森の狩人
初めてこの森に入ったのは、ほんの1ヵ月前。
それでも、周囲の雰囲気は大分変わっているような印象を抱いた。
更に色々な木々が倒れている…が、これは多分キンスラと戦った時の奴だろう。
「今回はキングスライム居ないかな?」
「居ないだろ、流石に…仕留めたんだし、まぁ、仮に居たとしても
今回はレベッカも居るから多分大丈夫だ」
「そんな過度な信頼は止めてくださいよ」
まぁ、口ではああ言ってるけど少し嬉しそうにしてる。
そりゃあ、褒められたり頼られたりして嫌な気分になる奴は少ないだろう。
「しかし、10万ゴールドの仕事の後で5000ゴールドって凄い減るよな」
「普通、駆け出しで10万ゴールドの仕事は来ませんよ…
不意に遭遇しても、駆け出しじゃ生き残れません」
「その場にお前も居たのに? 謙遜するなよな」
「いや、あれは殆どセイナさんが倒したような物じゃ」
「いやいや、皆が居なけりゃ何度死んでたことか」
あんな化け物とはもう2度と戦いたくないね。
流石に腕をもがれそうな経験をして戦いたいとは思わん。
てか、そんな状態になったのにまた戦いたいと思う奴は異常だろ。
ドMだろ、どうしようも無いマゾだろ、間違いない。
「謙遜してるのはむしろセイナさんですね
あの場面はセイナさんが居なかったら全滅ですよ」
「ははん、貴重な前衛をもっと褒め称えるがいい」
「お姉ちゃん、何かたまに性格変るよね」
「うぅ…ほ、褒められたら嬉しいじゃん、やっぱり」
褒められることは結構貴重だからなぁ、少し嬉しくなってしまった。
「あはは、確かに褒められると嬉しいですね…あ、待ってください」
「どうした?」
「……足跡、2つしか付いていないけど、形は狼の足跡」
「もしかして、近くに?」
「恐らく、警戒してください」
レベッカとマリスは武器を構え、俺は臨戦態勢に入った。
剣を使う場面では無い、状況次第で使う為に剣を買っただけだからな。
格闘が効きにくい相手に使う為に、もしくは全身トゲトゲした奴に使う為にだ。
流石に全身トゲだらけの奴を殴るとか痛いだろうし。
「……警戒したまま進みましょう、私は足跡を追跡します。
お2人は周辺警戒をお願いしますね」
「分かった」
レベッカは足跡を辿る、俺達はレベッカを守りながら周囲を警戒して歩いた。
足音は俺達の分しか聞えない、鳥の鳴き声は至る所から聞える。
風の音も、川のせせらぎだって聞えた、ここが危険地帯だと言う事を
忘れてしまいそうなほどにのどかな音が周囲から聞えてくる。
そんなのどかな音とは相反し、俺の鼓動は加速している。
自分で自分の鼓動音が聞える、マリスとレベッカの呼吸だって聞えた。
それだけ精神を集中していると言う事だろう。
誰も、何も喋らない…沈黙のまま、ただ周囲を見渡している。
「ん!」
マリスの声が聞え、同時に鳥が飛び立つ音が聞えた。
「…ふぅ」
恐らく鳥に反応したんだ、はぁ、ビビった。
「マリスさん!」
「え!?」
静寂を破るレベッカの怒号、すぐに俺はマリスの方にむき直す。
すぐに分かった、マリスの死角から人型の黒い影が飛んで来ている事に。
「まず!」
「させない!」
「ぐ!」
俺が反応するよりも早く、その人型に矢が突き刺さり動きが変る。
人型は素早く後方に下がり、再び姿を消した。
「ち! ワイルドハントか!」
「足跡の偽造…やりますね」
「どう言うこと!?」
「バックトラックです、動物が追跡から逃れる為に
自分の足跡を踏んで下がって、途中で別方向へ跳ぶ行為です。
知性があるからか、野生動物の護身術を扱うとは」
「しかもまた姿を消したか…さて、どう動くか…このまま逃げるか?」
「いえ、逃げないと思います、ワイルドハントはハンターです。
私達は獲物、1度狙った獲物は逃がさないでしょう。
ましてや、自分が狙う獲物の中で最上級の獲物である
ワーウルフを逃がすはずもありません」
「だろうな、周辺警戒だ、相手が俺達を絶対に逃がさないというなら
必ず姿を見せるはず、油断するなよ」
「うん!」
さて、どう動く? まずは誰を狙ってくる? マリスか? レベッカか?
はたまた俺か? 1番の理想型が俺を襲ってくれることだ。
前衛である俺を狙ってくれれば、そこで攻勢を掛けられる。
そして、今回の戦い、長期戦は絶対にあり得ないと断言できる。
何故ならあいつは既に傷付いているからだ。
不意打ちに失敗したのは大きいだろう、大きなダメージを食らったんだ。
長期戦になれば自分がゆっくりと弱り、不利になるはずだ。
そうならないために、相手は短期決戦に臨むしか無い。
「……」
再び緊迫した沈黙が始まった、相も変わらず
周囲は俺達のこの状況とは相反し、のどかな物だ。
こっちはこんなにも緊張しているというのに。
「…来るとすれば、そろそろかと」
「あぁ、分かった」
再び気合いを入れ、周辺警戒を再開する。
些細な音にも敏感に反応しないと。
「ん!」
何処からか何かが動いた様な音が聞えた。
反射的にその方向を見る、兎だった。
「セイナさん!」
「何となく、予想はしてたよ!」
さて、大体予想は出来てた、最初のマリスの時にな。
あいつは一瞬の隙を正確について奇襲を仕掛ける。
俺の位置は最も目立つ場所で、不意打ちを仕掛けることが出来る場所は多い。
当然、一瞬でも隙が出来れば狙ってくるのは分かってた。
そして、今度来るときはレベッカの矢が当らないであろう場所から来るのも
大まか予想済みだった、だから、どの方向かは大体分かっていた。
「リミットブレイク! くたばれおらぁ!」
俺の予想は当っていた、振り向き様にリミットブレイクを発動
格闘のスキルを1段階成長させ、ワイルドハントの顔面をぶん殴り地面に叩き付ける。
強力な一撃を受け、ワイルドハントは地面に強く叩き付けられバウンドする。
「がぐが!」
「狩られるのはテメェだよ! 間抜け!」
1回のバウンドの後、身体を転がし、ワイルドハントの背中を全力で踏み付けた。
勢いが相当だったのか、強力な衝撃音と共に足下に少し大きめの穴が出来た。
「…こ、これは予想外」
リミットブレイクを発動させ、格闘(極)にさせたわけだが、一撃でこれほどとは。
これほどの一撃を喰らったんだ、流石のワイルドハントも動かなくなった。
「…えっと、セイナさん、その力は…?」
「す、スキルを買って…強化スキルで…強化したらこんな事に」
「お姉ちゃん凄い!」
「でも、デメリットもあるから、あまり使えないんだよな。
1時間強化されるから、今から戻っても家でデメリットが発動するのか」
「それじゃあ、急いで戻りましょう、森で何かあっても困りますし」
「そうだな…所で、討伐クエストを確認するとき、どうやってるんだ?
正直、素材も取れないとなると証拠品とか無いんじゃ…」
「そこは私もあまり良く知りません」
(はい、そこは特に考えてませんでした)
(おい!)
(いやだって、ゲームとかでも大体どうして討伐したのか分かったの?
見たいな場合多いじゃ無いですか、それと同じって事で)
(いやいや、納得いきませんが?)
(と言うのは冗談で、ギルドバッチにそう言う機能があるのです。
まぁ、帰還した時に集計され、討伐完了と分かれば報酬を与えられます。
大事な物というのは、そう言う意味でも大事なんですよ。
ただまぁ、モンスターの粒子を回収し、どんな魔物を討伐したか
と言うのを把握するので、未知のモンスターを撃破した場合は不明となります。
ですが、粒子を回収した、イコール撃破したなので不明だった場合は
冒険者から色々と話を聞き、情報収集を行ない報酬となります。
この際の采配は結構あるんで、強敵の未知のモンスターを撃破した
イコール多額の報酬、と言う訳ではないので中々にね)
まぁ、未知の魔物だと危険度もよく分からないしな。
でもそれ、冒険者が脚色をしてそのモンスターの事を話したりしたら
報酬額が上がるんじゃ無いのか? 結構バランスが悪いと言うか
結構危険なシステムだな、でも、そうするしか無いと言う事か。
(まぁ、脅威度などはある程度粒子から把握できるのですが
正確な脅威度は分からないので、盛大に盛ったりしても嘘はバレます。
過小に話してもそれが、謙遜した結果だと言うのも分かりますので
破綻などは無いでしょうがね)
ふむふむ、それなら安心だな。
どうやって粒子から力を把握してるかは知らないけど。
まぁ、モンスターは倒されると少しして消滅するんだよな。
そこもモンスターなハンターに似ている気がする。
この間に敵から素材を採取できるスキルがあれば稼げるのか…欲しいな。
「とにかく戻りましょう、森の中でセイナさんに何かあると大変ですし」
「そうだな」
「また何も出来なかった…もっと頑張らないと!」
今回は瞬殺だったし仕方ないだろう、しかしあれだな
リミットブレイク、恐ろしい…だけど格好いい!
これは購入して正解だったな!




