29話 決戦の始まり
紗央里視点
「紗央里、紗央里! しっかりすんだ!」
誰かに呼ばれて目を覚ますと、そこは小さな部屋だった。木製の机やタンスが置いてある。壁際には簡易ベットも設置してあった。
(ここは……天音さんの部屋だ。確か真相を確かめるために潜入して……)
体を起こすと、ズキンッと鋭い痛みが首に走る。
(そうだった、確か潜入したら天音さんに見つかって……)
「ねぇ、ミト、お願いがあるの。恵ちゃんにこの日記を届けて。あと、私のダイヤのカードも一緒に渡して」
紗央里はハンドタオルを取り出すと、天音の日記とダイヤのカードを包んで。ミトの首に括り付けた。
「紗央里はどうするんだい? 部屋の扉は鍵がかかっていて開かないんだ。多分鍵は天音が持っているよ」
「大丈夫、自分で何とかするわ。だから恵ちゃんの元に向かってあげて」
紗央里はヘアピンを取ると、鍵穴に入れてガサゴソと作業を始めた。
「後でちゃんと天音に謝るんだよ」
「もちろん、全てが終わったら謝るわ。恵ちゃんの事をよろしくね」
ミトはコックリと頷くと、フワッと消えていった。
* * *
恵視点
「よかった〜 紗央里さんは無事なんだね!」
私はホッと胸を撫で下ろすと、自分の部屋のベットに腰を下ろした。
「恵、預かっている物があるんだ。確認してほしい」
私はミトの首に括り付けられたハンドタオルをほどいてあげた。中には日記とダイヤのカードが入っている。
「これは誰の日記なの?」
「読めば分かるさ」
私は日記を開くと、取り憑かれた様に読み進めた。
「ねぇ、ここに書いてある事って本当なの?」
「うん、間違いないよ。ボクもこの目で見てきたから断言するよ」
私は日記を閉じると、カーテンを開けて空を見上げた。どんよりと鉛色の雲に覆われているせいか薄暗くて不気味に感じる。
(玲奈ちゃん、もう少しだけ待っていてね。必ず願いを叶えてみせるから!)
* * *
千夏視点
「優奈、お見舞いに来たよ」
千夏はいつも通り病院によると、大切な妹の顔を見にやって来た。
「あっ、お姉ちゃん! 今日も来てくれてありがとね!」
優奈は姉の姿を見るとパッと明るい表情になる。
「どう? 体調の方は?」
「うん、大丈夫そう。これなら手術もきっと成功するよ!」
優奈はニコッと白い歯を見せて微笑む。でも千夏は曖昧な表情で頷いた。
優奈がこれから受ける手術はとても難しい。成功する確率は極めて低いし、後遺症が残る可能性があると医者から言われた。
「ねぇ、お姉ちゃん、またこれを持っていって」
優奈は引き出しからハートのエースを取り出す。
「ありがとう。でも、大切な手術を控えているでしょ? これは優奈が持っていなさい」
「大丈夫だよ。ほら見て!」
優奈はもう1枚のカード……ハートの7を見せてくれた。
「この前少しだけ一緒になったお姉ちゃんがくれたの。ラッキーセブンは幸運の証。だからきっと成功するよ!」
「そうだったの……じゃあそのお姉さんの為にも頑張らないとね」
千夏はハートのエースを借りると、優奈を優しく抱きしめた。
(このカードのおかげで優奈は今日まで健やかに過ごせた。出来る事ならかたときも離したくない。でも、相手はあの恵だ……全力を出さないとやられる……)
「それじゃあもう行くね」
「うん、いってらっしゃい!」
千夏は病院を出ると深く息を吐いて空を見上げた。どんよりとした雲が広がり、今にも嵐が来そうだった。
(次こそ必ず倒す。恵は強敵だ。初めから全力を出す!)
千夏の願いはただ1つ……優奈の病気を治すこと。
(優奈、貴方を助けるためならお姉ちゃん何だってするからね。例えこの手を血で染めたとしても……)
* * *
勝視点
「ようやく準備が整った……」
勝はとあるビルの屋上から街を見下ろして不気味な笑みを溢した。
目的は違うが勝は世界をリセットするために、天音は闇を誘き出して封印するために、それぞれの思惑で集めた負の感情がついに満たされた。
黒い雲が空に広がり、雷鳴が響き渡る。そして漆黒に染まった闇が顔を見せた。
「さぁ、最後の戦いを始めよう……」
* * *
恵視点
──今朝、突如として発生した台風は勢力を上げて日本列島を横断するもよう……専門家の話によりますと、5年前の異常気象よりも勢力が強いとの事です。すぐに命を守る行動をお願いします。
最後の戦いは警戒アラートによって開始を告げた。自分の部屋に不気味なアラート音が鳴り響く。私はそっと部屋を出ると、玄関に向かった。
「ねぇ、お姉ちゃん、どこに行くの?」
靴に履き替えて外に出ようとした所を、妹の実里に呼び止められた。
「実里……ごめんね、お姉ちゃんどうしても行かないといけないの」
「ダメだよお姉ちゃん、外は危険だよ! お願い行かないで!」
実里はギュッと私の背中にしがみつく。
「大丈夫。必ず帰ってくるからね」
私は優しく実里を引き離して外に出ようとした。でも今度はガシッと誰かに腕を掴まれる。
「恵、一体どこに行くつもりなの?」
凍りつくような冷たい声がして振り返ると、母親が目鯨を立てて私を見ていた。
「お母さん……私どうしても……」
パシーンっと乾いた音が響く。しばらくしてからジンジンと痛みがやって来て頬が熱くなる。
「恵! いい加減にしなさい! 一体今まで何をしているの? いつもいつも怪我をして帰ってきて、入院までして……どれだけ心配しているか分かっているの⁉︎」
母親は声を荒げて私の腕を強く握りしめる。でも、ここで引くわけにはいかない!
「………ごめんなさい。でも、どうしても行かないといけないの! ここで行かないと絶対に後悔する。だからお願い!」
しばらくの間睨み合いが続いた。きっと目を逸らしたら負ける。一体どれくらい経過したのだろう? 実際は1分も無いけど、体感では1時間近く感じた。
長い長い睨み合いの末、先に折れたのは母親だった。
「分かったわ。でも、危ないと思ったら走って逃げるのよ」
「うん、行ってきます!」
「お姉ちゃん、絶対に帰って来てね!」
私は母親と実里に手を振ると、外に一歩を踏み出した。
* * *
「ミト、いるよね?」
私は周りに誰もいない事を確認すると、小声で呼びかけてみた。
「もちろんいるよ、恵」
ミトはフワッと現れて私に飛びつく。
「ねぇ、なんだかとてつもない闇を感じるの。これって天音さんの日記で読んだ状況と同じだよね?」
「そうだね……どうやら凶源の闇を誘き出すのに成功したみたいだ。このままだと世界が闇に覆われて……」
「全てリセットされる……だよね?」
私はミトが言おうとした事を引き継いだ。ミトはコックリと頷く。
「きっとこれまでで1番危険な戦いになる。でも、これが最後の戦いだ。覚悟は出来ているかい?」
「もちろん! 早く止めに行くよ!」
街の中央に向かうほど、天候は荒れて激しい雷鳴が走る。間違いなくこの先に凶源の闇がいる!
普段の見なれた街並みが今日はとても不気味に感じた。生暖かい風が頬を撫でる。
「待ちなさい!」
全力で走っていると、突然誰かに呼び止められた。振り返らなくても分かる。その声を聞いただけで全身から冷や汗が吹き出して、嫌な記憶が湧き上がってきた。
「恵、今日こそ決着をつけてあげる!」
ゆっくりと振り返るとそこには千夏さんがいた。とても逃げられそうにない。今背を向けたら間違いなく襲ってくる……
「千夏さん……今は凶源の闇を何とかしないと世界がリセットされるんです。戦っている場合じゃありません!」
「いいから戦いなさい!」
千夏さんはカードを取り出して低く構える。どうやら争いは避けられないようだ。
私は覚悟を決めると、スペードのカードを天に掲げて声高らかに宣言した。
ご覧いただきありがとうございました!
次回も18時頃に投稿します。あと5話で完結です!




