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1ヶ月ぶりの再会

天国と地獄を味わったかのような日の後日。

俺は予定通り、リンと共に解放して貰った。

そう、これはある意味では賭けに近い。

俺達が無事に解放されたと言うことは

ピンクキャットに敵意が無いと言う事を指すはずだ。

しかし、説得に応じてくれるかどうかは俺の言葉次第かな。

リンも説得に参加して貰うつもりだけど…大丈夫か不安でもある。

そこはとりあえず俺がカバーしていこう。


「ねぇ…セナちゃん」

「ん?」

「本当に…大丈夫かな…」

「あぁ、大丈夫だ」


もうなんか、妹よりも長く一緒に居る、妹みたいな女の子。

おかしい物だ、マリスとはこの身体になってまだ3日しか交流無いのに

彼女とはもうすでに1ヶ月は交流してるんだし。

まぁそれでも、俺にとってマリスは正真正銘の妹だけどな。


「……よし」


とりあえず、俺達は例の村、ダートへ移動した。

と言うか、今思うと俺の年齢は7歳で、リンは8歳…俺の方が妹では?

いやいや、そんな事を今考えてる場合じゃなかった。

とにかく急いで説得しないといけない、どう説得するかは大体考えている。


「久し振りかも、この村」

「そうなのか?」

「うん、曖昧な記憶しか無いけど…嫌な思い出の方が多いや」

「そうか、なら何も考えないで良いだろう」


大事なのはこの村に居るであろう、3人を見付けることだ。

ピンクキャットを釣るように動いているとすると

恐らく、2人は別行動でマリスが1人で行動してるはず。

そもそも村にいるかも分からないが…とりあえず探すか。

確か宿が何処かにある筈、村の案内板に書いてあった。

場所は1箇所しかなかったし、十中八九マリス達はその宿屋に居る。

居るとは限らないけど、そこで宿泊しているのは間違いないはずだ。


「っと、ここだな、宿屋」


俺達は宿屋へ向い、その場所を軽く見渡す。

下のフロントにいないことを確認した後、フロントに話をした。


「ここにケミーという人は居ますか?」

「どうしたの? お嬢ちゃん」

「いえ、実は迷子でして…ここにいると思うんですけど」

「えっと、ケミー…あぁ、この人かな、そう言えば人を探してる

 みたいなことを言ってたし、君達の事だったのか。

 今は君達を探して村を回ってることだよ、1ヶ月も探してたから

 ピンクキャットに攫われたのかもと伝えたけど、無事で良かったよ」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃあ、付いてきてくれないかな」

「はい」


フロントの人に話をして、ケミー達が止まって居るであろう部屋に案内して貰った。

実世界ならまず間違いなくあり得ない事だが、ここは田舎で更には異世界だ。

そう言うところは結構大らかというか、適当なのだろ。

ま、俺が子供の容姿だというのも一役を買っているんだろうけどね。


「はい、この部屋だよ、帰ってくるまで待ってて」

「分かりました」


とりあえず明かりを付けて、そしてソファーに座った。

しかし、マリスが居るとは思えない程に部屋は汚いな。

あ、これお酒…ケミー達が飲んだのか、やれやれだな。

意外と俺の捜索が滞ってるからストレスで飲んでたのかも…?

だとすると、スゲー悪い事をしたな。

でも、マリスが片付けていないのも何だか不自然だ。

とりあえず部屋を巡って…あぁ、ここがベットなのか。

ん? 何か片方は汚れてるけど、もう片方は綺麗だ。

ベットが3つしか無いけど、多分レベッカとケミーは1人で寝て。

きっと、この3つ目の綺麗なベットに俺とマリスが寝る予定だったんだろう。

しかし、このベット、片方は綺麗だというのにもう片方は汚いな。

シーツがシワだらけだ、半分は綺麗なのにどうしてだろう。

でも、シワだらけの方は…枕元が濡れてる。

何故濡れているかは…分かった、涙だろう。

次にキッチンは…あぁ、あったあった…あ、鶏肉と卵が一杯入ってる。

腐ってる鶏肉や卵が何個か置いてる、捨てるのは勿体ないけど

流石にこれは食べられない…ひとまず捨てておこう。

うーん、食器は…一切でていないというのが正しいのかな。

その代わり、ジャンクフードみたいな物が入っていたと思われる

袋が色々な場所に置いてあるし…荒れてるな、相当。


「……悪い事しちゃったかな」


理由があったにせよ、流石に1ヶ月もって言うのはあまりにも長すぎたか。

でも、こうなると気になるのがもしもこれ、ドッキリで出て来たらどうなるかだな。

こう言う場面でも悪戯心が発揮されるというのも、俺の悪いところかな。

とりあえず、部屋を片付けて待っておこう。


「リン、部屋を片付けるの手伝ってくれない?」

「分かった、汚いもんね」

「そうだな、普段はこんな事無いのに、少し荒んでるんだろう」

「……良いな、羨ましいよ、待ってくれる人が居るの」

「可愛い妹が待ってるんだ、今は俺達が待ってる方だけどね。

 それに、リンも待ってくれてる人は居るじゃんか」

「でも…もし説得できなかったら…お母さん達は」

「するんだよ、頑張って説得するんだ、協力して欲しい。

 俺もお母さん達が無事に助かるように頑張るから」

「…うん!」


もう少し手段を考えれば、こんな事にはならなかったのにな。

孤児院でも作れば、ここまで酷い騒動にはなってないわけだし。

ピンクキャットの子供誘拐は子供達の為にした事だし

釈明の余地はある筈だ、上手く説得できれば

ギルドに孤児院を作って貰うという手も…少しはあるはず。

とりあえず今は掃除だな、意味は無いのだけど何かやること無いし。


「ふぅ、綺麗になったな」

「うん!」


何とか部屋中を綺麗にする事が出来た。

掃除なんて普段はやらないけど、リンも居てくれたお陰で何とかなった。

と言うより、掃除や家事は1ヶ月の間にピンクキャットの根城で少しやらされてたし

1ヶ月の間でもそれなりに家事能力は付いたからな。

とは言え、まだまだマリスの足下にも及ばないんだけど。

そして、少し待機していると、足音が聞えてきた。

時間は…午後8時か、大分長い間捜索をしてたんだな。

うぅ、何かなぁ…本当に悪い事しちゃったな。


「よし、隠れておこう」

「え? どうして?」

「ドッキリって良いじゃん」

「セナちゃん、悪戯っ子だね」

「まぁまぁ」


とりあえず俺達2人は部屋に隠れてその時を待った。

扉がゆっくりと開き、リビングに意気消沈の3人が入ってきた。


「……今日も見付からない…動きも無い…」

「なんで…私の思惑が外れてるの?」

「……あ!」


お? お? マリスの目の色が変って周りの匂いを嗅いでいる。


「どうしたの?」

「えっと…何だか懐かしい…匂いが」

「泣いてるの?」

「…やっはー! 久し振り!」

「あ…あ……あぁ…」

「え!? 何で!?」

「お、おぉ、おねえ…お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」

「へ? あだ!」


グキって言った! グキって言った! 痛ぇ! 強く飛び込みすぎだろぉ!


「お姉ちゃん! お姉ちゃん! わぁああ! 心配したんだからぁ!

 うぅ、お姉ちゃんの馬鹿馬鹿! 私がどれだけ心配したと、うわぁあああ!」

「ご、ごめん、し、心配掛けて…で、でも大丈夫、ほら、この通り元気だから!」

「うわぁああああ!」

「……い、一応、説明…あるのよね? 何でピンクキャットに攫われたであろう

 あなたが…この宿に居るのかを…抜け出してきた…の?」

「い、いや、それを今から説明するんで、リン!」

「うん…」

「え!? 誰あの女の子」

「えっと、リンって言って」

「……ふ、ふしゃぁあ!」

「何でリンに威嚇してるんだよ!?」

「お、お姉ちゃんは渡さないんだから!」

「ライバル視…してるのかしら、何か感じたの?」

「うーん、な、何だか怒られてる感じ…何で?」

「し、知らない…ほらマリス、そんな威嚇しない」

「お、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなの! 誰にも渡さないもん!」

「いやいや、よく分からないけどそんなんじゃ無いから。

 妹見たいとか内心思ってたけど」

「駄目! お、お姉ちゃんは私だけのお姉ちゃんなの!」

「ふふふ、甘えん坊さんめ! 可愛いなぁ」

「……い、良いから話を」

「そ、そうですね、話します」


俺はケミーさんに事のいきさつを細かく話した。

ピンクキャットの目的も、ピンクキャットが何故そんな事をしていたかも。

俺が1ヶ月の間、お世話をして貰っていたことも、全て話した。


「ふーん、ピンクキャットは悪意を持って子供達を攫ったわけではないのね」

「そう、その事を証明してくれるのがこのリンで」

「よ、よろしくお願い…します」

「リンは3歳の頃、ピンクキャットに攫われたという初めての子供で。

 5年間、ずっとピンクキャットの元でお世話をして貰ってたんです

 被害を確認して貰えば分かると思うけど

 正確にはちょっと不安はある…ピンクキャットに攫われたという子供達は

 皆両親から虐待や強制労働を受けていたり、そもそも両親が居なかったりするんで」

「被害報告すらない事件もあり得ると言う事ね」

「そう言う事です…1ヶ月、ピンクキャットの根城で過ごして

 感じた事は…悪人では無いと言うこと、彼女達はただ純粋に

 報われていない子供達が自分達みたいになって欲しくないと思ってる。

 戦いを教えるのも最悪を避ける為」

「うん、お母さん達は何も言ってくれないけど、私達は分かってるの。

 私達の為にお母さん達は頑張ってるって分かるの。

 ねぇ! 何でお母さん達が捕まらないといけないの!?

 お母さん達は私達に何もしてないよ! お世話してくれただけなの!

 ずっとお世話してくれてただけなの……誰もお世話してくれなかった私達を

 お母さん達は…お世話してくれてただけなの! 捕まるなんて変だよ!

 おかしいよ! 悪い事してないのに!」

「…で、でも、ギルドとしては…だけど実際、被害に遭った子供達は…

 その1人もこうやって庇護していると言う事は…誰も恨んでは無いのでしょう。

 でもね、ご両親達は攫われた子供達を!」

「……私はね、皆の話を聞いてるの、1番最初にお母さん達と生活しててね

 お母さん達に、新しい子供達とも遊んであげてねってお願いされてたから。

 だから、色々なお話を聞いたの…皆、お母さん達の所に来て良かったって言ってるの。

 本物のお父さんお母さんはいつも私を殴るけど、お母さん達はそんな事しないとか。

 頑張ってお金を稼いでも、殴られて奪われてたって言う子も居たの。

 皆、そんな子たちばかりじゃなかったけど、そう言う子じゃない子は

 私がお母さん達にお話しして、お家に帰して貰ってたの…

 お母さん達はただ、酷い目に遭ってる皆を助けたかっただけなの…

 悪い人じゃ無いの! 私、知ってるもん! お母さん達は悪くない!

 悪いのは…皆をいじめてる本物のお父さんお母さんや…

 お父さんお母さんを守ってくれなかった人達だもん」

「……」


最後の一言にケミーは激しく反応した、今までに無いほどに大きく。

それと同時に、思い詰めた表情になって…少しの間だ、足下を見てた。

その言葉にはお父さんお母さんを守ってくれなかった人達だもんという言葉は

ケミーの心を大きく揺すぶる程の大きな意味があった。

純粋だからこそ、真っ直ぐ叩き付けられた事実。

その真っ直ぐ叩き付けられた事実は、その中に入ってるであろう

彼女へ大きな動揺を与えるには十分過ぎたのだろう。


「……そう…よね、悪いのは私達……守る力があるのに守れない物が多い私達。

 そのせいで苦しんでる子供達が多いのも…知ってる筈なのに。

 私は…そんな子供達の最後の希望さえも…奪おうとしてたのね……本当、クズだわ」

「ケミーさんが必死に何かを守ろうとしてるのは分かってます。

 俺の事だって、必死に探してくれたのも…手が届く範囲の物は

 意地でも救いたいという気持ち…分かります。

 だから、あなたはクズなんかじゃない」

「…ありがとう……分かったわ、良いでしょう、手を考える」

「本当!?」

「えぇ、悪い事をしている訳でも無いようだし」

「ありがとうございます!」

「……色々と話してみるわ、ひとまず今日は帰ってお母さん達に伝えて」

「本当!? 良かった! じゃあ、帰ろうセナちゃん!」

「え? 俺も?」

「うん! お家に帰るの!」

「駄目! お姉ちゃんはここにいるの!」

「な、なんで!? セナちゃんもお家に帰らないと」

「駄目! お姉ちゃんはここにいるの! ここがお姉ちゃんが居る場所なの!」

「いや違うだろ、この宿屋は違うって」

「お、お姉ちゃんは私と一緒に居るの!」

「そんなぁ! セナちゃんは私達の家族だもん!」

「お姉ちゃんは私の家族なの! 私のお姉ちゃんなの! 渡さないもん!」

「返してよぉ! 私のセナちゃんなの!」

「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなの!」

「あぁ、両腕が引っ張られる~、何か幸せ~」

(…これはまた、凄い両手に花ですね)


楽園はここにあったのか、ふふふ、幼女2人に取り合いにされるとは!

1度は経験してみたかったシチュエーションだ!


「人気者は辛いわね」

「ですね」

「お姉ちゃんは私のお姉ちゃん!」

「セナちゃんは私のセナちゃんなの!」

「渡さないもん!」

「返してよ!」

「あぁ~、幸せ~」

(真剣話がぶっ壊れましたね、流石晴夜さん)

「うへぇ~」


こんな幸せを経験出来るとは俺も本当に幸せ者だぁ~

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