大きな宿屋
「ようこそ、ボイル村へ」
「どうも、私達は旅の者です、宿などはどちらにありますか?」
「はい、宿ですね、馬車と馬を止めておける小屋もある宿屋があります」
「あ、ありがとうございます」
「しかし、1人で3人を護衛というのは、中々難儀でしょう?
どうですか? この村にもギルドがありますので、そこで護衛を雇っては?」
「え? さ、3人ですか?」
まぁ、俺達は今、馬車の奥にいるからな。
武器も置いてあるし、馬車の中を見たおっさんからして見れば
中には小さな子供が2人に、戦えそうに無い高貴そうな女性が1人だ。
護衛は馬を操り、武器を携えているレベッカだけだと誤認してもおかしくない。
「いくら手練れとは言え、1人で3人は苦労するでしょう?
ボイル村のギルドには、弓術(大)の弓兵も
魔法を扱える魔法使いも、頼りになる前衛もいます。
格闘(大)と剣術(中)の前衛がいれば、かなり頼りになるかと。
しかし、前衛となれば、護衛費も中々に掛りますがね」
「参考までに、どれ程かを」
「はい、1日で3万ゴールドです」
高! たった1日で3万ゴールドだと!? く、良い商売しやがって。
でも、前衛がいないって言ってたし、これだけ高くても
護衛に欲しいと思う人はいるのかも知れな。
任務を遂行するパーティーにも前衛は欲しいだろうし。
「そ、それはまた、ず、随分とお高いですね…」
「いえ、中々に良心的かと、前衛職で中相当の場合でも
護衛費で5万も必要になる村もあると言います。
前衛は非常に貴重ですからね、ギルド組員でも一部しかいないほどに」
そう聞くと、本当に前衛は貴重なんだと分かる。
…俺もこれ、上手く行けば、ボロい商売が出来るのでは?
と思ったが、知らない奴と1からとか俺は絶対無理だから駄目だな。
交流関係は狭く深くが1番楽だぜ…死ぬ前は狭い範囲でも交流してた奴はいないが。
だからなのか、妹がいるという設定にしてくれたのは
素直に嬉しかった、下心を無しにしても。
「前衛は最初にモンスターに排除されるか、攫われる定めですからね。
今生き残ってるだけでも、十分な価値だと思います。
現に、この村の前衛は今まで何度も激闘をくぐり抜けています。
あのベアードブースにもパーティー戦で勝利した実力者ですよ」
うーん、普通は凄いのかも知れないが、俺達の基準ではそこまで…
ふふん、今更だが、俺達って超強いんだな、何か内心ハイテンション!
くっくっく、これは色々と報告すればチヤホヤされるぜ!
と思ったが、この世界で結果を残した前衛ってすぐに死地に向わされそう…
い、言わない方が身のためだな…
「それは凄いですね」
「そうでしょう? いかがです? 前衛は」
「…あら、ベアードブースってそんなに強力なモンス」
「イリアさん、ここは静かに…め、面倒事は困りますはい」
「え? あ、あら、わ、分かったわ」
い、イリアさんに喋られたら困る。
ひとまず今はレベッカに任せよう。
こう言う取引とか、対話はあいつ得意そうだし。
「確かに凄くありがたいお話しなのですが、私達はあまりお金もありませんので」
「またまたご謙遜を、しかしながら無理に勧めるわけにもいきますまい。
では、宿へご案内します」
ふぅ、何とか切り抜けた…しかし、あまりお金が無いと言ってたのに
また随分と豪華そうな宿へ…と言うか、この宿しか無いのか。
村もそんなに大きいわけでも無いし、宿も冒険者用に用意してれば
それで良いだろうから、複数は作っていないのか。
まぁ、だとしてもこんなに豪勢にしておく必要は無いだろうが。
「では、ゆっくりとお休みください」
「ありがとうございます」
「イリアさん、道具とか鞄に入れさせてください」
「構わないけど、置いていけば良いのに」
「流石に馬車に置いていくのは…何かあったときに
咄嗟に動けるのが俺くらいになりますよ?」
「武器が無くても咄嗟に動けるって言うのは安心感凄いわねぇ
可愛いし強いし頼りになるし! ほんっとう! うちの養子にしたいわ!」
「だからそう言うのは止めてください、とにかく何かあったときに出来るだけ
すぐに動けるよう、その鞄に入れたいというのがあります。
鞄程度のサイズなら、宿に持ち運べるでしょうし」
「分かったわー」
ま、隣の部屋とかになるだろうし、何かあったとき
わざわざ下まで降りて武器を拾って戦うよりも
隣の部屋に駆け込んで武器を渡して貰って戦う、のほうが早いしな。
少し警戒しすぎな気もするが、アンデッドの件もあるし
警戒しすぎて悪い事は無いだろう。
「ようこそ、今日は宿泊ですか?」
「はい、1日で」
「3食があるコースもありますが、いかがですか?」
「えっと…どうしますか? イリアさん」
「勿論3食コースよ!」
「承知しました、では、お部屋はどうしますか?」
「えっと、部屋は」
「同一でお願い」
「え!?」
「4人、同室で?」
「えぇ、勿論!」
「では、一般のお部屋とVIPルームがございますが」
「勿論VIPで」
「しょ、承知しました…お値段は2万ゴールドです」
お、おいおい、冗談じゃねぇよ…VIPルームに4人で泊まるだけで
200万だと!? 馬鹿な! 冗談じゃ無い!
「2万…ゴー…」
「あぁ! またマリスが気絶した!
い、イリアさん! さ、流石に2万は高い! 俺達は一般の部屋で!」
「何言ってるのよ、護衛が護衛対象から離れたら意味ないでしょ?
それに、2万ゴールドなんて端金よ、はい、2万」
「ど、どうもありがとうございます…では、ご案内します」
そして2万ゴールドを何の躊躇いも無く、財布から出して渡した…
気がどうにかなりそうだぜ…2万って…5回やるだけで
ワービースト買えるじゃん…
他にも色々なユニークスキル買えるじゃん…それ程の額が
い、1日で潰えるというのか…何と恐ろしい。
(因みに言いますけど、ユニークスキルが安い訳では無いのですよ?
私がユニークスキルを安く提供してるんですよ?
本来なら、ワービーストは300万ゴールド以上の価値はありますし
リミットブレイクも100万ゴールド以上の価値が当然あります。
私のお店の値段が格安なだけであり、スキルが安いわけではありません)
(俺の心…読んだの?)
(いえ、ここまで最序盤で馬鹿みたいに高い買い物をされると
何かあなたが色々と勘違いしそうだったので、案の定だった見たいですね)
そうか、スキルは本来買うとすれば、クッソ高いのか。
俺だけが特別なんだな…まぁ、だからといって
この馬鹿みたいな金遣いを見て動揺したままなのは変らんが。
「あら、狭いわね」
「か、開口一番なんて事を…」
「わ、私達の家より大きい…あ、またフラフラぁ~」
「落ち着けマリス! 気絶しすぎ!」
「えっと、マリスさん達の家は相当大きい方ですよ…?
私の家の方が断然狭いです…」
「でも、ダート村の宿は…」
「あそこは楽しかったわよ~、色々な話し声が聞えて
何だか聞いてるだけで楽しくなっちゃったわよ。
でも、ここは広いだけね、ま、今回の私には!」
「わ!」
「おわ!?」
「へ? へ!?」
「あなた達がいるから全然楽しいけどね!」
い、いきなり俺達3人を抱きしめてくるとは…お、驚いた、不意打ちだった。
「しかしまぁ、真っ赤なカーペットに上品な暗さの照明…
黒っぽい大きなテーブルに大きな赤いソファーがテーブルを囲んで…
で…お、お酒が並んでるし、ダーツ…こっちには大きくてふわふわのベット。
掛け布団は黒と白のシマシマ模様とは…これ、俺なら20人位寝れそう」
「セイナちゃんが20人って、相当なハーレムね、うふ」
「そうなったら、私は本物のお姉ちゃんを抱きしめて寝ます」
「意味の分からないことを言うな、俺は分身しない、例え話。
俺は1人だからな? 1人ですからね?」
「2人で抱けば良いんじゃないかしら」
「俺の自由をください…」
しかしまぁ、みればみるほど凄いな、上層階で更にもう一つ上もあるとは。
あ、上は色々な本が置いてあるな、へぇ、モンスターの事を書いてる本が…
正直、この部屋の雰囲気には全く合ってないけど。
で、寝室の奥…この物々しい雰囲気の扉の向こうには何が。
「あら♡」
「……し、失礼しました」
俺はすぐに扉をそっと閉じた、ここは開けては行け無い禁断の箱だったのだ。
見てない、俺は決して何も見てない、俺は何も知らない!
あらゆる大人な道具が網羅されていた現場など見ていない!
そして! その奥でこっちに気付き、手招きしてた小さな角が生えてて
ピンク色の髪の毛で、危なすぎる下着で、黒い翼が生えた女の人など知らない!
「可愛いお客様♡」
「へ? あぁあああ! 待って! 待って待って! 待って!
ひ、引きずり込もうとしないでくださいマジで! 無理です! 無理です!」
「折角このお部屋を見付けた好奇心旺盛なお嬢さんには~
この先でお姉さんが冒険♡、させちゃうわよ~」
「止めてぇええ! お、俺はまだ禁断の扉は開けていないんだ!」
「今開けたのよ、さ、大人しくして」
「ひぃいい! 助けてぇえ~!」
「何の騒ぎで…え!? ふ、不審者!?」
「おら、お姉さんが来ちゃったわね」
「レベッカぁ~!!」
「ちょ、ちょっと! セイナさんに何をするつもりですか!」
「もぅ、あと少しだったのに」
よ、よかった、か、解放された! 危なかった! マジで危なかった!
て、貞操の危機を感じた! どうしようも無い程の貞操の危機を!
「せ、セイナさん、だ、大丈夫ですか!?」
「れ、レベッカのお陰で助かったよ…マジで死ぬかと思った…」
「し、しかしセイナさん」
「え?」
「セイナさんの力なら…簡単に振り解けたのでは?」
「……あ」
焦りすぎて扉に引っ付くことしか考えてなかったが!
考えてみれば、俺の力なら簡単に振り解けてたじゃ無いかぁ!!!
「な、なんて事だ…ど、動揺しすぎた…」
「で、でも、実際あれは動揺しますね…しかし、今のは?
と、扉の向こうに入っていったような…あ、やっぱり」
「あら、あなたも興味あるの?」
「え? 何にです? と言うかあなた誰です?」
「そう、教えて貰ってないのね、私はこのVIPルームで待機してる
サキュバスよ~、男の人と女の子を幸せに導いてあげてるの。
その対価に、私達は魔力を貰って、身体を維持してる。
人間と共生関係にあるモンスターよ♡」
さ、サキュバス! お、覚えている! あの場面で俺がもし
み、魅了を選んでいたら…俺はこいつらになってた!
ま、マジで格闘を選んでよかった…どっちにせよ散々だけど
魅了を選ぶよりは間違いなく正解だった…
「うふ♡、基本的に暇なんだけどね、ここの当番は」
「し、シフト制なのか…?」
「えぇ、そうよ~、3人のサキュバスで回ってるの。
酒場の常連さんがいつもは相手でね~、飽きてるのよね~
どうせ、男ばっかりだし~、おっさんばっかりだしね~
で~も~♡、このVIPルームの時はたまーに
超お金持ちが来るから、一気に玉の輿も狙えるし
イケメンも来るかもだし、女の子も来るかもだしで
ワクワクなのよ~、でも、98%は誰も来ないけど。
それでもおっさんの相手をしてるよりは
ここで道具のお手入れをしながら
お客さんが来たら、どんな事をしようか考えるのは幸せなのよね~」
「そ、それはまた…悲惨な職場環境で…」
「分かる? そう言う場所に来る人達って、女に飢えた獣しか来ないの。
私達サキュバスも、実は男よりも女の方が魔力吸収とかも出来るし
相手にしてて幸せなの、そりゃあ、男の人でも、気を遣ってる人は良いけど
どうせ、酒場に会いに来てくれる人なんて、身体目当てしかいないのよ。
誰も私と話をしてくれようともしないからね。
そんな環境でずっとって、身体は平気でもテンションは下がるのよ。
でも、このVIPルームで待機の場合は、ワクワクしながら待てるし
結局誰も来なくても、1日中休めるし、色々と想像を働かせるのも楽しいの。
そして、たまにお客さんが来て、その子が女の子だった場合は幸せよ~
お話しできるし、で、お話ししてる間に女の子を誘導して
ふふふ、夜の営み~」
……これは、ヤバいかもしれない。
し、失敗したぁ…だ、大丈夫か? 大丈夫なんだろうか、これ…不安しか無い!




