30話 恵vs千夏②
「スペードのカードは騎士の証。その剣で全てを切り裂け!」
カードから飛び出した無数のスペードマークが私の体を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。
ピンク色のスカートに白シャツを合わせ、タケシード風の黒いジャケットを羽織っている。そして左目にスペードのマークを宿していた。
「全力で行きます!」
「望むところよ!」
千夏さんはクラブのカードを取り出して空に掲げた。
「クラブのマークは力の証、今こそ示せ底力!」
カードから飛び出したクラブのマークが千夏さんを包み込む。そして1人の戦士が立っていた。
黒のロングパンツとジャケットに身を包み、カードが自分の背丈ほどある棍棒に変化する。そして左目にクラブのマークを宿していた。
変身はまだ終わらない……
「優奈、力を貸して!」
千夏さんはもう1枚のカード……ハートのエースを空に掲げた。
「愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!」
カードから飛び出したハートのマークが、千夏さんの周りを包み込む。赤い髪がさらに色味を増して光輝く。そして空いていた右目にハートマークが宿っていた。
「行くわよ!」
最初に仕掛けてきたのは千夏さんだった。巨大な棍棒を私にめがけて振り下ろす。
何とか剣を横に構えて受け止めたが、重い一撃に膝が地面についた。手が痺れて痛い……でも休んでいる暇はない!
「砕け散れ!」
千夏さんが大きく棍棒を振り上げる。すかさずガードの姿勢を作ったが、千夏さんはニヤリと笑みを浮かべた。
嫌な予感がしたが気づくのが遅かった。千夏さんは棍棒を放すと、流れるような動作で回し蹴りを放った。
「うぐぅ……」
強烈な蹴りがみぞおちに突き刺さる。私はお腹に手を当ててその場に倒れ込んだ。
「げほっ、ごほっ……私を殺して優奈ちゃんの病気を治したいんですよね? でもこんな方法で優奈ちゃんを──ぐっ……うぅ!!」
さらにもう1発、強烈な蹴りがみぞおちに直撃する。あまりの痛みに言葉が途切れて体が痙攣する。
「どうしてその名前を知ってるの!? 気安く呼ばないで! あんたには関係ないでしょ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……そんな事ありません、私だって大切な妹がいるので気持ちは分かります……」
私はよろよろと立ち上がると、入院した時に出会った優奈ちゃんの事を思い出した。
明るくて元気で思いやりのある優しい子だった。マジックを見せると喜んでくれたし、千夏さんの事をとても信頼していた。
「妹がいる? だから何よ! 優奈は昔から体が弱くてずっと病院生活で……しかも余命があとわずかなのよ! 他の子と一緒にしないで!」
千夏さんは怒りを乗せて棍棒を振り下ろす。
「もちろん一緒とは思いません。千夏さんと優奈ちゃんが向き合ってきた苦しみは……私の想像以上だと思います!」
私は全体重を乗せて剣を振り下ろした。
「私の妹……実里は学校に行けず苦しんでいます。だから少しでも元気になってほしくてマジックを覚えました」
棍棒と剣がぶつかって、ギシギシと嫌な音を立てる。
あの頃はどう接すればいいか分からなくて大変だった。でも、マジックを見せたら少しだけ喜んでくれた。初めて笑ってくれた日の事は今でも忘れられない。
「優奈ちゃんと比べるのはおこがましいと思いますが、『妹を助けたい!』っと思う気持ちは私も同じです!」
私は畳み掛けるように話し続けた。少しだけ千夏さんの力が緩んだ気がする。
「もし私が千夏さんの立場だったらきっと同じ事をすると思います。自分の手を血で染めても妹を助けると思います!」
千夏さんは一瞬だけ微笑むと、まるで友達にお願いをするような優しい声で話かけてきた。
「じゃあ、大人しく死んでくれる?」
「それは……無理です。千夏さんだってもし私の立場だったら大人しく死なないですよね?」
「それもそうね……」
千夏さんは少しだけ悲しそうに目を伏せると、迷ういを振り払う様に首を振った。
「ごめんね恵、もし事情が違ったら貴方とは友達になれていたかもしれないのに……」
千夏さんはバックステップで距離を空けて棍棒を私に向ける。
「その言葉が聞けただけでも十分です」
同じ闇と戦うもの同士、本当は協力したかった。でも『1番優秀な魔法少女の願いを叶える』っと天音さんが決めたせいで悲劇が始まった。
もちろん天音さんの考えも分かる。凶源の闇を封印するには、まず誘き出す必要がある。そのためには怒りや疑心がなくてはならない。
だから私たちを競争させた。作戦は狙い通り成功して、千夏さんは暫定位1だった私に怒りを覚え、私は天音さんに疑心を感じた。
でも、こんなの辛すぎる。他に方法はなかったの?
「いくわよ、恵、覚悟しなさい!」
千夏さんはハートのカードを撫でると、自分自身を奮い立たせる様に宣言をした。
「水に属する星座たちよ、アタシに水の加護を与えよ!」
千夏さんの周りに水溜まりが発生する。そして人の形をした分身が10体現れた。
「行きなさい!」
10体の分身が一斉に襲って来る。私は胸に手を当てると、玲奈ちゃんの事を強く思い出した。温かい風が私の頬を優しく撫でる。
「風に属する星座たちよ、私に風の加護を与えよ!」
私は肩の力を抜くと、風に身を委ねて剣を構えた。
「追風!」
地面から足が少し浮いて体が軽くなる。私は滑る様に移動しながら反撃した。
1体、また1体と分身が消滅していく。そして最後の分身を倒し終えた。
「やるわね……だけど、これならどうかしら?」
千夏さんが指を鳴らすと、また分身が現れた。数は50、60……100体は居るかもしれない。360度、何処を見ても逃げ場がない。私はジリジリと中央に追い込まれていった。
(これは……まずい、どうしよう?)
最初は対応できていたけど、だんだんと余裕がなくなってきた。切っても切っても次から次へと襲ってくる。
倒した分身はただの水となって地面を濡らす。それが思わぬ脅威となって私に襲いかかってきた。
(はっ……‼︎ しまった!)
追風が解けて地面に足がついた時だった。ツルッと滑って体勢が大きく崩れる。どうやら濡れた地面に足を取られてしまったようだ。転けた拍子に手から剣が離れて飛んでいく。
「今よ! 止めを刺しなさい!」
千夏さんの命令で分身達が一斉に突撃してきた。剣を拾う? でもこの距離だと間に合わない! 何か打開策は……
──恵ちゃん、私の力を使って!
必死に頭をフル回転していると、紗央里さんの声が聞こえてきた。そうだ! まだその手があったんだ!
(紗央里さん、力を貸してもらいます)
私はポケットに入れておいたダイヤのカードを取り出すと、力強く宣言した。
「キラリと輝くダイヤの光。その力で闇を照らせ!」
カードから飛び出したダイヤのマークが私を包み込む。ピンクの髪に金色のメッシュが入ってキラリと輝く。そして空いていた右目にダイヤのマークが宿っていた。
「ゴールドラッシュ!」
カードから飛び出した無数のコインが分身達を倒していく。100体ほど居たのに、綺麗さっぱりいなくなった。
「これで終わりです!」
私は千夏さんに狙いを定めて放った。一直線に飛び出したコインがダメージを与える。
「この程度の攻撃、痛くも痒くもないわ!」
千夏さんの言う通り、ハートのカードに触れると傷が塞がっていく。あの回復力をどうにかしないと勝ち目がない……
「まだです、紗央里さんの力はもっと凄いんです!」
私はダイヤのカードを前に出してコインを放とうとした。でも……
「あら? 弾切れかしら?」
カードからは何も出なかった。
「………」
私は何も言わずにガードを捨てると、地面に転がっている剣を拾って勝負に出た。この一撃で終わらせる!
「太刀風!」
風の斬撃がビュユン! っと音を立てて飛んでいく。でも千夏さんは避けもしないで突っ込んできた。
風の刃が千夏さんの肌を傷付けて鮮血が飛び散る。さすがに痛そうに顔を歪めたが、すぐにハートのカードに触れて傷を癒した。
「これで終わりよ、劫火粉砕!」
千夏さんの棍棒に火がまとわりつく。あれをまともに受けたらやられる。相打ち覚悟で挑んでも回復されて負ける。勝負はこの一瞬だ!
「ゴールドラッシュ!」
さっき捨てたダイヤのカードが光輝いて1枚のコインが飛んでいく。狙いを定めて放った一撃は千夏さんが持っていたハートのカードに見事的中した。
「なっ! どういう事?」
ハートのカードがヒラヒラと舞う。私は怯んだ隙に剣を振った。棍棒が宙をクルクルと周りながら飛んでいく。
「勝負ありです」
私は千夏さんの喉元に剣を突きつけた。
ご覧いただきありがとうございました!
次回も18時頃に投稿します。後4話で完結です。




