まずは知識
奴隷商を排除するのは本当に難易度が高いはずだ。
正直、今までモンスターを狩ってばかりだった俺達が
いきなり政治に関わるというのは難易度が高い。
あんな風に言ったが、俺達がまずするべきなのは勉強だな。
「イリアさん、俺達が政治的な部分で何かしらが出来るはずもありません。
なので、まずは知識を俺達に教えてくれませんか?」
「分かったわ。ひとまず、この国の体制について話しましょう」
イリアさんが少し席を外し、ちょっと大きめのホワイトボードを持ってきた。
こんな物あるんだ。
「まず、この王都の現状の体制について話しましょう。
ひとまず、最初は身分ね。この国のヒエラルキーは
まず、最下層に平民、その上に商人、その上に貴族、頂に王族よ」
「ヒエラルキーって何?」
「少数の強者の下に複数の弱者が居る構図を指すんだ。
組織や会社などの上下関係を、ピラミット状の図にして考えた感じ」
「ぴ、ピラミットって何?」
「三角形、立体的な三角形だ」
「あ、分かった!」
そうかそうか、この世界にはピラミットという知識がないのか。
それとも、マリスが知らないだけ?
「そうそう、そんな感じね。まぁ、つまるところね
平民よりも商人が立場は上。だけど、商人よりも上には貴族が居て
その貴族よりも上に居るのが王族…と、いう風に表面上はなってるの」
「表面上?」
「えぇ、実際は平民と商人にそこまで大きな差異はないしね。
そして、王族と貴族連中は結構、立ち位置が近いのよ。
数が多い貴族が政治を裏で動かしていると言えるのかしら。
因みに、私の立場は商人かもだけど、その権威は貴族とも差異はないし
王族とも直接接触が出来る立場だから
このヒエラルキーの外側にいると言っても過言ではないかもね」
流石大商人…立場の壁を越えちゃってるのか。
「で、この外側には冒険者も居ると言えるかも知れないわね。
まぁ、冒険者もあくまで上位の冒険者が介入できるってだけ。
下位の冒険者は平民と大差ない扱になるわね」
「うーん、よく分からないよ…」
「要は、ランクが高い冒険者は貴族の面子と堂々と張り合えるって事。
Sランク冒険者なら間違いなく。Aランクの場合は実力次第かしらね」
実力次第で貴族達と対等に張り合えると言う事か。
まぁ、全体を見た場合で、一部は色々と変化するんだろうがな。
「SSランク以上であれば、王族とも面会が出来るわ」
「ほへぇ…」
「それだけ、冒険者という立場は大きいと言えるわね。
需要が多いからね、その代わり、危険も多いけど」
「で、そのヒエラルキーの更に上位にいるのがモンスター?」
「そう言う考えも出来るかもね。そのモンスターをどうにかしようとしてるのが
冒険者という事になるかしら」
この世界における人間の立場は弱い方だからな。
対抗手段があっても、そこまで多くないから立場は危ういままだからな。
「で、今回の奴隷商には、この貴族連中が関わっていると言う事ね。
しかし、これはあくまで確定している僅かな情報でしかない。
本当は、この貴族の他に冒険者が介入している可能性もあるわ」
「後は…モンスターが介入してる可能性は?」
「は? 何でよ?」
「…いえ、既に国にモンスターの内通者がいることは分かってますしね」
「……どう言うことよ」
「そう言えば、伝え忘れてましたね…はぁ、色々ありすぎて忘れてた…
えっと。実はネクロマンサー襲撃時に」
エキドルの事をイリアさんにも詳しく話す事にした。
イリアさんは少し動揺を見せるが、結構あっさり受入れたようだった。
「……なる程ね、だとすればあり得るかも知れないわ。
モンスターの介入…もしそうだとすれば、かなり厄介ね」
「はい」
モンスターが裏で糸を引いているとすれば、そいつを潰す必要がある。
そしてだ、そのモンスターは城に潜んでいる可能性が高い。
擬態が出来るモンスター…居ても不思議じゃないだろう。
「でも、なんでモンスターは人間をここまで…」
「分からないわ」
(…ルア、お前は分かる?)
(分かりますよ。何故モンスターが人間を徹底的に狙うかですよね。
簡単な話です。モンスターからして見れば人類は最上級の高級食材。
それを安定供給できるとなれば大きいでしょう?)
確かにその通りといえるな…高級食材か。
いやな表現の仕方だよな、本当に。
「まぁ、確定ではないわ。その可能性も視野に入れておくという形にしましょう。
もしも、その可能性が的中した場合は、あなた達にお願いするわね」
「お任せください。吸血鬼すら退けた怪力。お見せしましょう」
「お姉ちゃん格好いい!」
「ふふふ、もっと褒めるが良いぞ」
「やっぱり得意げな表情が可愛いわ~」
「私もそう思うわ、食べちゃいたい♡」
「いやマジで恐いから止めて…お前が言うと洒落にならないから…」
「怯える姿も可愛いわ♡」
「気持ち悪いわ!」
こんな風に、いつも通りに会話をしているアイルもモンスターなんだよな。
当然、サキュバスは人間社会に溶け込んでるモンスター。
内通者がいるとすれば、最初に疑われるのはサキュバスの可能性が高い。
だから、もしかしたらこの内通者がいるという情報は
出来れば発表しない方が良いのかも知れない。
人間を好いてるモンスターが居場所を失いかねないのだから。
しかし、内通者がいるかもと言うことは上位層には知って貰った方が良いだろう。
そうしないと、対策のしようがないのだから。
「うーん…」
「どうしたの? 難しい顔して」
「いや、モンスターの内通者がいると全体に知れ渡った場合
アイル達、サキュバスの立場が危うくなるかなと思ってね」
「確かに言えてるわね。人間社会に溶け込んでるモンスターの中で
民衆が最初に想像するのは間違いなくサキュバス。
内通者がいるかもと言う噂が出回れば…間違いなく矛先は彼女達に向うわ」
「う…それは困るわね…」
「でも、本当に不思議だよ。なんでサキュバスは人間社会に身を置くのか」
「ある意味、人に憧れてるからかしらね。秩序を持ち、国を作り
平和を組み立て、誰かに頼らず、自立できる同じ見た目の種族。
後は、人間社会で過ごすのが楽しいからね! 私の場合は」
「上位の存在である筈のモンスターが人間を?」
「私からして見れば、人間は下位の存在ではなく大事な仲間よ。
ご飯提供してくれたり、楽しい時間を一緒に過ごしてくれたり
楽しい物を教えてくれたり、教えて貰ってばかりなんだけどね。
私達が人類に提供できることなんて、気持ちいい性行為だけだし」
人間は色々な事が出来るからな。サキュバスは1つの事しか出来ないが
その1つの事が突出していると言う感じ。
「サキュバスだからね」
「せいこ」
「アイルテメェ!」
「なんで私怒られた!?」
「マリスの良くも変な言葉を教えやがったなぁ!」
「今の私悪くないわよぉぉお!!」
「……私、不味いこと聞いたかな?」
「セイナ的には不味かったみたい…その…聞かなかったことにしてあげて」
「う、うん…」
「セイナさん! 止まって! 止まってくださいぃ!」
「ちょ! つよ! ちからつよ!」
「ポーラ、負けたら恥ずかしいよ?」
「あなたも手伝いなさいよ!」
「さ、流石セイナさんと言いたいですけど…と言うかレベッカ! あんたも手伝って!
そこで、マリスさんと仲良くお話ししてる場合じゃないから!」
「と、止める方法は簡単だよ…マリス」
「う、うん…お姉ちゃん、止めて」
「分かった!」
「早いわ!」
ふぅ、ちょっと頭に血が上ってしまったぜ。
ついつい衝動的に行動してしまうことがあるからな。
「うぅ…目が回るわぁ~」
「ほ、本当に疲れた…何でクロと同じくらいの見た目なのにここまで怪力なのよ…」
「れ、レベッカ…と、止め方分かるなら、さ、最初から…」
「ご、ごめん」
「しかし、妹パワー凄いわね、やっぱり一緒に養子にしたいわ」
「まだ言ってるんですかそれ」
「いつまでも言うわよ♪」
「諦めてください」
「商人は諦めないわ!」
まぁ、すんなり諦めてたら商売とか出来ないだろうからな。
それでも、養子にする計画は諦めて欲しいと思うけど。
その後、俺達はイリアさんから国の状勢をある程度教わった。
その話を聞いた上で、最初にするべきは女王に協力を仰ぐことと情報共有だと判断。
そっちはイリアさんに任せて、俺達は情報収集に動こうと考えた。




