼女たちも「そ、そうなんだ」と、わずかにテンションを落とした。
どんな話題を振っても、こんな調子だ。
気づけば、彼女たちの関心はユキから離れていった。
「昨日のアイドルの配信、マジで神だったよね!」
「衣装がさ、星のモチーフで超かわいかった!」
でも──、この状況はマスターや玲奈が期待している学生生活ではない。それが分かるから、ユキは話題に入ろうとタイミングを見計らって口を開いた。
「星といえば、昨日の夜はペルセウス座流星群のピークでしたね。最大で1時間に80個以上の流星が観測されたはずです」
沈黙。
誰も返事をしなかった。
ユキは、また一つ間違えたと理解した。




