イリアさんの過去
真実の過去、嘘の過去を誰かに伝えることはたまにあるけど
この過去は正真正銘の私自身の昔話。
とは言え、これは私の両親の物語でもある。
確かに私の昔話ではあるのだけど
この物語の主役は私では無く私の両親。
あまりにも甘く、慈悲深い私の両親の末路を語るわ。
私の自慢の両親…その過去を。
昔々、ある所に商人がおりました。
この商人は毎日の様に街を歩き回り必死に集めた品物を売っていました。
今の様に店を構えることはなく、移動を行ない売る古いやり方。
でも、私はこのやり方が好きでした。
何故なら、色々な人の出会いがあったからです。
特に、私の両親は色々な人と出会い、色々な話をしておりました。
ある時は貧困ゆえに薬が買えない貧乏な家の娘。
ある時は家から追い出されて食べる物が無い子供。
昔は今ほど治安がよくなかったから、そんな子は沢山居たわ。
私の両親は、そんな子供達や大人達に対し、無償で品物を分け与えてた。
薬が買えない貧乏な家の娘には、父親の病に効くお薬を。
追い出されて食べる物が無い子供には大きなおむすびを。
当然、薬は高いし米はもっと高いわ。
その時は今ほどにまわりも開拓されていなかったからね。
土地も少なく、人も少ない環境では高価な物だった。
でも、そんな慈善行動ばかりして居た両親は、いつしかお金が尽きてしまった。
それでも、貧しさに喘ぐ人達の為に、色々な所からお金を集めてきては
そのお金を使い、貧困な住民達に尽くしたの。
「……そんなに優しい人だったんだ」
「えぇ、私の自慢の両親よ」
でも、そんな行動を不服に思う人達が生まれてきたわ。
貴族連中はね、そう言うのがあまり嬉しくは無かったの。
何で私の両親を狙ったかはいまいち分からないんだけど
その貴族は、いつもご飯を与えている家庭にある依頼をした。
無理難題を押し付けろって。これは子供が教えてくれたわ。
事が終わった後にね。
その家の家族は娘が貴族を傷付けたせいで大金をせびられている。
このままだと、私達は貴族に殺されてしまう。
100万ゴールドを払えば許してくれるそうだけど、私達にそんなお金は無い。
そう、私の両親に告げたわ。
「え? それって…」
「お察しの通り、デタラメよ」
でも、私の両親はそのデタラメを信じて大金を借り、その家に渡した。
いつか必ず返すと言っては居たけど、当然だけどね、彼女達は帰ってこない。
最終的に私の両親は借金返済に追われることになる。
私が7歳の頃よ、私の家は崩壊した。
そんな大金が当時の私達にある筈も無く、そのままね。
で、返済のかたとして、私の母さんは連れ攫われた。
本当は、私も攫われる予定だったらしいけど
母さんと父さんの懇願で私は無事だったの。
だけど、母さんは攫われた。父さんは母さんを取り戻す為に
必死にお金を稼いだけど、結局返済日には間に合わなかった。
その後、父さんは心労からか病床に伏した。
この時の私は9歳、私はどうしようかと本気で迷ったわ。
母親は攫われ、父親は動けない状態になってしまった。
そして、私はとある覚悟を決める。
商人になって、母さんを助けるという覚悟を。
私はね、自分自身をかたにして、父さん母さんがお金を借りた奴らから金を借りた。
男達はニヤニヤと私の申し出を受けて、条件として
前の借金も一緒に返せという形で私は金を借りたの。
「……そんな無茶を」
「無茶? 馬鹿ね、私は子供の頃から私よ?」
当然、策はあった。私はこの時に株という資金繰りを知っていたからね。
勿論、それがなんなのかも必死に調べて、商売の基本だって必死に調べた。
とは言え、株で儲けるには、まず手持ちを増やす必要があったの。
だから私は、子供であると言う優位性を利用して
貴族達に上手く取り入って色々な商売をしたわ。
貴族の連中はちょっと褒めれば天狗になって、簡単に商品を買ってくれた。
そうして貯めたお金を、私は株に投資する。
投資した会社は私の予想通り、大きな急成長を遂げたわ。
その企業は私の援助のお陰で大きくなれたと深く感謝してくれていた。
そして、私の手元には1000万ゴールドの大金が入って来た。
「1000万ゴールド!? そ、そこまで!?」
「えぇ、今じゃ私の傘下企業だけどね」
「最初、どれだけ借りたんですか!?」
「100万ゴールド、悪くない伸び率でしょ?」
「そんなに!? か、貸してくれたんですか!?」
「えぇ、最初も100万ゴールドだったしね」
その100万ゴールドが1000万ゴールドにまで成長した。
私はその時に稼いだお金の半分、500万ゴールドを用いて
色々なお店を始めたわ、当然父の名前でね。
選りすぐりの信頼できると思った人物を勧誘したわ。
昔、色々と援助していた家族の中にも才能があると考えた人は多かった。
私はその人達にお願いして、お店の経営を行なって欲しいと依頼。
仕事が無かった人達だから、喜んで食い付いてくれた。
そして、私の予想通り優秀な経営者になってくれたわ。
今でもお店を経営してくれてる人の内、4割はその時に雇った貧困層だった人達よ。
忠実に仕事をこなしてくれるし、私に嘘を吐く事もしない。
必死に仕事をしてくれて、返しきれない恩を少しでも返したいってね。
私の方が救われた立場なのに、全くおかしな人達よ。
「…でも、才能を生かす場が無かった人達からして見れば
そんな場を作ってくれたイリアさんは本当に恩人だったんですよ」
「…そうだと嬉しいわね」
「そ、それで…借金取りはどうなったんですか?」
えぇ、借金取りが借金を回収しに来たとき
私の家がまだまだ小さかったからなのか、お金を持っていないと判断したようでね
ニヤニヤとウザったく笑いながら、お金を取り立てに来たわ。
私はそのニヤニヤとした野郎共に借金全額と利息分を叩き込んでやったわ。
男達は驚愕して大慌て、それだけの大金をこんな子供が稼げるとは思って無かったの。
私は当然、母を帰すようにそいつらに言ったけど、そいつらは
まだまだ利息分がーとか、ウザい言い訳を始めたの。
だから、私は家の奥で待機して貰ってた護衛を呼んでね。
その男達を叩きのめして貰って、全部吐かせたわ。
覚悟はしてたけど、聞かなかった方が良かったと後悔したわ。
男達の口から出て来た事実は、母さんは既にこの世に居ないと言う事だった。
その事実を偶然耳にしてしまった父さんは、更に症状が悪化…病死よ。
お金があった、お金を稼いだ、家族が戻れるだけのお金を稼いだはずなのに
私の家族は…誰1人救われず、私だけが残された。
虚しかったわよ。誰も居ない家。そして金庫にある大量の金。
私が救いたかった物は何1つ手元には戻らないで
代わりに、私の手元に残ったのは……私から大事な物を全て奪った憎き金だけだった。
「……」
全部、捨てようと思った。必死になってきた物全てを捨てようと思った。
この時の私は13歳。私には責任感なんて無かった。
大事な物を失って…手元に残ったのはただのむなしさだけだった当時の私はそう思ったの。
今から考えてみれば、なんて馬鹿な事を考えたんだと思うわ。
私が死んだら、折角新しい希望を見いだした貧しい人達の生活はどうなる?
そんな事を考えることもせず、全てを捨てる事を考えた。
でも、そんな私を救ったのは…大事な家族。
昔、ご飯を援助してた家の子供だったわ。
私が怨むべき家の子供。彼女は全てを話してくれた。
そして、私に謝罪とお礼の言葉を渡してくれたの。
黙っていてごめんなさいという言葉。
そして、ずっと言えなかったけど…私達を救ってくれてありがとう。
あなたのお陰で…私、今は幸せ。と言う言葉だった。
彼女は私の両親がどうなったか知らないわ。
教えることが出来なかったからね。
あんな事言われて、言えるはずが無かったからね。
だから、彼女には私の両親は病気で死んでしまったと伝えたわ。
それはそれはショックを受けてね、でも、泣きながらも受入れた。
何であなたが泣くのって思ったけど…その時、私は初めて泣いたわ。
彼女に引っ張られて…と言うよりは、私の両親は死んでしまったという事実が
その時、私の中でより鮮明になったから。
でも、本当に感謝してるわよ。
あのまま、あの子が勇気を出して伝えてくれていなければ
私は両親とのお別れに対し、今でも涙を流せていなかったかもしれないんだから。
「その…その人は今は?」
「お店をしてくれてるわ。優秀な子でね、うどん屋さんなんだけど」
「ん? うどん屋さん?」
「そうよ、美味しいうどんでね、私もたまに食べに行くのよ。
スタイルらしいから、タメ口だけど友人みたいな物だし構わないけどね。
でも、あの店はあまり稼いでないわね、もう少し高くても絶対売れると思うけど
あんな細い場所じゃ、人も寄り付かないだろうし。
まぁ、経営の方針とかは本人に任せてるから何も言えないけどね。
それに、楽しそうにしてるのを邪魔するのも悪いしね」
「……えっと、それって」
「あら、その感じ、知ってそうね。シオに案内して貰ったとか?」
「ご、ご名答です…」
「ふふ、あの子にあったのね。元気良い子だったでしょ?
私の大事なお友達なのよあの子。面白いでしょ?」
「は、はい。でも、あの人とイリアさんがって言うのは意外でした。
と言うか、あの店もイリアさんの傘下だったとは予想外です」
「傘下では無いけど、自主的にお金を入れてくれてるのよ」
「そうなんですか!?」
「えぇ、恩人で親友だからって」
そう、私は彼女のお陰で自分の責任の重大さに気付いたわ。
親友と言い合えるほどの間柄になるとは思って無かったけどね。
そして、私は全てを捨てる事はしないで、両親達がやっていた
慈善的な行動をしてみたいと思って、趣味として自身が商売をしてるの。
あの子達の為にもお金を稼いで、稼いだお金が余れば国から出て
貧困の村などに色々な品物を運ぶ。楽しかったわ。
それで楽しさのあまり適当になったんでしょうね。
その結果、護衛の選出に失敗してイケメンのワーウルフに救われたの。
いやぁ、今思い出すだけでも、胸がときめくわぁ。
何だかセイナちゃんとマリスちゃんを見てるとその人を思い出すわ。
何か似てるのよね、性格とか色々と。
まぁ、2度目に襲われた際に同じ風に救われたからって言うのが大きいのかもね。
で、そこからは失敗も無く、護衛選出に関しても色々とみるようになったわ。
「凄い過去を持ってたんですね…イリアさん」
「まぁね、そんな昔があったから、人を見る目には自信があるわ。
絶望的に追い込まれていたときに重要なのは失敗しないように見ること。
必死に見て、調べて、予想して、言葉を聞いて、可能性を見いだして。
そして、その先の未来を想定して、その未来に賭けて投資する。
そうしないと、あの時の私はやっていけないほどに追い込まれていたからね。
その結果が今なんじゃ無いかなって思ってるわ。
でも本当に皮肉な物よ、私から大事な物を全て奪ったお金が
今じゃ、私に大事な物を与えてくれる存在になっちゃったんだから」
「…お金が無くても、イリアさんは大事な物を手に入れることは出来ますって」
「あらそう? あなたに言われたって事は期待しちゃおうかしらね」
イリアさんの過去…あんなに明るい性格のイリアさんに
そんなにも重たい過去があったとは思わなかった。
でも、何だかイリアさんのことをより知れた気がする。
「…だけど1つ気になることが」
「何?」
「女王様といつ知り合ったんですか?」
「そうね、商売をしてるときに出会ったわ。
で、何か気に入られて先生として少しの間だ抜擢されてたわ。
暇な時間を見付けて、あの子には商売や取引に関する知識とか
後は、色々と処世術だとか、帝王学とか」
色々と教えてたんだな…しかし、商売の最中に偶然出会うとは。
昔の女王様はやんちゃだったみたいだが、偶然ってのはよく分からないね。




