モニアドールの女王
か、完全に不釣り合いだ、完全に浮いてるよ俺!
ちょっと待って…うぅ、なんて事だよマジで畜生。
何で女王様がイリアさんの為だけに公務を放っておいて
直接…この、客間に来るのだろうか。
しかも、兵士とか居ねーし…まぁ、メイドさんは付けてるようだけど。
恐らく、シオさんと同じく護衛とメイドをかねているのだろう。
「お仕事の最中に失礼いたします」
「いえ、イリア様からの恩義は多々ありますので、この程度の事」
しかも、2人とも超丁寧口調なんだけど…なんて事だよ!
うぅ、しかしこれが女王様か…真っ赤な長い髪の毛。
オレンジ色で、至る所に宝石がちりばめられている豪華なドレス。
ダイヤモンドをあしらわれている、デカいネックレス。
指輪は左手の人差し指に1つ、めちゃデカいダイヤモンドの指輪がある。
胸元には大きなサファイヤが埋め込まれている大きなブローチ。
そして、ダイヤモンドがわんさか着いてるプラチナのティアラ。
もう、全てが超絶高そうな衣服だよ…これだけで1億とか掛るんじゃね?
「それでは、サクラ、席を外して下さいます?」
「は、承知いたしました」
「シオ、あなたもよ」
「了解です」
「……」
え!? 嘘!? は!? 何でメイドさん2人がここから出ていくの!?
待って! もしかして、1対2でお話しするの!?
俺へのプレッシャーが! 話できるの俺!?
し、失礼な事を言ってしまうのでは!? 殺される! 殺されてしまう!
侮辱罪とかで極刑になってしまう!
「……セイナ、冷や汗凄いわよ?」
「あ、あ、え、えっと…その…」
「そうかしこまらなくて良いわよ?」
何でそれをイリアさんが言っちゃうんですかぁ!?
そう言うツッコミを心の中で全力で叫んだ!
だって、口に出せる訳がねーもん! 無理無理! 絶対無理!
下手な事を言えば大変な事になる! 情報共有だとか
協力要請だとか、そんな事を言える状況じゃなくなる!
「…ふぅ、そうそう、そうかしこまらないで良いのよー」
「は、はへ?」
メイド2人が部屋から出て少しして、女王様の態度が変る。
いきなり客室の机に両膝を置いて、だらけた態度を!?
「で、イリアねーさん、今日は何? 何の話?」
「ね、ねーさん…!?」
「うーん、そうねぇ、一応私達の関係、話しておく?」
「そうだね、えっと。私とイリアねーさんは親しいのよ、かなり」
「ど、どうして!?」
「お勉強を教えてたから」
「前はイリア先生って呼んでたんだけど、今はイリアねーさん」
「……え!? 何で勉強を教えてた立場からそんな親しく!?」
「だって、私を唯一叱ってくれる先生だったし」
「他の先生って、女王様相手となると怒らないのよ。
で、ダラダラしてて、私が良く怒ってたわ」
「そのせいで、イリアねーさんの前以外ではダラダラ出来なくなってね」
「なんで叱られていたのにむしろイリアさんの前では…?」
「プライベートの時間まで、真面目に話は出来ないわよ。
ま、今回は一応、公務的な状態だけど、私達しか居ないしね。
これ位ラフな方が話ってしやすいし」
「そうそう、私は本来、真面目な性格じゃないし~」
……イリアさんが名君だと褒めていたお姫様が、一気に身近に感じた気がする。
高嶺の花というか、あまりにも距離が離れすぎている人だと思ったが
会ってみると案外、近い感じなんだな。
やはり、結局は同じ人だと言う事か。
「お姫様時代では、毎度人目を盗んで城の外を出歩いてたわね。
それだから、攫われそうになるのよ」
「そのお陰でイリアねーさんと出会えたわけだし、悪くないと思ってる」
「本当、変らないわね」
「変ったって、昔ならどうとでもなるって感じで動いてたけど
今はちゃんと考えて動いてるし。
伊達に名君とか呼ばれてないって。
適当なままだったらお父様が王位を私に継承するわけ無いし」
「それもそうね」
何だか、凄い身内トークというか…俺が全くついて行けていない。
そもそも、こんな色々な意味でイレギュラーな場面で
この状況を理解できる人間とか居るのだろうか?
いや、イリアさんが凄い人だと言う事は俺もよく知ってる。
しかしだ、まさか商人の身でありながら女王と対等に話が出来るとは。
しかも、話を聞いた感じだと、イリアさんは女王様の恩人みたいだし。
「あ、そうだ。自己紹介してなかったっけ。
大体、モニアドール呼びだからね、街では。
私はモニアドール、現女王、ラング・R・モニアドール。
正式は滅茶苦茶長いからはしょるけどね。
あ、ランって呼んで良いわよ?」
「言えませんよ!? 女王様に対して馴れ馴れしく!」
「あはは、そんな固くならないでよ。
イリアねーさんが連れてきてるって事はつまり、結構な人物でしょ?
見た目小さいけど、本当凄いわね。
あ、良い事教えてあげよっか、イリアねーさんが目を付けた奴って
例外なく大出世するのよ? イリアねーさんが雇う場合も多いけど
そもそも、イリアねーさんに雇われてるのはとんでもなく名誉な事でね」
「たまに雇おうとして逃げられることがあるのよね」
「その逃がした奴が、ギルドSSランクとSSSランクだっけ」
「そうそう、成長したわよねー、ますます惜しい事したって感じ」
「なん!」
「あの人達、よっぽど冒険が好きって感じよね」
「えぇ、そうじゃないと私に食い付くでしょうし。
あの時は、確かランクC位で、私が振られた後からガンガン頭角を現したのよね」
え? 何それ凄い…つまり、ランクが低い状態だったのに才能見抜いてたのか。
さ、流石はイリアさん…観察眼がチート過ぎて恐い。
「で、そんなイリアねーさんが見いだした新しい子がその子?」
「えぇ、あと何人かいてね。まぁ、養子候補よ」
「養子…今まで探してなかったのに?」
「いや探してたんだけどね、良い子が居なかったの。
でも、今回見付けてね。いやぁ、最高の子よ!
本当、今すぐにでも養子にしたいんだけど、中々頷いてくれなくてね」
「いや、よ、養子は…」
「なっちゃえば? 絶対に楽になるわよ? 一生遊んで暮らせるし」
滅茶苦茶軽いノリで促してくるなぁ…机に膝を着いて
両手で顔を支えて、凄く軽いノリで話してくれている。
あれ? 女王様だよね? 国の最高権力者様だよね?
「まぁ、気長に交渉するわよ。さてさて、それじゃあそろそろ本題ね。
世間話をしたい気持ちもあるにはあるんだけど
やっぱり、大事な話はさっさとした方が良いでしょう?」
「大事な話ねぇ、イリアねーさんの大事な話って
本当、どうしようもないほどに大事すぎる話だから
私は出来れば聞きたくないのよね…仕事増えるし」
「あら、そんな事言って、いつも真剣に聞いてるじゃない」
「私も、一応は国の長だからね。イリアねーさんの大事な話って
大体、国を揺るがすほどの話が多いからさ。
でも、私も少しは目処は付けてるの。
イリアねーさんがどんな話をしようとしているのかのね」
「じゃあ、当ててみる?」
「えぇ、簡単よ…奴隷商のことでしょ?」
やはり、既にイリアさんが何を話そうとしているかを先読みしていたのか。
そりゃそうか、既にイリアさんがあの奴隷商崩壊事件に関わってるのは
新聞で、国全土に知れ渡っているのだから。
国の長である、ラング女王が知らないはずが無い。
「ご名答。やっぱり分かってた?」
「そりゃあ、あれだけ騒ぎになればね、それに直々に話しに来てたじゃん」
「えぇ、でも2連続同じ話で来ると予想してたのね」
「大きな事件がそれしかないからね。予想は簡単よ」
そう言えば、既に女王様には直々に話を通してたんだっけ。
それなら、知っていても何ら不思議はないと言える。
予想が付いているのも、当たり前と言えば当たり前か。
「で、今回は?」
「…あの時は、曖昧にぼかしたけど、今回はハッキリと言いに来たの。
奴隷商を潰すために、私に力を貸して欲しい」
「……イリアねーさん、分かってるでしょ?
奴隷商には何人もの貴族が既に介入している。
それを潰すのは、流石に王家が動いても苦労するわ。
時間が経てばちゃんと動くから、今はもう少し」
動くつもりはあっても、すぐに動くのは難しいのか。
内通者とかも居るかも知れないから、それを探る必要もあるしな。
「いや、案外この件、そんなにのんびりは出来ないと私は予想するのよ」
「……どうして?」
「時間を掛けすぎれば、奴隷を買った貴族が買った奴隷を殺しかねないから」
「……証拠を」
「そう。国が動くと公言しても同じ事。だから、出来れば秘密裏に動いて欲しい。
秘密裏に、かつ迅速に動かないと気取られてしまう危険性がある」
「迅速に動く方が危険だと私は予想するわ」
「えぇ、私もそう思う。でも、迅速に行動するべきと思う理由はもう一つあってね」
「何?」
「擬態出来るモンスターが居たらどうする?」
「は? そんなのいるはずが」
「何故そう言いきれるの?」
「……」
ここで、モンスターの情報を開示しようってのか。
「人に近い容姿のモンスターは何体も存在している。
吸血鬼もそうだし、サキュバスもそうだからね。
他にも居るでしょう? ネクロマンサーも人に近い容姿だと聞くわ。
そして、ここに居る私の養子候補、セイナは既に人類に潜伏している
モンスターと対面しているの」
「な!」
「そして、撃破してる」
「そんな…誰が!?」
「襲撃後、姿が消えた人物は居る?」
「……ひ、1人、私の側近で」
側近!? 既にそんな奥深くにまで侵入していたと言う事か!
「ひ、避難に遅れた人達が居ないかを確認しに行くと言ってから
帰ってきてないわ…」
「なら、そいつがモンスターだったという訳ね」
「でもそんなはず! あいつは確かに信頼が置ける人物で!」
「人とほぼ近い容姿でしたし、見抜けなくても仕方ないかと。
擬態を解除し、蛇を出してる状態なら分かるかもですが
流石に、潜伏中にそんな真似はしないでしょうし」
「へ、蛇? な、何を訳の分からないことを…」
「実際、あなたが信用出来ないと感じるのは分かる。
あなたからして見れば、セイナちゃんは今あったばかりの小さな子。
こんな子と、側近、どちらを信じるかと言えば側近でしょう。
だから、私を信じて欲しいの。彼女が本当の事を言っていると信じている私を」
「……」
そんな事を言われても躊躇ってしまうのは当然だろう。
普通は、そう簡単には受入れられない。
だが、この女王様は違った。イリアさんの目を見て、あっさりと受入れる。
「……イリアねーさんが言うなら、間違いないわね」
「ありがとう、でも、随分とあっさり信じてくれるのね?」
「私は、イリアねーさんの全てを信頼しているから」
「…ありがとう」
「でも、モンスターが潜伏しているとなれば、動くのが余計に苦労するわね。
何か方法があれば良いけど…でも、人に擬態したモンスターと人間を見抜く方法なんて
私にはさっぱり浮かばないわ」
「まずはそれを考えないといけないわね」
重大な話だからな、側近がモンスターだったという事実を知った以上
他の側近もモンスターである可能性は捨てきれないのだから。
見分ける方法を見付けなければ、動けない…これは不味いよな。




