繋がる覚悟
奴隷商の壊滅。その報は国全体に広がった。
新聞にその事が書いてあったからな。
これは一気に色々と加速しそうではある。
「で、潰した奴は表記してないんだな」
「流石に、あなた達が壊滅させたと言う事を流すわけにはいかないしね。
そもそも、奴隷商を壊滅させたのがあなた達だと言う事を知ってるのは
私達、極一部の人間だけだからね。そして、無名の冒険者が
そこまでの事態を起したと予想する奴も居ないでしょ」
「意外と、最低ランクってのが良い隠れ蓑になってますね」
「えぇ、実力を示す為の物だからね」
最低ランクの冒険者は実力がないと思われてしまう。
だから、このような事態を起したと想像されにくい。
防衛戦の時に派手に動いた気がするが、意外と注目はされて無かったからな。
何せ、殆どの奴らは目の前の相手を倒すことに手一杯になるからな。
とは言え、何人かに見られていてもおかしくは無いんだけど。
でも、未だに名前が知られていないところから察するに
まだ、俺達の実力は把握されていないようだ。
「でも、前にお姉ちゃんが凄いことしてたよ。アンデッド相手に」
「最初のゾンビ戦で一気に殲滅してたっけ」
「あら、流石セイナちゃん。強いのね」
「勿論です。頼りになるお姉ちゃんなので」
「ふふ、可愛い。でも、それなら実力がバレていてもおかしくないかしら。
だけど、小さな子供にランクで負けると言うのはあまり気分的に良くないだろうし
可能性としては、見ていた奴はわざとその事を隠しているかも知れないわね。
それが、あなた達にとって好都合とも知らずに」
結構見栄を張る奴らが多いみたいだしな、あり得る。
だが、それは好都合だというのが何というか皮肉だね。
「イリア様」
「ナナ、どうしたの?」
「その…記者達が駆けつけております」
「なん!」
「あら、やっぱり私に来たわね。予想通りだったけど」
「どう言う!」
「流石に城に出向いたらバレるわよね。
ま、こう言う場合にどう言うかは既に想定済み。
あなた達はここで待っていて。私が出向くから」
「でも!」
「なーに、なれてるわよ、取材程度」
そう言い、イリアさんは部屋からゆっくりと出ていった。
その後、イリアさんが取材に来た連中に何を告げたかは分からなかったが
次の日の新聞に書いてあった内容で何を話したかは想像が出来た。
大商人が関与!? 奴隷商と奴隷商壊滅の真実! と言う見出しだ。
自分がこの奴隷商壊滅に関与したと言う事を大々的に発表したというわけだ。
勿論、そんな事をすれば貴族連中に目の敵にされかねない。
商売において、不利に展開してしまう可能性だってあるはずだ。
だが、あえてその事を発表した。
昨日、帰ってきたイリアさんの表情には曇りなど一切なかったから
仕方なく話したわけではなく。意図的に話したのは間違いない。
何故、あえて自分が関与していると言う事を伝えたのか。
この行動で何を狙っている? イリアさんは大商人だ。
何も考えないでこんな重大な発表をするとは思えない。
当然、自分にも何かしらの利益があるから発表したのだろう。
それが何かは分からないが…俺達が想像出来ないほどの事なのだろう。
「まぁ、しかし困ったわよね。これであなた達が街を歩くのは困難ね」
今日の見出しを読んだイリアさんが笑いながらそんな事を言ってきた。
確かに、こんな事態になれば俺達はそう易々とここからは出られない。
何故なら、イリアさんの屋敷から出たとなれば俺達がイリアさんと一緒に
こうやって住んでいると言う事が完全にバレてしまうからな。
更には、この件に関与していると予想されかねない。
取材を受けるのは確定だしな。
俺達はイリアさんと違って取材慣れしていないから
最悪の場合、ボロが出てバレてしまう可能性が高い。
そうなると、俺達は更に面倒な状況に置かれることになる。
だから、取材を受ける可能性がある屋敷の外には出られない。
とは言え、幸いイリアさん邸の敷地には色々な店がある。
外に出る事も無く、ここだけでしばらく過ごすのは容易だ。
「まぁ、ここでしばらく過ごすことは出来ますけどね」
「えぇ、その通りね。メリーちゃん達も
ここに拘束してしまう事になってごめんなさいね」
「い、いえ、全く気になどしていません!」
「だけど、あなた達は取材を受けても構わないと思うけどね。
あなた達が壊滅させたと言う事にすれば
目の敵にされる可能性はあるけど、Sランクになれると思うわ。
貴族連中に狙われるのも、精鋭を付けて護衛してあげられるし。
どう? あなた達が壊滅させたという事にしてみたら」
確かに、メリー達が壊滅させたと言えば、俺達への追及は消えそうだ。
メリー達もランクが上がるし、狙われてもイリアさんの精鋭が守ってくれる。
意外と悪くないかも知れないけど。
「……い、いえ、私は何もしていないのに人の名誉を奪う事は出来ません」
メリーは一切迷うことなく、ハッキリとそう言いきった。
その瞳には間違いない意思が宿っていて
この言葉が嘘ではないのは一目見ただけで分かる。
「そう言うと思っていたわ、あなた達が了承してくれれば
セイナちゃん達から目が逸れるから好都合と思ってたけどね。
ふふ、試すような真似をしちゃったわね」
「もし、その言葉を受入れていれば?」
「勿論、伝えたとおり、あなた達に名誉みたいなのが貰えるわ。
でも、私はあなた達を護衛として使おうとは思えなくなる。それだけよ」
つまり、あの話を受けていれば名誉を得られる代わりに
イリアさんからの信頼を失っていたと言う事だな。
結構ヤバい感じの取引に近いが
実際お互いに利があるし、お互いが笑顔になれた取引だったとも言える。
受けていればメリー達に確かな名誉がやってくるし
イリアさんも相手を品定めすることも出来た。
俺達は注目される可能性がなくなるわけだからな。
あの取引に関与するであろうメンバーには何のデメリットもない。
メリットが多い、全てが笑顔になれたであろう取引だ。
イリアさんが奴隷商を批難していたときに使っていた言葉の通りだな。
「それはいやですね。名誉程度の為に大事な物を捨てるって言うのは」
「ふふ、名誉を程度と言うのは面白いわね。ま、実際そうでしょうけど。
とは言え、ここで名誉を取る奴は名誉を程度とは思わないでしょうけどね」
「そうですね」
あの場で名誉を取った奴は名誉を最もと考えている。
だから、相手には利になる取引になる。
名誉を取らない奴は別の要素が大事だと考えている。
だから、不利益になる取引になる。
やっぱり、人によって利益不利益は違うわけだ。
「よし、じゃあ別の手を考えるとしましょうか」
「どんな手を?」
「手段はいくつかある。まずはほとぼりが冷めるまで待機。
これが1番楽な手段だけど、1番時間が掛る手段。
他には名誉を他の奴に押し付ける方法。
とは言え、私が関与しているとされている以上
これでも注目の目が避けきれない可能性はある。
後は記者の買収。これで事は収まるでしょうね。
あいつらは金が欲しいだけで、真実を伝えたいわけじゃないから」
最後の手段が本当に恐ろしい手段に思えた。
買収って…何か、この世界の闇が見えてしまった気がする。
報道は記者達の都合だけで行なわれているというのかよ。
「さ、最後に言った方法。闇が深いですね」
「大体事実よ。民間に真実を伝えたいからと報道をしているわけじゃなく
ただ注目されて、お金が欲しいから報道してるだけだもの。
真実を伝えたいならスラムの現状を取材するでしょ?
奴隷商が行なわれているという事実を知ってしまったのであればね。
でも、記者達は貴族だとか、そこら辺の割とどうでも良い連中の報道しかしない。
そして、事が起きた今頃に奴隷商へ言及している。見られたいだけなのよ」
「ほ、報道の闇が…」
ま、まぁ…向こうの世界でも、割とそんな感じって気がするけど…
つまらない芸能人のスキャンダルとか無駄に長くするからな。
スキャンダルは騒がしく長くするけど、良い報道はあっさりだし
他にも殺人事件とかもあっさりとしかしないからな。
芸能人の浮気とかセクハラは異常な程に長くするのに…
こう考えてみると、こっちも向こうも大差ないのかも知れない。
所詮、金と注目が欲しいだけか。
「しかも、追及しようとしている相手が奴隷商の裏にいる人間ではなく
私なのも、奴らのエゴが分かるでしょ?
私を追及していれば、民間は報道を見ようとするからね。
それだけじゃなくて、私を追及していれば安全というのもある。
裏の人間を追うのは危険だしね、でも、真実を伝えたいと願うなら
身の危険を顧みず、裏を追及しようと思うはず。
あいつらは恐いのよ、真実を見るのが。真実を伝えるのが。
それは所詮、金の為に動いているからなの。
本気の人間なら、真実を追い求めるわ」
「……」
「私を追っても、出てくるのは私の考えだけで奴隷商への真実はない。
奴隷商と奴隷商壊滅の真実と銘打っても、奴隷商の真実はないのよ。
壊滅させた意図は分かるかも知れないけどね」
「でも、壊滅させた人物を探したいのは当然では?」
「そうかしら? そもそも壊滅した奴隷商は1つだけ。
他にも奴隷商は存在しているわけだから壊滅というのもおかしいと思わない?」
「そ、それは確かに…」
「要はインパクトが欲しいだけなんでしょうね」
何か上手い具合に話を逸らされた気がする。
「ま、奴隷商を壊滅させた奴を知りたいと思うのも分からないでも無いけどね。
でも、私は最初に奴隷商をどうにかしたいと思うわ。
英雄を待つよりも、自分が英雄になった方が早いからね」
「でも、今までイリアさんは動いてない」
「その通り、私が動けばいつでも壊滅をさせる事は出来た」
「だったら、イリアさんは相手に文句を言える立場じゃ」
「その通りね、全くもってその通り。否定はしないわ。
今でも、今まで行動しなかったことを酷く後悔してる。
だからでしょうね…ついつい、周りに強く当りたくなる。
子供見たいかも知れないけど…それでも、今までをくやめばばくやむほど
私は自分がいやになる。だから、周りに当りたくなるのよ。
それが…大人って奴よ。行動出来ない大人。本当、酷いわよね」
今までの凜とした態度から一変し、イリアさんは落ち込んでしまった。
本気でくやんでいるんだ…今まで、行動しなかったことを。
「じゃあ、今回、大々的にこの事を発表したのは」
「せめてもの罪滅ぼしという面もあるかも知れないわね。
私が動いていると言う事にすれば、他も動きやすくなるから。
誰にとっても、最初の1人目というのはプレッシャーなのよ」
どんな場合でも、最初にやる人間には大きなプレッシャーが乗る。
今まで、誰もしなかったことをするとなれば余計に。
そのプレッシャーを軽減するために自分が動いたと言う事か。
「その行動で、あなたに大きな不利益があるかも知れないのに?」
「罪滅ぼしよ。大商人と言われて、慈善的とも言われている私だけど。
その実、今まで裏には追及しようとしてこなかった罪滅ぼし。
だから、どれだけ私に災難が降り注ごうと構わないの。
ただの偽善者が…行動出来る人間に変われるならそれで良い。
あなた達のお陰で覚悟が出来たというのが近いけどね。
私はこれから、本格的に奴隷商を潰すために動くわ」
「イリアさん…」
「だから……手伝ってくれる? これは依頼ではなくお願い。
仕事ではなく、友人からのただのお願いよ。
だから、あなた達は断っても構わない」
「今更ですか? もうすでに巻き込んでおいて」
イリアさんの必死の呼びかけに対し、半分笑いながらからかってみる。
怒りではなく笑い。ただの冗談でしかない。
「ご、ごめんなさいね」
「まぁ、こんな状況じゃなくても、俺達の選択は決ってますよ」
全員に目配せをする。皆、小さく頷いてくれた。
こりゃ良いぜ、良い団結って感じ。
「一緒に、クソみたいな商売潰しましょう。イリアさん」
「…ありがとう」
イリアさんは目を瞑った後、俺の差し出した手を掴んでくれた。
身長差が凄いから、何かシュールな絵に見えるね。
でも、わざわざ屈んでくれて、俺の手を握ってくれた。
同じ視線の高さで、俺の小さな手を力強く。
そして、僅かに見えた一筋の涙…きっと、嬉しかったんだな。
同じ目標を持つ友人…どうしようもなく巨大で無茶な話に付き合ってくれる友人。
そんな奴が居れば、そりゃ嬉しくて泣いちまってもおかしくないよな。




