奴隷達の惨状
真っ暗闇の扉の奥、俺はこの奥に少しあれな妄想をしていた。
三角木馬とか、そこら辺の想像してた。
だが、その想像は所詮ただの妄想だと理解するまで時間はかからなかった。
「っと……こ、これは」
扉の奥にあったのは俺が想像していた物とは遙かに違っていたのだ。
「……だ、大丈夫か?」
「……い、痛いのは…」
まず最初に目に入った少女は俺達とそこまで歳が離れているようには思えなかった。
それなのに、髪の毛は真っ白で、身体はやせ細っている。
体中が鞭による傷だらけで、瞳には光りなど無い。
もはや希望を全て捨てている目だった。
俺達を見たときの目も、喜びではなく怯え。
同い年くらいの子供に話し掛けられて怯えるのは相当だ。
「……」
更に、破れまくった服の中には痣だらけのお腹が見える。
ほぼ裸に近い状態だが、性的興奮など一切湧いてこない。
「こっちの人も酷い…」
「…あぁ」
レベッカが見付けた少女は、レベッカよりも少し年下程度。
それで拘束された両手の拘束具から繋がっている縄により天井に吊されていた。
ほぼ裸であり、僅かに見えてはいけないところも見えてる。
だがこれも、先ほどの少女と同じ様に俺は一切興奮しなかった。
痣だらけの肌、血が滲んでいる僅かに残った服。
口からも血を流し、目は虚ろで俺達の姿すら見えてないようだ。
こんな悲惨な状況を目の当たりにして興奮など出来るはずが無かった。
「縄を」
「も、もう解いた」
…同じ様な状態になってる少年少女を他にも見付ける。
小さな男の子がボロボロになった状態で放置されてもいた。
年齢は若く、分類的には男の娘って奴か。
「マリスを待機させてて正解だったが…」
しかし、マリス達もこの状態の人達を見せることになるのか…
「全員…目が死んでるな」
「うん…」
外見は平和でも、やっぱり裏ではこういったことが起きているのか。
今の王は名君と言っていたが、ここまで手を伸ばせていないのだろう。
やはり貴族連中が絡むわけだし、中々手が出せないのもあるだろうしな。
「おい、大丈夫かよ」
「……女の…子?」
「まぁ」
「新しい…奴か?」
「いんや、救助隊だ。ったく、野郎が情けねぇな。
今にも死にそうな面しやがって。
助けてやるから少しくらいは」
「……」
「ま、無理だよな」
あんなにボロボロの状態じゃ、ちょっと無理だろう。
とは言え、この奴隷達を放置というのも出来ない。
動けないというならどうするか…
「動けないとなると…どうしようもないんだよな」
「う、うご…ける…」
「お前1人が動けても、他が動けなきゃな。
…ひとまず、動ける人は立ってください!」
全員の拘束を解いた後
囚われていた人達全員に声を掛ける。
動けると立った人は半分程度しかいなかった。
だが、これでも十分だろう。
その人達に話をし、動けない奴らと一緒に歩いて貰う事にした。
「おい、お前もさっさと他の奴らと一緒に行きな、動けるんだろ?」
「う、うるせぇ…」
「足ガクガクだな、無理すんなよ」
「うぅ…あ、う、後ろ!」
「この餓鬼!」
「他の奴らじゃなく俺を狙ったのは驚いたぞ」
後ろからの攻撃を、少年の言葉のお陰で受け止めることが出来た。
「な!」
「でも、全ての女子供が弱いわけじゃねーんだよ?
抵抗できない奴らを痛めつけることしかしてない奴が
修羅場潜ってきた餓鬼に勝てると思うなよ間抜け!」
「ぐが!」
そして、その男を投げて床に叩き付けた後腕を踏み付ける。
「うがぁああ!」
「やべ、やり過ぎた…確実に骨が逝ったなこれ…」
ちょ、ちょっと怒りのあまり加減が…あんな惨状を見た後のせいで
余計に加減が上手く行かなかった。
「しかし、良い商売だなクソ野郎。
抵抗できない子供だとか女をいたぶるだけで金が貰えるとかよ。
おい、その汚ぇ金はどうしたよ、ん?」
「こ、こんな事をして…た、ただで済むと」
「この状態で良くくだらねぇ脅しが出来るな。
お前さんの後ろ盾はもう消えてんだよ」
「あぐぁああ!」
「この後、何があるか分かんねぇがよ、この状態で俺に文句垂れて
お前、自分がただで済むと思うのかよ」
「ぐぁぅ!」
「まぁ良い、お前は寝てろ」
そして、最後に倒した奴を殴り、意識を奪った。
「……おい」
「……な、なん……だよ」
「ありがとな、教えてくれて。お陰で助かったよ」
「……」
赤の他人に礼を言うことはあまり無いがな。
しかしこの少年、何か頬を赤らめたように思えた。
そんで、何かジッとこっちを見てる。
「ははん、もしや惚れたか?」
「ち、ちが! 誰がお前みたいな餓鬼!」
「はいはい、そんな風に強く文句言えるなら大丈夫だな。
さぁ、早く逃げな。俺はまだやることがあるんだ」
「……お、俺も手伝う」
「良いから行け、瀕死の餓鬼に出来る事なんざねーよ」
「なんで」
「邪魔だから行けっての」
「うぅ…」
さて、急いでアイルを探さないと。上玉が入ったとか言ってたし
アイルがここに居ても何ら不思議はないからな。
「……ここにも居ないか」
「部屋、全部見て回りましたが…」
見付からない…ここじゃないのか?
「……な、何探してるんだよ」
「なんでここに居るんだ? 逃げろって言ったろ」
「…お、俺にも出来る事があるって、しょ、証明しに来たんだ。
あ、あそこ…あの本棚」
「ん?」
少年が指を指した本棚。確かにこの場所に本棚というのは違和感がある。
「どかして見ろよ…出来ないかもしれないけど」
「ふーん、まぁできるけど」
本棚程度なら片手で持てるからな。
さて、その本棚の裏にあったのは…扉だった。
「鉄の扉か…」
「もしかしたら、最近連れてこられた奴を探してるのかと思って。
そいつはこの奥に…集中的に奴隷を調教する部屋とか何とか」
「マジか…だがありがとな。お陰で楽に見付けられたぜ」
「……こ、こんなの…助けて貰った礼にも…ならないかも知れないけど」
「礼は要らないっての。俺達は仲間助けるついでにここ潰しただけだし」
「……」
「さて、あいつは無事か? 不安だな」
少しいやな予想をしながら、俺はその扉を開けた。
「あ、セイナちゃん! 来てくれたのね!」
「……なぁ、アイル…お前の周りに居る死体みたいに転がってる男達は何だ?」
「いやぁ、私を調教するとか言ってきたから返り討ちにしたの」
「待て! どうやって!?」
「お口で、あ、下の方じゃなくて上の方ね」
……あれ? これって実は俺達、助けに来る必要無かったんじゃね?
「でも、扉が開かなくて困ってたのよ。
あ、あなたの後ろに居るその少年は誰?
もしかして彼氏? 色気づいちゃって」
「ほぅ、俺が男に興味があるように見えたか?」
「いや、妹しか見えてないように見えたわ」
「まぁ大体あってる」
「こ、このねーちゃんって…」
「知り合いだよ」
「ふっふっふ、可愛い男の子。おねーさんが遊んであげよっか?
安心して、優しーくしてあげるから♡」
「何か恐いから俺逃げる!」
「あぁん、待って~」
「あいつは賢いね、お前に関わったらろくな事にならないから」
「酷いわぁ」
…でも、殆ど無傷で安心した。
あんな悲惨な状況を見た後だったからかなり不安だったがいつも通りだな。
「と言うか、鞭とか受けなかったのか?」
「受けたけど、別に大した事無いわよ。
所詮人間の力じゃ、鞭を振るったところでたかが知れてるもの」
「それで痺れを切らして…」
「そうみたいね、返り討ちだったけど」
やっぱただの人間じゃ、こいつには抵抗できないようだな。
「そうか…じゃあ、なんで捕まったんだよ」
「いやぁ、疲れて入ったお店の飲み物を飲んだら眠くなっちゃって」
「間抜けだな」
「う……」
俺の言葉で反応したのはアイルでは無く隣に居るレベッカだった。
まぁ、こいつも同じ様な状態になったわけだからな。
「あはは…あなた達は大丈夫だった?」
「レベッカの反応を見て察してくれ」
「あぁ、セイナちゃん以外は飲んだのね」
「超人的な洞察力…」
「いや、そうでもなくね?」
「じゃあ、帰りましょうか」
「だな」
結構な騒動になってしまいそうだが、ひとまず事件は解決した。
俺達はその後、イリアさんの家に戻って
ナナさんはシオさん達別働隊にこの事を報告しに走っていった。
その間、俺達は今回の件をイリアさんに話す事にした。
「やっぱり…本当、頭おかしい奴らが多くてゾッとするわよ…
商売って言うのは、相手も自分も幸せになるべきだし
そこに介入する人達全ても幸せにならないといけないってのに」
「その通りですよね…奴隷商なんてクソですよ」
「でも、これであなた達は貴族達を敵に回しかねないわね」
確かに奴隷商を1つ壊滅させたと言う事はつまり
そこに今まで通っていた他の貴族に目の敵にされると言う事だ。
あそこで伸びてる連中は兵士達が回収してくれたと思うが
来てない奴も居るだろうし…不味いのは間違いないよな。
「まぁ、手は打ってあるんだけど」
「どのような?」
「既に兵士達全体に今回の事を伝えたの。
私が伝えることで信憑性は格段に上がる。
兵士達の警備はより増すでしょう。
そして、女王様にも今回の話を告げてある。
勿論、あなた達の事は伏せてるわ。理由があるみたいだし」
「ありがとうございます! と言うか、女王様と面会できたんですか!?」
さらっと話したとんでもない事実。まさかの女王様とコネがあるとか恐すぎる。
本当、凄まじいほどにコネがあるな。
「私、結構力あるからね。恐らくだけどこれを機に一気に奴隷商を潰しに動くわ。
兵士達の警備強化、あなた達の身の安全は私の精鋭が護衛してくれる。
街にいる間は、ナナとシオをあなた達に付けるからね」
「良いんですか?」
「えぇ、私は問題無いの。精鋭はまだいるからね」
やはり国の超VIPだな、行動が凄まじい。
「とは言え、出発は大分遅れそうだけどね。
大きいことになったし」
「ごめんなさいね、私が捕まっちゃったせいで」
「何言ってんのよ、あなたが捕まらなかったら
他の奴隷達は解放されてないわ。
行動するきっかけを作ってくれて、ありがとね」
「助けられたのにお礼を言われちゃったわ、何だか複雑」
「実際、きっかけがないとあのままだったと思う。
あなたが捕まったことで事が動き始めたの。より良い方向にね」
実際、アイルが捕まっていなければ奴隷商を俺達が1つ潰す
なんて事態にはならなかったはずだ。
その事態が起きなければ今の状況も発生していない。
アイルが捕まったのは、結果から言えばプラスだったかも知れないな。




