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満月の夜の来訪者

イリアさんの過去の話もしれた。

過去は所詮過去。イリアさんはそう言ってはいるが

過去があるから今がある。流れを知れるというのは大きいだろう。


でも、あんな昔の話…イリアさんは出来れば話したくは無かったはずなのに。

それでもイリアさんは俺達に全てを話した。

信頼の証として、俺達に知られたくない昔の話をしてくれたんだ。


そうなれば、俺達も昔の話をするべきなのだろうか?

だが、俺はこの身体。セイナ・ドライの過去は知らない…筈だ。

でも、何だか少し引っ掛かるところはあるけどさ。


ルアの発言もあるし…俺は本当にこの身体の過去を知らないのか?

必死に頭を回したら出て来たりしない?

頭に指先突っ込んでグリグリしたりすれば…

なんて芸当が出来るのはラキ位かな、吸血鬼だし。


「…うーん」


イリアさんの話を聞かせて貰った日の夜。

満月の月を眺めながら、そんな事を考えてみる。

しかし、夜で満月とか、吸血鬼でも来そうだな。


「……ま、街中に吸血鬼とかあり得ないか」

「吸血鬼は満月の夜、美少女が住む部屋に姿を見せ、その少女を攫うもの」


そんな小さな声が聞えた方を見てみると、窓の向こうにラキが居た…

いやまぁ、噂をすれば影がさすとはよく言うが…唐突すぎるし

そう言う場面って、大体背後から出てくるもんじゃありませんかねぇ?


「……攫うも何も、お前窓の向こうじゃん」

「入れて」

「やだ」

「お願い入れて、許可が無いと入れないの」

「おい、いつぞやじゃ、窓突き破ってきてませんでしたかね?」

「大きい音を立てると騒がれるから」

「じゃあ俺が騒ごうか? 化け物だーって」

「止めて、暴れるよ?」


まぁ、イリアさんの家で大暴れされても困るしなぁ。


「……じゃあ、騒ぐのは止めるが…何でここに来たんだよ」

「あなたを眷属にしに来ました」

「丁重にお断りさせていただきますのでさっさと帰れ」

「帰らない」


なんでこいつ、当たり前の様にここに居るんだよ。


「しかし、よくイリアさんが持ってる土地に侵入できたな」

「あなたの名前を出したらあっさり通してくれたの」

「イリアさん…ちょっとドジなんだな」


こいつの事、全体に知らせていなかったのか。

しかも何かあっさり通すって言うのもまた不思議。

あれかな、俺達の知り合いなら問題無いとかって言う判断かな。


「ね、入れて。外ってちょっと寒いの」

「おいおい、体温とか無いんじゃねーの? アンデッドだし」

「いや、私は寒いとかあるから」

「…まぁ、襲わないと約束すれば入れてやっても良い。

 暴れないか? 騒ぎにしないか? そもそも何で来たし」

「や、約束はちょっと…一時的に襲わないなら了承できる。

 あ、一時的というのは今回は襲わないという意味で、次は襲う」

「なら入るな、そのまま震えてろ」

「…いやうん、それでも良いんだけど」


何か、最初と比べるとかなりフレンドリーになってやがる。

今回は敵対心を抱いているわけでは無いのかも知れない。


「…まぁ、今回は恩もあるから騒ぎにするつもりは無いんだ」

「恩? 何の恩だよ」

「私達を見逃したこと。あなたは私とネクロを見逃したから」

「……そんな事、したっけかな」

「覚えてない? 私が吸血したらいきなり暴れ出した。

 異常なほどに速くて、私もその速さには付いていけなかった。

 あれほどの力があったとは思わなかった」

「俺は覚えてないが…しかし、礼を言うためだけにわざわざここに?」

「ん、お礼は言わないといけない。助けられたんだから」


り、律儀な奴め…やっぱり吸血鬼という種族は律儀なのか?

俺が知ってる作品の吸血鬼って、大体律儀だし。


「恩がある以上、私はあなたに下手に手出しは出来ない。

 一応、ネクロにも襲撃は止めるように言ってるから安心して」

「ネクロマンサーか…了承してくれたのか?」

「渋々了承してくれた」

「だが、お前らに襲撃を指示した奴は?」

「大丈夫、どうせ私達はもう死んでると思ってるだろうから。

 そもそも、末端でしかない私達に興味は無い」

「末端!? お前が!?」

「私、やる気が出ないと何もしないから」

「襲撃してきたのに?」

「あなたに興味があったからあの時は襲撃しただけ、今は興味しか無いけど。

 大人しく私の眷属になって欲しい、今でもなって欲しい。魅了されても良いのよ?」

「ふ、確かに引き締まったボディには興味はあるが残念だったな

 俺には既に、超絶可愛い妹が居るからな、浮気する気は無いんだ」

「……変態さん」

「あの、俺にめっちゃ執着してるあなたには言われたくないんですが」

「見た目同じ小さい子だしセーフ、同性でも問題無い。と言うか生やしても良いし」

「何を!」

「でかくするだけだから大丈夫」

「だから何を!?」

「体験する?」

「しない! 断じてしない! 体験も何も、お前はそもそも部屋には入れてすら居ない」

「体験させてあげるから、私を部屋に入れて」

「怪しい勧誘は断るのが基本です」

「む、強情な」


はぁ、何かなぁ、2回対峙したとき、めっちゃヤバそうな感じだったのに

いざこういう風に敵意なく話されると、何か全然雰囲気が違う。

最初の方はただひたすらに残忍で凶暴なイメージしか無かったが

今、こんな風に話をしてると、律儀でお茶目さんって感じだ。

下ネタに対して下ネタで返すようなユーモアもある。


「しかし、意外と種族が同じなら、仲良く出来たかもな」

「違っても仲良く出来る。仲良くしよう、私の眷属として」

「それは仲良くとは言わない。上下関係出来てたら駄目だろ」

「ん、でも、仲良くはなれるかもしれない。

 でも、私はあなたに戦いを挑み続ける」

「どうして?」

「眷属にしたいというのは大きな理由…でも、私は負けず嫌い。

 私は勝つまで戦うの。今の所は1勝2敗、少なくともあと2回は戦う」

「へぇ、そいつは楽しみだ。俺もそう易々とは負けてやらねぇけどな」

「初めて私が勝つために努力しようと思った相手があなただから。

 次は負けない。でも、一時休戦。恩を返さないと戦えない。

 借りっぱなしは嫌だ。貸し借り無しの状態で戦いたいから」

「そうかい」


本当律儀な奴だよな、こいつは。

何かあったとき、助けて貰えることを祈ろうか。


「…私はそれを伝えに来た、それと1つ伝言。ネクロから」

「ん?」

「私もあなたを気に入った。狙うから、らしい。

 私の獲物なのに酷いと思うけど、一緒に狙う事にしたの」

「2対1とか酷いなぁ、しかしあれだな、モテる男は辛いねぇ」

「馬鹿な事を言う、あなたは女の子。モテる乙女は大変ね」

「はは、まぁ俺達の家系って奴はモテるのかも知んねぇな。

 マリスも俺とクロの2人にモテモテだぜ」

「不思議、あなたと妹は似てないのに」

「よく言われる、性格面でも見た目的にも違うって。

 でも、マリスもああ見えて俺と似てて頑固だぜ?」

「ふーん、意外」


確かにマリスは頑固には見えないからな、でも結構頑固者だからな。

そして意地も張る。その結果がこの短期間の異常な程の成長だろう。

最初は小だった弓術が、この短期間で実力だけで大にまで伸びているんだから。

あいつの才能は計り知れないね、全く自慢の妹だよ。


「それじゃあ、話を戻す。ネクロからの伝言は

 私の名前はサン、次に会うときまでに覚えておくようにって」

「サンね、能力陰湿なのにサンとは意外だね」

「能力は望んで得た物では無い、でも、何処かで吹っ切れたんだと思う。

 性というか、どうしようも無い事だからね。

 私がお昼は出歩けないと言うのと同じ。

 髪の毛が伸びていくのと同じ、どうしようも無い事だからね」

「…そうか」

「じゃあ、また会おう」

「…おい、その前に何か食っていくか? 菓子ならあるぞ」

「…あなたの血をくださいな」

「おいおい、それは高いぞ?」

「そ、ならお菓子で良い。入れて」

「……襲おうとするなよ?」

「しない、少なくとも今は」

「今は…ね」


ちょっとだけ笑みをこぼしながら、窓を開けてラキを室内に入れた。

そして、イリアさんから渡して貰っていたお菓子を机の上に出す。


「……変な気分、あなたとお菓子を食べるなんて」

「俺もだよ、化け物だと思ってた奴と話して菓子食うとは思わなかった」

「……でも、悪くない気分」

「俺もだ」


ほんの少しの間だけ、俺達は一緒に会話をして一緒に菓子を食った。

時間にして、僅か10分程度だろうが、何だか濃密な時間だった気がする。


「…ありがとう、中々有意義な10分間だった」

「俺もだよ、今度会うときはまだ敵対はしてないんだよな?」

「恩を返していないからね、襲いはしない」

「じゃ、今度会う時を楽しみにしてるよ、吸血鬼」

「吸血鬼との再会を楽しみにする奴は珍しい。

 でもまぁ、悪い気分じゃ無いね、楽しみにされてるってのも。

 それじゃあ、また。必ず私はあなたの前に現われる。

 何度現われるかは、あなた次第だけどね」


そう言い残し、彼女は飛び降りて姿を消した。

ここは3階位だったと思うが…やっぱり吸血鬼ってのは頑丈だね。


「……お姉ちゃん? んー…誰か来てたの?」

「ん? あぁ、そうだな。ちょっとしたお客さんが来てたんだ」

「そうなんだ、もう帰ったの?」

「あぁ、帰ったよ」

「そっかぁ…じゃあ、一緒に寝ようよ、お姉ちゃん」

「お、おう…」


ま、マリスの積極的なお誘いが! あぁ、やっぱりマリスは可愛いなぁ!

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