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猛訓練

鍛えてくれるというのは、非常にありがたい。

しかしながら、かなり辛いのは事実だ。


「さぁ、しっかりして!」

「うぅ!」


ピンクキャットの複数人と特訓と言う事で

流石に無傷とまでは行かない。

手加減はしてくれているが、それでも相当辛い。

一撃一撃が重い、回避することに専念しないといけない。

防御で受け続けるというのも体力を消耗する。

格闘術の訓練でも相当しんどいが。


「いくわよ、次は私の攻撃を捌いてみなさい」

「か、回避じゃ駄目?」

「駄目、流しなさい、回避出来ない状況でも身を守る為よ」

「うぅ…」

「最初は手加減してあげるわ、ゆっくりと加速するから」

「うん」


ピンクキャットの1人、パール、彼女は格闘術が得意だそうだ。

俺の格闘技術の向上の為に教えてくれている。

でも、スキルの性質的には俺の方が上。

彼女は大で、俺は特大…それなのに。


「はぁ!」

「う!」

「ほら、最初で根を上げないで!」

「あぶ!」


それなのに、俺は彼女に手も足も出なかった。

攻撃のことごとくが予想を外してくる。

俺は背が小さいから、有利である筈なのに

そのハンデを感じさせないほどに強力で素早かった。

捌き、後方に回ったと思えば足が飛んで来る。

それを捌けば、少し上昇、その場に拳が飛んで来る。


「いた!」


流石にその拳は回避が出来ず、俺の頬に当る。

でも、さほどは痛くなかった、確実にこの攻撃を当てられるという確信が

向こうにはあったんだ、だから加減した…それはつまり、俺の行動まで読まれている

そう言う事になる…格闘(特大)を持っているからと侮っていた。

自分のこのスキルなら、大体の相手は圧倒できると、そう勘違いしてた。

そんな事は無い、格闘術、その術が無い限り俺はこの能力を生かし切れないんだ。


「どうしたの? その程度? 私は子供だからと言って加減はしないわよ!」

「…もっと上に行くために、意地でも!」


このままじゃ駄目だ、このままじゃマリスを守れやしない。

俺は絶対に強くならないといけない、上を目指さないと駄目だ。

キングスライム程度に遅れを取っていた俺だが、それじゃ駄目なんだ。

上を目指す! このスキルを生かすために!


「まだやれる…まだまだ!」

「そう来なくちゃ、鍛えてても冷めるだけだからね!」


そのまま、1時間ほど、俺はパールさん相手に戦った。

何度も拳を受けた、腹にも頬にも、その拳一撃一撃は軽かったが

それでも結構応えた、後半になればなる程一撃は重くなっていく。

もう結構痣だらけ、それでも俺はワーウルフ、この程度の痣ならすぐ消えた。


「はぁ…はぁ…ふぅ…」

「口、何カ所か切っちゃった?」

「大丈夫、すぐ治るから」

「良い根性ね、あの短期間でそこそこ成長したわ、その成長性は素晴らしい」

「だから、もっと強くなる為に」

「いえ、格闘術はここまで、はい、今度はこれね、しっかりと狙って」

「弓矢…いや、それは」

「良いから、色々な事を練習することは大事よ」

「う、うん」


訓練内容は格闘術ではなく、弓術、剣術もあった。

格闘術はそれなりの評価を受けたが

弓術や剣術は駄目駄目で、中々に上手く出来ない。


「2点、もっと真ん中を狙いなさい」

「か、格闘術だけで」

「駄目よ、臨機応変に色々な武器が扱えるようにならないと」

「うぅ…」


もうこんな調子で1週間は経過している。

そろそろマリス達が動いてもおかしくない状況ではあるが

動けていない、ピンクキャットがそれ程に隠密スキルに秀でている証拠だ。

と言うか、俺を新しく捕獲した後、新しい子供を集めては居ない。

ピンクキャットのメンバーの内、4割が俺の訓練に力を入れている。

残り6割は良く分からないけど、3割はリンの訓練に励んでると聞いた。

つまり、残り3割が子供達の世話などをして居ると言う事になる。

こう言う状況だから、子供を新しく集めてくる余裕が無いのだろう。

大半は俺の訓練へ集中しているから動けないんだ。

ピンクキャットのメンバーは30人だからな。

現状、9人が食料調達と調理と世話をしているんだし

子供を集めるよりも、そっちのサポートに回った方が良いだろう。


「ふぅ、今日はこれでお終いね」

「はぁ、はぁ、あ、ありがとうございました…」

「あなたはやっぱり筋が良いわね、1週間でここまで成長出来るんですもの。

 最初は擦りもしなかった的にも、今は当てられるようになってるし

 格闘術も良い筋になって来てる、剣術だって同じで成長性が計り知れないわ。

 槍術もそこそこ順調だし、次は銃器の訓練もしてみましょうか。

 いや、流石に早いかしら、それよりも盾ね、剣術とあわせて訓練するわ。

 その後に魔法ね、魔法は扱える?」

「いや、全然」

「そう、実際魔法は結構しんどいけど、モンスターと戦うなら

 一応は覚えておいた方が良いわ、ダメージをより与えられるから。

 その代わり、消耗が激しいから使い所には気を付けないとね。

 魔法はそれなりに経験を積んでも5回使えば疲労するの。

 普通は1回でも疲労するから、覚悟しててね」

「は、はいです」


…魔法って、結構バンバン撃てるイメージだけど、ここでは使えないのか。

中々に大変そうだな…でも、使えればかなり効果的になりそうだ。

ルアの話では、魔物は魔力に弱い、女の攻撃で大打撃を受ける理由は

魔力を流し込まれるかららしいし、その魔力の塊をぶつける魔法なら

もっと大打撃を与えられると予想できる、でも、相当疲労する

諸刃の剣って感じみたいだし、気を付けよう。

そしてその日も1人で湯船に入り、1人で眠った。

何となく寂しい気分になった、それから更に4週間。


「そこ!」

「っふ!」


パールさんの拳を流し、背後に回る、同時に飛んで来る蹴りも回避。

回避で体勢が崩れる所を狙われるが、その拳を流した。

同時に腕を掴んで背後に跳び、そのまま投げる体勢を取るが


「っち!」

「うぁ!」


すぐに飛んで来た肘を避けるために手を離し、攻撃は失敗に終わった。


「ふぅ、良いわね、大分成長してきたわ」

「ありがとう」


格闘術も大分得意になった、足技との組み合わせも出来る。


「ふぅ…」


意識を集中して指先に力を込める、精神統一だ。

的は1つ、狙うべき相手は1つだけ、冷静に擦らさないよう指を離す。


「そこだ!」

「7点、良いわね、成長したわ」


弓術だって少しは出来るようになっていた。


「うりゃ!」


相手の剣を弾き、同時に間合いを詰めて振り払う。

その踏み込みは素早く、確実に相手の胴を捉えていた。

しかし、そこは経験が違い、弾かれた剣をすぐに構え直して

俺の攻撃を防ぎ、後方に逃げる。


「ふふ、やるわね」


剣術も扱えるようになったし、盾も使えるようにもなった。

魔法も扱える、まだ基本のファイヤーしか撃てないのだけど

それでも魔法を扱えるだけで、状況は覆せるといえる。

槍術もお手の物…って程に成長出来たわけではないが

それでもかなり上手に扱えるようになったと言える。

銃器の扱いにも少し長けてきたし、短刀の使い方も大分理解できた。

特に短刀は格闘術と上手く組み合わせる事で強力になるから

この取得は大分俺にとって利になったと言える。


「1ヶ月でここまで成長出来るなんて凄い成長性ね。

 やっぱりワーウルフは筋が良いのかしら、野生の勘もあるしね」

「ありがとう」

「それじゃあ、私達はあなたへの訓練を少し少なくしても良いわね」

「…ま、待って、それはまだ、教わりたいこともあって」

「どうして? もう十分でしょ? それにそろそろ妹とも会いたいでしょう?」

「…それは、会いたいけど…それでも待って」

「……?」


今まで問題が無かったのは、ピンクキャットの大半が

俺への訓練で忙しかったからだ、動きがあれば必ず足跡が付く。

もしこのまま俺への訓練が止まり、マリスを攫う様に

ピンクキャットが動けば…恐らくケミー達に足跡を見付けられ壊滅だろう。

まだ解決策を見付けていないんだ…流石に動かれるのは不味い。

ケミー達を説得することが出来れば、可能性はあるのだけど

それは最終手段だ、最後の手段。

失敗すれば後がなくなるような、そんな最終手段。

でも、その最終手段をより確実にする方法はある。

危険なのは間違いない…のだが、それでももうこれ位しか閃かない。

騙すという行動は、お互いにとってマイナスになるから。

そろそろ本性を見せよう、猫を被ってた姿を捨てて。

従順そうな子供から、普段の生意気なガキに。


「……俺は皆さんに感謝してる…ちゃんと育ててくれて鍛えてくれて。

 だから、これ以上危ない事はして欲しくない」

「どうしたの? 改まって」

「俺は本来…あなた達を捕まえる依頼を受けてこっちに来た」

「……そう、そんな気は少ししてたの、子供でここまで筋が良いんだから。

 確かに、私達を拘束出来るチャンスを作れるのは子供くらいだもの」

「それが分かってても、俺に色々と教えてくれてたのか?」

「えぇ…依頼を受けるしかない子供を救いたいと思ったから。

 それでどうする? 私達は…抵抗しないわ」

「……何故?」

「ふふ、子供を無理矢理力で脅すのは、私達のポリシーに反するから」

「そうかい、でも大丈夫だ、もしあんたらを捕獲しようというのであれば

 ここでこんな事を言わない、不意打ちで寝込みを襲う。

 今、この事を告げたのは…あんたらと言うよりも

 子供達の為に何とかする方法を考えたからだ」

「…何? 聞かせて、子供達の為なら聞くわ。

 もし捕まった場合、あの子達がどうなるかが1番の不安だったの」

「…俺を解放して欲しい、そして、村にいるギルドのメンバーを説得する」

「……」


これが俺に出来る最善の手だ、当然危険なのは間違いないだろう。

でも、1ヶ月間ずっと訓練してた理由は技術を身につけるだけではなく

もう1つ、ピンクキャットたちとの間に確かな信頼を築くためでもある。

信頼も出来ない、正体も分からない、心も意思も分からない。

どんな人間かも分からない様な、そんな奴にこんな事を言われても

きっと、困惑するし、大人しく受入れる事もしないだろう。

だけど、1ヶ月間子供達とも遊んで、苛烈な訓練に付いてくるような

そんな真面目な奴ならどうか…そこまで信頼できないかも知れないけど

少なくとも、最初の状態よりは信頼をしてくれるはずだ。

もはや賭けに近いが、これが、俺が出来る最善の手。


「信頼…してくれないかな?」

「……いいえ、良いわ、お願い。

 いつか私達は捕まるのは分かってる。

 やってることは正しいと思うけど

 その為の手段はあまりにも他者から見れば酷だもの。

 いつか捕まる、そう考える度に出てくるのは子供達の事ばかり。

 その子達くを救える可能性があるというなら…私は…私達はそれに賭けたい」

「えぇ…それで良い」

「子供達の為なら、私達はどんな賭けにでも乗る」

「ありがとう…でも気になるよ、なんでそんなに子供達を気に掛ける?」

「言ってないわね、そう言えば…えっとね、私達ピンクキャットはね。

 ……子供が生めないの」


子供が生めない…それは、女としては凄く辛いのでは?


「子供が生めない、昔、モンスターに襲われたときに子供を生めなくなった。

 実際、この世界じゃよくあることよ、モンスターに襲われて

 子供が生めない身体になったなんて事は良くあるの」

「とは言えね…私達はその中でも中途半端に運が良かった類いなの。

 殆どは子供が生めなくなるほどに酷い目に遭った場合…精神崩壊して

 そのまままともに喋ることも動くことも出来ない状態になる。

 私達はその状態にならなかった、中途半端に運が良かった元冒険者」

「…だから、あんなに強かったのか」

「強いとは違うけどね、結局駄目だったんだし、こんなにも落ちぶれてる。

 他にも精神的に無事だった冒険者は居るけど、それはそのまま冒険を続けてる。

 元々、子供なんていらないと、そんな風に考えてる冒険者が多いのよ。

 そもそも、危険に身を置く職業、それ位の覚悟がないと出来やしない」

「でも、私達にはそれがなかった、酷い目に遭って、ギリギリ精神崩壊は耐えた。

 だから、もう酷い目には遭いたくない、子供を作って余生を過ごしたいって思った。

 だけどね、もう子供を作れる身体じゃない…でも、子供は欲しかったの」

「それで、ピンクキャットを結成して…子供を攫ってたのか?」

「えぇ、両親が居ない子供や酷い虐待を受けてた子供を攫って

 ここでね…母親ごっこに励んでいたのよ、子供達に自分達の事を

 お母さんって言わせて、本当の娘みたいに育ててた。

 だけど、いつか捕まることくらいは分かってた…実際攫ってるのだしね。

 でも、私達にとって、彼女達は…あなたも含めて、本当の娘なの。

 だから、もし私達が捕まった後…あの子達はどうなるのか、ずっと不安だった」

「だけどもう、私達にはどうする事も出来ない…もう、あなたに賭けるしかない。

 私の…私達の自慢の娘に…賭けたいの」

「……そうか、それなら、リンも一緒に解放してくれ」

「え?」

「あの子と俺の2人で説得する…被害者の1人が一緒に居た方が説得力も増すだろう。

 それに、お前達にとって…最も自慢の娘だ、その子にも賭けて欲しい」

「……分かったわ、明日…リンと一緒にあなたを解放する…お願い、子供達を助けて」

「分かってるよ、出来ないと思う約束はしない」


確実に出来ると言う確信がある訳でも無いがな。


「ありがとう…それじゃあ、あの…私達のお願い、良いかしら」

「ん?」

「今日は一緒にお風呂に入りましょう、一緒に寝ましょう

 ずっとあなたは1人だったから、一緒に入りたかったの」

「…いやでもさ、流石に30人と一緒に入るのは無理だろ」

「そうね…グチョパをしましょう!」

「最高で何人?」

「湯船の大きさから考えて…5人ね」

「グチョパってどう分けるの?」

「セイナちゃんにも参加して貰って

 セイナちゃんと同じ人はお風呂に入るチャンスを得られるの!

 眠る方はセイナちゃんとお風呂に入った子以外で同じくグチョパよ!」

「良いわよ、やってやろうじゃないの!」

「あはは…」


とりあえず勢いに乗せられ、俺もグチョパに参加することになった。

……いや待て! ヤバいんじゃないかな! 俺!

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