敵地の中へ
さて、暇だな…しかし、この場面でただ放置ってのもどうだろう。
あの連中を全員拘束したし、別に先にアイルを探しても問題は無いだろうが
このまま放置というのも危ないと思う。
新しい奴が入ってくる可能性もあるしな。
だが、この暇な時間はどうにかならないだろうか?
何か悪戯したい気がする…眠ってる3人に悪戯したい!
「……お♪」
へへへ、良い物があったぜ。これで悪戯というかドッキリだ!
いやしかし…アイルがヤバい状態で遊ぶのはどうだろう。
……うーん、折角見付けたトマトジュース。
死んだふり大作戦をしようかと思ったが止めた方が良いかも知れない。
だって、確実にマリスが気絶してしまいそうだし。
仕方ない、普通に待機しておくとするか。
暇だから武器取り上げておこう。
ナイフ…とかが多いな、小型の銃もいくつかある。
この店主が持ってた銃、パクっちゃお。
ナイフとかもパクろう。戦利品だ。
ひとまずルアに管理して貰って、これで大丈夫。
銃は常に使える様に持っておこうかな。
後は…ん? 鍵か…何かありそうだし貰っとこ。
「う、うぅ…わ、私…眠ってた?」
「よぅ、起きたかマリス」
「あ、お、お姉ちゃん! だ、大丈夫!?」
「大丈夫だって。コーヒー頼んでて良かったよ」
最初に起きたのはマリスか。少し起そうとしたからかな。
「よ、良かったぁ…所であそこで捕まってる人達は?」
「俺が拘束したんだ。起きられたら困るからな。
万が一目が覚めても、拘束されてたら何も出来まい」
「うぅ、ごめんねお姉ちゃん…私のせいで」
「いや何、あれは仕方ないとしか言えないって。
俺が運良くコーヒーを頼んだから無事だっただけだから」
今までうっとうしいと思っていた猫舌にも、今回初めて感謝できたしな。
「さて、2人はどうするかな。あと少しで目覚めそうではあるが」
「……ん、んん…」
「うぅ…あ、頭が」
おっと、丁度良いタイミングに2人同時に目を覚ましたか。
「うぅ、わ、私…」
「よぅ、2人とも。目覚めたかよ」
「せ、セイナ殿…な、こ、これは!」
「お前ら3人が寝てる間に処理しておいた。ドジだよな、お前ら」
「も、申し訳ありません! 護衛をするべき立場だというのに!
こ、この責はこの命を持って償います!」
「要らない! あなたの命をあなた自身が断ったところで!
俺には何の得もありませんから!
自己満足でしかありませんよそれ! 償いたいなら命懸けで守ってください」
「こ、こんな失態をおかした私を生かしてくれると…なんて嬉しいお言葉!」
「あ、後、情報も情報も手に入りました。アイルはこの店にいます」
「本当!?」
「あぁ、この店が奴隷を売ってたみたいでね。
俺達も売られそうだったんだ。あ、正確にはお前ら2人ね。
俺は逃げようと思えば逃げられたし、仮に逃げるとしても
俺は絶対にマリスと一緒に逃げるから」
「ありがとう。見捨てないでくれて」
「冗談だよ、最初から見捨てるつもりはない」
そりゃあ、大事な仲間を見捨てて逃げるはずがないからな。
これでも俺は熱血漢を目指しているのだ。
「っと、それじゃ行くか」
「セイナ殿、その銃は?」
「店主からパクった」
「人の物を盗むのは」
「人の人生一生盗もうとした奴の所有物1つくらい良いでしょ。
何なら、命を奪ってやっても良かったんですがね」
ひとまず店主の頭に銃口を向けてみる。
「それは止めてあげてくださいよ…もう抵抗できないんだから…」
「それもそうですね。無抵抗の奴を殺るのは好ましくありませんし」
「表現の仕方が見た目と全然違う気がするのですが…」
「見た目って、案外役に立たないのですよ?」
「ヒシヒシと感じます」
ま、この話はここまでとして、ひとまず奥に向おうか。
何処かに隠し扉がある筈なんだよな。
一応、鍵をパクってきたし見付かるはずだ。
「うーん、お店の奥にも何も無いね」
大きなソファーに大きなイス。小さい暖炉、デカいカーペット。
別にそこまで裕福そうな雰囲気はないな。
だが、何処かにきっと何かあるはず。
「ん?」
「どうした?」
「いや、ちょっと足下に違和感が」
隠し扉を探そうと歩き回っていると、マリスが何かに気付いた様子だった。
場所はカーペットの上。なら、このカーペットの下に何かあるのか?
「じゃあ、この下に……なる程、こうなってたのか」
「と、扉?」
カーペットの下には隠し扉の様な物があった。
しかし、ただの物置という可能性もある。
ひとまず開けてみようとしたが、鍵が掛って開かない。
「なら」
ならばと店主からパクった鍵を使って見た。
鍵はピッタリと入り、簡単にその足下の扉が開く。
「こりゃ、隠し扉で間違いないな」
「はい」
俺達は隠し扉の中に入り、地下へと続く階段を降りていった。
意外と長いな…結構な階段を降りたが、まだ下が見えない。
「……あ、ここか」
「木製の扉…ですね」
その扉を開けてみると、中は異常な程に広かった。
いくつもの席に大きなステージ。
ここで奴隷の売り買いをしているのは間違いないな。
既に何人かの客がこの場にいるのか。
「……既に人が居るようですね」
「こりゃまた…」
「あ、あの人は…イリア様の取引相手の方です」
「そんな奴まで?」
「はい、イリア様が嫌ってた人ですね。
どうも、何か裏がありそうで不安と言ってた人です。
なる程、予想通りだったと言う事ですね」
流石イリアさん、人を見る目があるって感じだな。
相手の裏に既に気付き掛けていたと言う事か。
とは言え、相手に深入りするわけにもいかないから
あまり追及はしていなかったんだろう。
「他にも有名貴族の方が何人も…これはすごい現場ですね」
「うーん…ここに突撃して壊滅させるのも不味そうだな…」
「イリア様は壊滅させても問題無いと言ってました」
「確かに言ってたけど…いざ、それを行なうかどうかを考えると…」
「そもそも、私達は既に顔を知られてますよ。上の連中に」
「……それもそうか。もうどうせ怨みを買うんだ。
なら、一本筋通して終わらせるか。
よし、俺は覚悟は出来た。お前らは?」
「お姉ちゃんの選択なら、私はどんな選択でも。
そもそも、人を売るなんて許せない」
「私も同じ意見。アイルさんの救出も大事だけど
それと同じくらい、この現場がいやだから」
「私も同じくです」
「……よし、やるぞ!」
全員の意思を確認し、一息吐いた後に俺は扉を蹴破った。
「何だ!?」
「よぅ、奴隷を買おうとしてる非人道的な皆さん。
非常に運の悪いことに、あなた達は来るタイミングを誤りました。
怨むなら自分を怨めよクソ親父共が!」
「く! もしやここが割れたのか! 護衛!」
「は!」
「ふん!」
金持ちの1人が護衛を呼び、こちらに攻撃を仕掛けるも
その攻撃をナナさんが止め、攻撃をしてきた護衛を瞬時に排除した。
「何!」
「これでも私は元冒険者。生半可な実力では私には敵いませんよ!」
「元冒険者か…だが、対人が得意ではないのだろう?
残念だがこちらの護衛は対人のプロフェッショナルだ」
あぁ、そこなんだよな。相手は恐らく人にしか警戒をしていない。
だから、護衛に雇うのは対人戦が得意な連中だろう。
しかし、俺達は対人が得意というわけではない。
俺は人に近い容姿で人より上位の力を持つ吸血鬼と戦い
勝利を収める事が出来る程度の実力はあるのだが
ラキの戦い方は自身の再生能力と力に全力で頼る
バーサーカー戦術で戦っていたんだ。
技で相手をあしらわねばならない人との対戦とは違う。
だから、あいつに勝てたからと言っても対人が得意とは言い切れない。
「あいにくですが、私も同じですよ」
しかし、ナナさんはその護衛を簡単にあしらった。
「何!?」
「私とて、伊達に精鋭とは呼ばれていませんとも」
そりゃそうだ、ナナさんはあのイリアさんの精鋭護衛。
対人格闘術にも秀でているのは当然だろう。
「クソ! まだまだ!」
「させるか!」
「うぁ!」
飛び出してきた護衛が銃を持っていたから俺も銃で対抗。
結構久々に使ったが、案外当る物だな。
へ、店主からパクっておいて正解だったよ。
「お姉ちゃんも遠距離戦を」
「一応、中相当はあるぜ、鍛えて貰ったからな」
あの時の経験も、ちゃんと役に立ってくれている。
ピンクキャットに捕まってあんなに鍛えられたからな。
期間は短かったが、天才タイプと言う俺の才能は
その短い間でも成長には何ら影響はなかった。
「い、一斉に仕掛けるんだ!」
「そうは行きませんよ!」
「ぐ! 矢!?」
「絶対に許さないんだから」
護衛達が一斉に攻撃を仕掛けてくるも、俺達の援護攻撃と
ナナさんの高い格闘術の腕もにより、ドンドン倒されていく。
何十人も居た護衛は、短い間に壊滅状態へと陥る。
「こ、このままでは…か、金ならいくらでも払う! ここは見逃してくれ!」
「あいにくですが、お金でどうにかなるほど、命と地位は甘くないのですよ。
仕えたいと思わない相手に仕えることはしませんので」
「残念だったな、貴族さん達。金でどうにか出来る程甘い状況じゃねーんだよ」
「く、くそぉお!」
「素人丸出しの動きでは無理ですよ」
「が…」
そして、貴族連中を全員完全に拘束するまでに至った。
「じゃあ、そいつらの見張りはナナさんとマリスに頼む。
俺とレベッカは奥の方へ」
「な、なんで!? 私もお姉ちゃんと一緒に!」
「いや、2人で大丈夫だ」
「大丈夫なのですか?」
「はい、安心してください」
「うぅ…」
この奥で何があるか分からないからな。
調教中かもしれないし…その様をマリスに見せたくはない。
だが、俺は見たいのだ!
俺達はマリス達を背にし、部屋の奥へと向った。




