抑えられない好奇心
あのやり取りの後、俺は自分の家に2人を案内することにした。
クロが言っていた事にも確かに一理はあるからな。
特にメリーとポーラさんの2人は久し振りの帰省だ。
そりゃあ、家族水入らずで話をしたいことは山ほどあるだろう。
レベッカにも家族は居るから、そこに預けるわけにもいかない。
となれば、両親が居ないし家もある程度大きな俺達2人の家が最も適切か。
「はい、ここが俺とマリスの家です」
「へぇ、丘の上にあるのね。結構大きいじゃないの」
「俺達の両親、村でも屈指の実力者でしてね」
「なる程ね、強すぎる故にって感じかしら。
しかしあれね、結構男性は生まれてるのね、この村」
「そうみたいですね、各家庭に父親は居ますから」
「うーん、9割が女性という話だったけど…あ、もしかして純血同士だった場合?」
「可能性はあると思いますよ」
この村は殆どワーウルフだからな、人間の男はあまり居ない。
だから、マリスも王都に向ったとき、あんなにも嬉しそうにしていた訳だし。
「混血同士の間で生まれた場合は男も普通に生まれるのか。
これはメモメモ、混血と純血両方にマタタビは影響あるのかしら?」
「試さないでくださいよ?」
「試さないわよ、あなた達にしか」
「それも止めてください!」
「……ハッ! セイナだけを酔わせれば、マリスは私の!」
「今からでも宿探せ」
「ごめん」
ふふふ、家に泊めるという立場上、今は俺の方が上なのだ!
そこを突いて脅迫すれば、流石のクロも引くしか無いからな。
「でも、酔った状態ってどうなるの? セイナが酔ったらどうなるの?
私は全く覚えてないの…セイナにアタックしてた記憶はある。恥ずかしい。
何でセイナなんかにアタックしたんだろう?」
「何かとは酷いな」
「…試してみたい、セイナを酔わせてみたい」
「止めてくれ、俺が酔って暴走したらお前止められるのかよ」
「……スリープとかで」
「あ、そうね確かにそうだわ! スリープあるなら問題無いわね!」
「へ?」
「私も気になっててね、悪いけど私の知的好奇心に付き合って頂戴」
「待ってくださいイリアさん! それは不味い! 酔っ払うとか本当勘弁して!」
「マタタビ~」
俺の言葉を聞かず、イリアさんが鞄からマタタビを取り出した。
「さぁ、嗅いじゃって?」
「いえ、嗅ぎません!」
「あ! 家の屋根上に!」
ふふん、俺はこう見えてかなり身体能力が高いのだ。
自分の背丈以上に大きな屋根の上にひとっ飛びで移動なんて造作ない。
流石にここなら後衛であるクロと商人であるイリアさんは手が出せまい。
「くぅ! やっぱり身体能力高いわね!」
「降りてこい卑怯者-!」
「マタタビなんて嗅ぐもんか! 俺は酔っ払いたくない!」
「く、この手は使いたくなかったけど! 降りてこないならマリスちゃんに嗅がせるわ!」
「なぁ! イリアさんそれは卑怯です卑怯! 人質とか卑怯その物です!」
「ふふふ、マリスちゃんなら簡単に嗅いでくれるわ!
妹を助けて欲しければ大人しく犠牲になりなさい!
私の知的好奇心の犠牲にね!」
「ぐ、ぐにゅにゅぅ! なんて卑怯な…そ、その取引は俺が不幸になるだけですよ!
か、関わる人全員が幸せになる取引はどうしたんですか!?」
「いやぁ、これは商人としてじゃなくて探求者としてのあれだから。
それに大丈夫、一時的だから。酔うって気持ちいいとか言うし
あなたも一時的な幸福を味わえるし大丈夫よ!」
「さぁ、大人しく降りてこいへたれ-! 臆病者ー! おたんこなすー!」
「誰がへたれだ誰が!」
「降りてこーい! 酔っ払えー! デロンデロンに酔いやがれー!」
「クロ、その棒読み止めろし!」
「逃走者-! チキン野郎-! たまなしー! おっぺけぺー!」
「玉はねーし! チキンよりも卵派だ! 鶏肉美味しいけどやっぱり卵!」
「バーカバーカ! バーカバーカ!」
「ちが、馬鹿じゃねーし!」
「バーカバーカ!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!」
「バーカバーカ!」
「うるさいなこの馬鹿! 良いだろう、覚悟決めてやんよ!
マリスには手を出すなよぉ!」
ちょっと満足したから仕方なく屋根の上から飛び降りた。
「ふふふ、観念したわね!」
「うぅ…俺を酔わせて乱暴する気ですね! エロ同人みたいに!」
「エロ同人? よく分からないけど、小さい子が読んじゃ駄目よ?」
「マジに心配した表情しないでください! 冗談です冗談!」
「とりあえず乱暴はしないわよ、最悪の場合私達が乱暴されるけど」
「乱暴の意味が違いますよね、暴力沙汰になる方の乱暴ですよね?」
「何かあっても死なないようにするから安心して!」
「な、なんで知的好奇心に命賭けられるんですか!?」
「冒険者も同じよ! それ!」
あぅ…うぅ、ま、また視界が歪むぅ…力がドンドン抜けて…
「うぅ…」
「こうなるのか、ふふふ、セイナが私の前で跪いている。無様!
それが本来あるべき姿!」
「こ、こにょぉ…よ、調子に乗りやがってぇ…」
「どれ位嗅いだら完全に酔うのかしらね、マリスちゃん達は少し嗅いだら酔ったけど
セイナちゃんは案外酔わないわね。やっぱり個人差があるのかしら。えい」
「うぁぅ…」
あ、何かドンドン気持ちよくなってきた気がする。
まるで浮遊しているかのような感覚が…ふわふわーって。
「あ、あ…あひゃひゅぅ…」
「あ、顔が真っ赤になった」
「今のその顔は可愛いと思うよ? 情けないけど」
「はへぇ……あ、力がぁ」
「な! 私に抱きつくとは!」
もうなんか浮いてる感じがして…バランスが保てないぃ…
座ってるはずなのに…ま、真っ直ぐ…なれない…
な、何かに捕まらないとぉ…転けりゅぅ…
「ヒックヒック…うひゃぅ…」
「凄い泥酔ね。暴れそうな気配は無いから安心したけど」
「……」
「うぅ…意識…意識…がぁ…」
「……」
「クロちゃん、引き剥がしましょうか?」
「いや、このままで良い…」
「そ、そう?」
「……セイナ」
「んー…?」
「私の妹になって」
「……お、お姉ひゃんなら…良いぞ?」
「……妹で、マリスとセイナを妹にする」
「クロちゃん…顔がすごく赤いわよ?」
「……セイナがこんなに可愛いとは…妹にする。マリスと一緒に私の妹にする」
「せ、セイナちゃんはお姉ちゃんの方だけど…」
うぅ…なーんかー、もう好き放題したくなってきたぁ…
「ふ、ふふふ、良い子良い子してあげる、なでなで」
「にゃふぅぃ…じゃあ、俺もぉ」
「む! 胸がきゅんとなった…」
「何か収拾付かなくなってきた気が…」
「お姉ちゃん達、来てるならもう入ってき……」
「あ、マリスちゃん…」
「……お、お…お、お、お姉ちゃんの馬鹿ぁああああ!」
「はへ?」
「ん? あぶぁ!」
「お姉ちゃんを話して! お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなの!
私が良い子良い子されるの! お姉ちゃんを離してよぉ!」
「ま、待ってマリス、マリスも良い子良い子してあげる、わ、私が」
「お姉ちゃんにして貰う! 折角お家のお掃除頑張ったんだもん!
お姉ちゃんに良い子良い子して貰う! お姉ちゃんを離して!
お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなの! 私だけのお姉ちゃんなの!」
「にゃふぁぁあ!」
「あー、これが引っ張りだこという状態なのかしら。
両腕を引っ張られるよりはマシかも知れないけど…
セイナちゃん、お腹大丈夫かしら…マリスちゃんが思いっきりお腹を押してるけど」
「お、おご、おごごぉ! 苦しい! 苦しいよぉ!」
「…大丈夫じゃ、無さそうね…あれ? ちょっと待ってよ?
クロちゃんもあんな調子で、セイナちゃんがあんな状態だとすれば
誰がこの事態収拾するの? この場にいるの私だけ……」
「お姉ちゃんは! 私のお姉ちゃん! 私だけのお姉ちゃん!」
「ま、マリスもセイナと一緒に私の妹にするから安心して!
でも、今はセイナを私が独占したい!」
「駄目ー! お姉ちゃんは私だけの物なんだからぁ!」
「い、今は私に譲って!」
「うっにゅぅうう…」
あぁ~、お腹がぁ! お腹がぁ! 意識が意識がぁ! あ……
「あ、気絶した…」
「お姉ちゃんは渡さないんだからぁ!」
「も、もうちょっとだけ! もうちょっとだけ!」
「あ、あの…2人とも? セイナちゃんもう目がグルグル状態なんだけど?
確実にもう意識無いわよ?」
「お姉ちゃんを返してー!」
「も、もう少しだけで良いからぁ!」
「あー…聞いてない……後で謝らないと…こんな事態になるとは…」
「返してー!」
「もうちょっとだけ-!」
「……ごめんね、セイナちゃん」




