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1時間の防衛戦

結構ヤバい状態だというのは大体一目で分かっていたが。


「ち! 弱点狙っても怯まないって嫌すぎるわ!」

「1番辛いの、多分俺なんだけど」


俺の攻撃一撃一撃が重いからなのか、リルドラは俺を集中的に狙っていた。

攻撃を躱すことに徹することになって、反撃の隙も無い。

群れで生活しているからなのか、連携もかなり強烈だった。


日が沈んじまってるから攻撃が見えにくいってのもある。

ワーウルフじゃなければ、攻撃を見て避ける事は出来ていないのだろうな。

ここはワーウルフで良かったという点だ。夜目が利くからな。


「お姉ちゃん危ない!」

「うぉ! あっぶね! サンキューマリス! この!」


こうもごちゃごちゃして居ると、前衛である俺達は状況を把握しきれない。

後衛からの指示が飛んできてくれてるお陰で事なきを得ているがキツいな。


「ケミー、この状況どう思う?」

「接近に気付けて村人の避難も出来て

 前みたいに防衛に戦力を割けられない状態では無いとは言え

 この数は流石に処理しきれませんよ。このままだとセイナちゃんが」

「えぇ、私もそれを危惧してるの…古傷が痛もうと私が出るべきかしら」

「アリスさんはもしもの場合の保険です。

 いつでも接近できる位置で待機をした方が良いです」

「でも…くぅ、この場面で何も出来ないのはあまりにも辛いわ」


ケミーさんが言うとおり、アリスさんは最悪の事態に対する保険だ。

もし俺かポーラさんが崩れた場合、アリスさんが居なければ事態が悪化するからな。

前衛であるどちらかが崩れると言う事は、もう1人に一気に負荷が掛る。


流石に今の2倍近くの相手と同時交戦というのはいくら何でも辛いだろう。

そうなれば、残された前衛も一気に潰れて前線は崩壊。後衛も運命を共にする事になる。

リルドラは動きが速いモンスターだ、逃げ切るのは困難だろう。


「うぉ! この! 服が破れただろが!」


何とか反撃でダメージを稼いでは居るが、一撃では沈まない。

単体としての脅威度はリバーススキュラに劣るのかも知れないが

集団となれば、この頑丈さは馬鹿には出来ない。


「ポーラ、後ろは良いから前ね」


クロがそつなくポーラさんへの援護を行なっている。

氷属性や草属性などの足止め系での援護が多い。

攻撃による援護の数はかなり少ないと言えるだろう。


この状態だ、ダメージを稼ぐよりも安全を取る方が良いに決っている。

俺達は今、1時間この猛攻を凌ぎきると言う課題を行なっているんだからな。

殲滅が最終目標ではあるが、今の目的は1時間の防衛戦だ。

だから、殲滅よりも足止めによる時間稼ぎの方が効果的と言える。


「しかし、1時間…思った以上に長そうだ…」

「援護しっかりお願い! 流石にこれは私達2人じゃ長く持たないわ!」

「任せて!」

「…魔力、持てば良いけど…」


本当、冗談じゃ無い程に厄介な状態だよなこれ。

ひとまずは主に回避をメインにして立ち回るけど

下手すれば一瞬で壊滅、気が抜けない戦闘だ。


「セイナさん、あまり攻撃を強くしないでください!」

「あぁ、分かった!」


敵の攻撃を避け続けるのは辛いが、それと同じくらい辛いのは

このダメージによるヘイト管理なんだろうな。

現状でもリルドラは俺への攻撃を主に仕掛けてきている。

これ以上ダメージを稼いで、ポーラさんの方に向ってきているリルドラが

更にこっちに流れてきた場合、耐えるのがより辛くなる。


「とっとと!」


クソ! リルドラが攻撃を仕掛けてきて、回避したと思ったら

また別の奴が攻撃を仕掛けてくる。

同時に攻撃を仕掛けてくることはあまり無いが

誰かが攻撃をして、隙が出来たところに更に攻撃が飛んで来る感じだ。

それがここまで数が多いと、何処へ逃げても隙を突いてくる奴が出てくる。


「あぶ! な!」


攻撃を避けるのに少し手間取り、大きな隙を残して攻撃を避けてしまった。

そのせいで、別のリルドラによる追撃に対処しきれていない!


「リーフバインド、さっさと態勢直して!」


危うく攻撃を食らうと言う時に、クロによる援護が入った。

攻撃をしてこようとしていたリルドラの足下から茨が生えてきて

リルドラを僅かな間だけ拘束。拘束はすぐに破られたが

その一瞬は俺には十分過ぎる隙を生んでくれた。

俺は態勢を立て直してすぐに距離を取ることが出来た。


「ありがとよ!」

「前見てね」

「分かってる!」


お礼の言葉を言う余裕しか無かったが、すぐに次の攻撃を避ける。

流石にここまで敵の手数が多いと避けるのが一苦労だ。


「くぅ!」

「ポーラ!」

「た、盾で受けても結構痛いわね」


ポーラさんはあまり盾は使っていなかったが、今回は使用しているようだった。

しかし、リルドラの攻撃を受けて、結構な防御ダメージを喰らってるらしい。

あの巨体による攻撃だ、盾で受けてもキツいのは当然か。


「セイナ! 前見て!」

「うぉ! あっつ!」

「お姉ちゃん!」


ち! ポーラさんの方に意識が向いてたせいで尻尾のぶん回し貰っちまった!

クソ痛いんだけど! こんなの…まぁ、鬼から攻撃貰ったときよりはマシか…?


「お姉ちゃん! 後ろだよ! 避けて!」

「っ!」


どうやら尻尾で吹っ飛ばされてる俺の背後にリルドラが…

この場面じゃ背後を見る余裕も無いが、嘘を言うことはあるまい。

恐らくだが、大きな口を開けて俺が口の中に入るのを待っているのだろう。


とは言え、対処方が無い訳では無かった。

俺はその状態で腕を背後に回す。美少女がする背中に腕を回して組むわけでは無く

どちらかというとピッチャーが投球するときに後ろに手を回すあれ。

初期モーションかな、そこから身体を捻ったりはしないけど。


(ルア!)

(はい、分かりました)


その状態でルアにお願いをして、手元に月下の大剣呼び出して貰った。


「うえ!?」


刃は背後に居るであろうリルドラの方に向いていたのだろう。

何かが思いっきり刃に食い込むような感覚になる。

そのまま大剣を軸に縦に1回転、リルドラの首に乗る。


「そら!」


すぐにリルドラに刃が食い込んでいた大剣を引き抜き

リルドラの首を大剣で叩き落とした。


「凄い! やっぱりお姉ちゃん凄いよ!」

「ゾッとしたけど、何とかなって良かった…でも、気を付けてね!」

「すまんな、ビビらせちまったみたいで!」


だが、この一連の攻撃によりリルドラ達の攻撃対象は俺へ絞られた感じになる。

ポーラさんへの足止めは少数になり、大半が俺へ向ってやって来た。

参ったな、こうなるとブレイブスラッシュで仕掛けたいところだが

この数、威力を発揮できるかは分からないし、そもそも切断できるか?


いや、止めておいた方が良い。流石に大剣のブレイブスマッシュじゃ無いと

こいつらに大打撃は与えられないだろうが、大剣によるスキル発動は

発動後の隙があまりにも大きすぎる。この場面じゃ危険すぎだ。


「ち! 数が増えるのは面倒だな! でもまぁ数を減らすチャンスか」


ひとまず大剣を戻して貰い、剣を再び構えた。


「行くぞ! ポイントショック!」


リルドラの攻撃に合わせ背後に飛び退くと同時にこいつを発動した。

リルドラの鱗は防御力が高いようだが、貫通性能に特化したこのスキルなら

その鱗だって貫いて、一気に打撃を与えることも出来るはず。


「うし! 結構大打撃を与えた!」


俺の予想通り、ポイントショックはドンピシャだった。

リルドラ達はこの貫通性能に特化した魔法を防ぐ事は出来なかったようだ。

お陰で何体もリルドラ達を射貫くことが出来た。


「鳳撃!」

「お!」


更に追撃とマリスとレベッカによる鳳撃で正面のリルドラ達に大打撃を与えた。

悪くないかな、このまま上手く行けば殲滅も狙えるかも知れない。


「アリスさん、順調ですね」

「……えぇ、でもちょっと不安要素はあるわね」

「何がですか?」

「セイナちゃん…一撃貰ってるのよ。あの場で魔法を使ったのも

 もしかしたら、少し辛いから短期決戦を望んだ可能性があるわ」

「……」


いやはや、流石アリスさんだ。

そう、俺は今そこそこしんどい状態だった。

アリスさんの予想通り短期決戦を一瞬望んでさっきの魔法を使用したんだ。

しかしまぁ、確かに効果はあったとは言え大きな効果とは言えない感じだな。


「ふぅ、痛いのは苦手なんだ」


それでも前衛である俺が退くわけには行かない。

そのままの状態で30分間戦闘を続けた。

しかし、その間にも何度か攻撃を食らってしまった。


「……ち」

「お姉ちゃん無茶しないで!」


爪による攻撃も痛いし、尻尾の攻撃も痛い。

牙による攻撃はギリギリ避けては居るけど流石に辛いな。

辛いのは当然俺だけでは無く、ポーラさんも相当追い込まれていた。


「く…あと…何分よ」

「残り20分…」

「はぁ、はぁ…嘘……」


残り20分もあるのか…リルドラの数はまだまだ結構いる。

多分10体は仕留めたけど、正確な数は数えている余裕は無い。


「はぁ、はぁ…うぐぅ!」


く! そろそろ体力的にキツいんだけど! 全力で動き続けているわけでは無いが

それでも40分は辛い…腕が痛いな…畜生。


「やっぱり2人で前線を保ちながら1時間はキツいか。

 …残り20分…た、耐えられるか?」

「うぅ! あ、くぅ…」

「ポーラさ、うぁ!」


……く、クソ…ここに来て足が…不味い!


「お姉ちゃん!」

「くぅ、ま、間に合って!」

「……これで貸しは無しと言う事になるのかな」

「な!」


俺へ攻撃を仕掛けてこようとしたリルドラが地面に叩き付けられた。


「おま!」

「……貸し借りはこれで無しで良い? あ、一応戦闘は手伝うけど

 恩を感じる必要は無いし、貸し借りは関係ないから」

「ラキ…」


俺の目の前に現われたのはラキだった。

月を背にして、暗い視界の中、その深紅の双眼からは妖しい光が漏れる。

まさしく吸血鬼…初めてこいつを見てゾッとしたよ。


「何!? いや、考えてる場合じゃ無い! ポーラ!」

「うわ!」

「いっ…もう良い!」


俺がラキを前に呆然としている間にポーラさんの危機が救われていた。

クロによりリルドラの動きは封じられ、メリーとケミーさんの攻撃で怯ませ

その隙にアリスさんがリルドラを攻撃、ヘイトを自分に寄せる。


「お姉ちゃん!」

「ポーラ、少し下がって!」


その間にマリスとレベッカが俺達の元に駆けてきて肩を貸して撤退。


「…セイナ、後は任せて」

「……ラキ…何が目的なんだよ…」

「ずっと言ってる。あなたよ、今は休んでて。

 私も満身創痍のあなたを襲って奪うつもりは無い。

 正々堂々と戦う。夜で良かったね」

「……そうだな」


ラキの参戦は予想外だった、しかし状況が優勢になった訳では無い。

最悪に至らなかっただけで、状況が悪いのは変らないからな。

ラキの方は問題無いだろうが、問題はアリスさんの方だ。


「く……」


アリスさんはやはり古傷が痛むのか、攻撃を避ける度に辛そうにして居る。


「残り20分…あのラキって子が来てくれてるのはありがたいけど

 アリスさんは20分も持たない…数分でも辛いはず」

「そこのワーウルフ。下がれば良い。無茶しないで」

「……あなたが誰だか知らないけど、1人でこの数相手に出来るの?」

「私は吸血鬼、それも真祖。この程度相手にならない」

「吸血鬼…何でそんな奴が私達を」

「セイナに死なれては困るし、借りを返すためにね」

「……どんな冒険してきたのよ、あの子達は」

「それは…ん? 何!」


2人が会話をしていると、リルドラが自分達の後方へ攻撃を仕掛け始める。

リルドラの群れは背後と正面からゆっくりと崩れ始めて行った。


「誰よ今度は!」


リルドラ達は急な事態に動揺してか、全員その場から離れて行く。

そして、リルドラ達の群れの背後に居た存在が俺達の前に現われた。

ワーウルフ……リルドラ達の背後から姿を見せたのは

俺達と同じくらいの見た目をしたワーウルフだった。


「……時期じゃ無かったみたい、帰ろう」

「ちょっと待て、お前は何?」

「…すぐ分かる、でも今はまだ良い」


そう言い残し、彼女はすぐにまた森の中へ帰っていった。


「……本当、何がどうなってるのよ」

「まぁ良いか、やるぞ」


そのまま戦闘は何事も無かったかのように継続。

アリスさんは10分間の戦闘の後に痛みにより身を引いた。

その後の10分間は3人での迎撃だった。


「…よし、来たわ!」


その後、先駆けとしてやって来た第2部隊と一緒に戦闘し

少し経った後に合流した本隊達と共にリルドラの群れを撃退出来た。

少々予想外の事が多かったが、何とか事態を収拾出来て安心したよ。

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