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恩返し

俺達の説得は無事成功、ケミーはギルドに直談判をしてくれた。

まずはアリスを説得して、そこから何とかという形である。


(何とか動いてくれて良かったですね)

(あぁ、ケミーのお陰だ)

(…どうでも良いんですけど、なんでさん付けしないのです?

 話すときはしてますけど、こう言うときはしませんし)

(ん…いや、そんな事言われても…こう言うときにさんって付ける意味あるの?)

(あのですね、普段の心の声だとか、そう言うときでもさんは付けるべきです。

 そもそも、敬意を表するためにその様な敬語という物が存在していて

 さん付けと言うのは、適度な距離があると言う関係なのですよ。

 それに、普段はさん付けしない場合は相手を馬鹿にしている感情も生まれます。

 その内、相手を下に見るようになり、最終的に口に出て怒られるのがオチです。

 そうならないためにも、普段から敬意を示すべき相手にはさんと付けるべきです)

(んー、でも、それだといっつも俺をさん付けで呼ぶルアは何?

 俺に対して敬意を表してくれてるの?)

(あぁ、これは癖なので大丈夫です、あなたに敬意はありません。

 むしろ、下に見てます、それもどん底なほど下に)

(酷い!)

(と言うか、私に対しても敬語を使って欲しいんですけどね、女神ですよ私)

(なんで今更…ずっとこの距離感だったのに…)

(まぁ良いでしょう、そこはあまり気にはしてません。

 しかしながら、彼女達に対しては敬意くらいは示せこの野郎。

 お前の為に動いてくれてる目上を呼び捨てしては駄目です)

(は、はい…心の声でも駄目とは厳しいな…)

(はいはい、ちゃんとさん付けしてください)

(分かりました)


はぁ、ルアに言われてしまったら仕方あるまい。

とりあえず、今度からは心の声でもさん付けをしよう。

そもそも敬語とか得意じゃないんだけど…頑張って見ようかな。

社会経験が無いのは中々に不便だ、そんな風に思ったことすらない。

会話をする時はさん付け、それ以外は別に何でも良いと思ってたし。

うーん…難しい、そもそも目上と話すことすら稀だったしなぁ。

と言うより、目上所か人と話すことすら稀だった。

両親くらいだったし、1人暮らしを始めてからは殆ど会話も無かったしな。


「うーん」


とりあえず今はケミー…さんが戻ってくるまでは待機になるかな。


「お姉ちゃん、はい!」

「あ、ありがとう」


結局リンはマリスの説得に負け、俺をこの宿屋に残した。

少し寂しそうな表情だったけど、マリスには寂しい思いをさせたし

今回は仕方ない事だ。


「ケミーさん、いつ頃戻ってきますかね」

「分からないかな…流石に…でも、信じるしか無い」

「そうですね、信じましょう」


しかしながら、敬語というのは何というか不思議な物で

普段から敬語を話す人は大体話し続けている。

その相手が子供だろうと、敬語を話す人は敬語で話す。

レベッカが良い例なんだろう。

俺は子供だというのに、レベッカが敬語をやめたことは無い。

不思議な物だ、こっちは敬語を使っていないのに

向こうだって敬語を使っていない、年上なのに。

しかしながら、レベッカはほら、年齢的には16歳。

俺は実年齢18を超えているわけで、敬語を話すつもりにはならない。

その事で何か言われたりもしていないけどな。

でも、実際敬語で話してくれなくても良いのに、とは思う。

あぁ、そうか、敬語はしなくて良いと1度も伝えてないからか。


「えっと、レベッカ」

「はい、何でしょう?」

「実は結構気になってたんだけど、わざわざ敬語を喋らなくても良いよ。

 ほら、こっちは子供だし、それに仲間同士だしさ、敬語は」

「あ、す、すみません、実はずっと敬語で過ごしてきたので…その…

 敬語をやめるのは抵抗があると言うか、相手が子供でもやっぱり

 実力はセイナさんの方が上ですし」

「た、戦ってないじゃん、それにほら、頭の方で考えても

 レベッカの方が戦術性も得意そうだし、そっちで強そうだし。

 だから、敬語をする必要は無い…と、言ってみたは良いけど。

 いきなり変えるのって恥ずかしいかな…じゃあ、無理しなくて良いよ。

 でも、大丈夫だって思い始めたら敬語をやめてくれ」

「はい、ありがとうございます」


何故お礼を言われたのだろうか…そこは少し分からなかった。

まぁ、深くは言及するまい。


「お姉ちゃん、ご飯の間に話すのはお行儀が」

「良いだろ、別に…後、俺に食わせようとしないで」

「なんで? はい、あーん!」

「だ、大丈夫だって、何か恥ずかしいし!

 そもそも、妹に食べさせて貰う姉ってどうだよ。

 そう言うのは姉である俺がするべきだ、ほいほい、あーん」

「あーん、はむ…」


……躊躇わずに食べた…ノリでやったけど普通に食べたな。


「それじゃあ、私の方も、はい、あーん」

「なんでそんなに食べさせたいんだよ…ひ、1人で食べられるから」

「むー、分かったよ」


本当、デレデレだな、たまに思いだしたようにツンになるけど

これじゃあ、ツンデレでは無く、デレツンだな。

まぁ、どっちにしても可愛いけど。

あぁ、美味しいな、この親子丼。

やっぱり、冷蔵庫に貯蔵されていた大量の鶏肉と卵は俺の為に買ってた様だ。

毎日の様に帰ってきた俺に親子丼を食べさせてあげようと買いだめてたみたいだ。

でも、俺が帰ってこず、少し自棄になり始めていて掃除などもしてなかったらしい。

部屋の飲み散らかされた缶もケミー…さんが、俺を見付けることが出来ず

自責の念からお酒に逃げていたから散らかってたそうだ。

掃除が出来ていないのも、マリスは自棄になり始めていたからで

レベッカが少し片付けては居たけど、流石に処理しきれなかったらしい。

ベットが片方だけ整ってたのも、お姉ちゃんが帰ってきた時の為に

綺麗にしておくのと言い、マリスが毎日の様にそこだけは整えてたらしい。

何か…健気すぎて、凄く可愛い。

しかしだ、その場面をレベッカやケミーさん視点で見るとすると

何か悲しくなるだろう、特にケミーさんは自分の失敗のせいで

姉を失った妹が、そこに居ない姉の為に必死に無意味な事を繰り返す

なんて場面をみてたら…そりゃあ、より自責の念を感じた事だろう。

話を俺視点で聞いた場合は、俺って愛されてるって感じかも知れないけど

他人視点で見たり聞いたりすると、健気すぎて可哀想に思えてくるだろう。


「ふふ、お姉ちゃん」

「マリスさんが元気になって、私は嬉しいです」

「聞いただけでも、相当荒んでたみたいだしな…」

「本当ですよ…あの時のマリスさん、みてるだけでも辛かったです」


素直に反省しようと、心の中でそうハッキリと決心できた。

いやだってさ…そんな妹の話を聞かされて何も感じないのはおかしいだろう。

何か、もし俺が先に死んだりしたら、マリスも後追って死にそう。

で、もし魔物に俺が捕まったら…絶対にマリスは俺を助けようとするだろう。

前回は俺の指示で動いてくれたけど、もし喋れない状態になったりしたら

絶対にマリスは俺を助けようとするはず…色々な意味で掴まれない。

だって、そんな事になったら確実にマリスも捕まって

姉妹揃ってモンスターにエッチな目に遭わされてしまう。

姉妹丼になってしまう、何かエロい響きだが、状況は悲惨すぎる。


「…ふぅ」

「あ、ケミーさん!」

「中々苦労したけど…何とか説得できたわ」

「アリスさんを説得するの、そんなに大変だったんですか?」

「まさか、あの人も良い人だし、アリスさんの説得はすぐだったわ。

 説得するのに苦労したのはギルドの重役、丁度来てたみたいでね。

 依頼に動いたはずの私達の報告が中々来ないからって

 近況報告を聞こうとしてね、丁度良いタイミングだったわ」

「じゃあ! その人を説得したんですか!?」

「えぇ…何とかね」


ケミーさんはこっちにウインクをして、結果を報告してくれた。


「よっしゃぁ!」


1番感情的になったのは当然俺だった。

そもそも、レベッカやマリスはピンクキャットとの交流をしていない。

当然、そこまで喜べる物でも無いだろう。

だが、マリスは俺の喜びに反応し、一緒に喜んでくれた。


「解決策の啓示はまだだけど、時間の問題だと思うわ」

「ありがとうございます!」

「さ、ピンクキャットのメンバーにも報告しましょう」

「はい!」


俺達4人は意気揚々とピンクキャットの根城へ向った。

しかしまぁ、状況ってのはよく分からないな。


「な! アジトが!」

「…襲撃されたっての!?」

「元冒険者の集まりであるピンクキャットが…」

「冗談じゃ…」

「いや、まだ壊滅したわけでは無いわ! 戦闘音が聞える!」


俺達は急いでアジトの裏へ移動した。


「くぅ!」


そこには、巨大な3つ首の犬がいた、尻尾は蛇…その姿はまさにケルベロス!

どんだけデカいんだよ! ピンクキャットのアジトと同じくらいデカいとか!


「ケルベロス…! 相当危険なモンスターがどうしてここに!」

「大丈夫か!?」

「その声は…っは、最悪のタイミングに来たわね、セナちゃん」

「最悪のタイミングは、今より先だろ!」

「私達も加勢するわ!」

「こいつは強い…私達でも苦労する程よ…4人合流したところで!

 それよりも子供達をお願い! 後、負傷者28人!」

「ほぼ全滅じゃ!」

「うっぐ! ふ、不意打ちでね…子供達の避難をしてる間に、殆ど…

 もし負傷者が無理ならせめて子供達を!

 あの子達も、子供達の為に死ねるなら本望だから…!」

「冗談、私達ギルドが負傷者も子供達も放置するわけ無いでしょう!?

 とは言え、かなり危険なのは違いないわ、マリスちゃんとセイナちゃんは

 子供を保護して離脱を」

「馬鹿言わないでくださいな、ここで1ヶ月世話になったんだ

 その場所の危機を目の前にして、逃げられるかっての」

「お姉ちゃんが残るなら、私も!」

「……本来なら、無理矢理にでも帰れというのだけど。

 今は緊急事態だしね…でも、セイナちゃん、ハッキリ言うわ。

 あなたが戦うなら、あなたが戦う場所は最も危険な最前線よ。

 ピンクキャットのメンバーの2人も接近戦は得意ではない

 遠・中距離が得意な人達みたいだし…私も遠距離だし」


ケミーさんは身体に付けていた小さな銃を抜いた、銃器使いみたいだ。

そして、レベッカは弓術、マリスも同じく…残ってるピンクキャットの2人も

弓と銃器を俺に教えてくれた2人…接近戦を教えてくれた人は居ないか。

不意打ちを食らって、子供達の避難を優先していたからか。

その間、援護もない状態であの犬の猛攻を耐えていたというなら納得出来る。


「危険くらい、何度か潜った…ここで学んだ格闘術!

 あんたらの為に使わせて貰う! 早速恩を返せるなんてついてるぜ!」


強がりでしか無いが、やるしかない!

俺はすぐにケルベロスとの間合いを詰め、注意を惹くために行動を開始した。

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