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チェックアウトは一月六日の午前中だから、ここにはあと四泊する。宮古から東京までの航空便を予約してある。つまりそれまで、この島から出られないというか、出るつもりはない。なにしろ、まだ休暇中なんだぞ!
どん亀のくれた短艇を利用すれば、地球上どこでも簡単に行けるけどね。
鈴佳はスパがお気に入りで、「あたし綺麗になる」と鼻息も荒く、毎日予約を入れている。あれって、毎日利用するものなのか?
スパの後の昼寝に付き合い、その後遅い昼食を摂った。SASFかウーラムのどちらかから接触があるかと思ったが、気配も無い。奴ら、何しに宮古島に集まっているんだ?
どん亀の報告から、スーパー・ヨットに乗って来たのはやはり、ウー・シェーレンとその随員と分かった。ヨットは接岸せず、平良港の沖合に停泊している。ゲストとしてはSASFの関係者と思われる白人が二人同乗しており、それに今は橘優奈と安西所長が加わった。
船内の様子は、どん亀の送り込んだ昆虫ボットが二十四時間モニターしている。ただボットを送り込んだのはヨットが宮古島に着く二時間前のことで、それ以前に奴らが何を船内で話していたかなどは分からない。
けっこう風が強く、ピンポイントでボットを投入するまでに手間取ってしまったんだ。明るい海上で短艇を接近させると、いくらステルスとは言っても視認される可能性があったからな。
留守にしている家の方は、どん亀が配置した警備ボットが見回っているが、今のところ侵入者はいないそうである。元牧場だった土地は広くて、家のある場所からほぼすべてが見通せた。県道までは下りの一本道で、両側の雑木や茂みはきれいに刈り取ってあるから、発見されずに家にたどり着くこと自体難しい。
それこそ山城智音がやったように、夜間に徒歩で接近するしかないが、まだ試みようとする者は無いようだ。俺たちが帰るまでに誰かがやって来るのだろうか?
三箇日が過ぎて北の風がピッタリと止み、陽が射すと昼過ぎには二十五度を超えるようになった。北から来た人間には、「本当に一月か?」としか思えない。
鈴佳はホテルのショップで水着を買ってきた。ワンピースだが、派手に背中が露出している銀色のやつだ。それでテラスに出てビーチチェアを平らにして、日光浴を始めた。日焼けしたいらしい。えっ、違うのか? 日焼け止めを塗ってる? 沖縄に来たら水着だって? よく分からん。
ビーチをテラスから眺めていると、鈴佳と同じような気分の奴らがいるようで、海に出て遊びだした。
「海に行こうよ」と、鈴佳が言う。
「海の水は冷たいぞ」
「暑いんだからいいじゃない」
「暑い時にいきなり冷たい海に入ると危ないんだぞ。心臓に悪い」
「ホントに、じじむさいんだから!」
「何だと」
てな具合に軽い口喧嘩をして鈴佳は海へ、俺はふて腐れて寝転び、テレビで正月番組を見ていた。そこへ山城智音から、下地島空港へ着いたという連絡が入る。どうもビジネスジェットをチャーターして来たらしい。
「さすがトライデントだな。金が余ってる」
「機材持ち込みのための、必要経費です」
皮肉交じりに言った俺の言葉に、智音のビジネスライクな声が返ってきた。
「機材?」
「連れて来たガードたちの道具です」
「おいおい」
その道具のせいで、橘光一の件で面倒事が引き起こされたばかりだぞ。
「シンガポールの裏社会には、汚れ仕事を請け負う軍人崩れのタフな連中がいます。中国や日本の隣国の出身者が多いようですが」
「それで?」
「ウー・シェーレンがその種の人間を呼び寄せ、寄港した台中で乗船させたという情報があります。護衛と言うには、いささか物騒な顔ぶれのようです。台中には国際空港がありますし、確かに交通の便は良いのですが、わざわざ台湾海峡を通過するコースを選んで台中港に寄っています」
「普通に民間船が通行しているし、距離的にもあそこを通った方が近いだろう」
「急ぐなら寄り道せずに来たはずです。私ならそうします」
「じゃあ、港に入ったのは何故だ?」
「空港でのセキュリティ・チェックを通せない荷物を持ち込んだのでしょう」
「武器か!」
「自動小銃か軽機関銃あたりを台湾で調達し、ヨットに運び込んだのだと考えます。あそこの裏社会には、大陸から武器を持ち込む非合法のルートが、確実にあるはずです」
「使う可能性が低いなら、そんな手間を掛けるはず無いか。そんな危ない橋を渡るつもりなのか?」
「シンガポールでの武器規制はかなり厳しいです。小火器を発砲してただけで厳罰に処されます。自己防衛目的での所有も認められていません」
「厳罰?」
「鞭打ちとか禁固刑とか死刑ですね」
「鞭打ち……とか、死刑?」
「強盗犯が拳銃を使用して被害者が負傷した事件の裁判で、武器を持っていなかった共犯者にも死刑が科された例があります」
「そんなリスクを何故冒す?」
「まあ、こっちの国の官憲はゆるいですし、そもそも彼らのような人種は、自分はどの国の法律にも縛られない、金と権力を持っているから……と、考えているのでしょう」
「その推測は、どの程度確実なんだ?」
スマホ越しに話す智音の声は、少し途切れた。確信が無いというより、俺にどう説明しようかと考えているのだろう。
「両面作戦で来て、ソフトな接触を図り、バックアップとして暴力的な手段を考えている可能性は確かにあります」
それでも暴力の可能性は排除できない、いや確実に準備されていると見る訳か。多分トライデントも、世界のどこかで同じようなことをしているのだろう。
「この時期になって手を出してくると言うのは、一発逆転を狙っているのでしょう。何しろ今回の供給ルートは、ミスターLが確保し、全世界に向けて動き始めています。これを横取りしようというのですから。それはボトルネックになると思われる、その……」
「俺の身柄を手に入れるしかない、というわけか」




