第九話
高校生になって、初めての冬がやってきた。今日はとても冷え込む。1月中旬になって、急に寒さが厳しくなった。日も短い。冬というものは、人恋しくするのだろうか。夕方でも真っ暗になるこの時期は、学生である自分たちには危険だと、大人たちは判断したらしい。「登下校は一人で帰らず、誰かと一緒に帰るように。この間も、お前たちと同じ学生が襲われたばかりだからな。」放課後のホームルームで教師が言っていた。ほとんどの学生は、部活があって皆一緒に帰る。帰宅部も大方の学生は友人と帰る。今更だから、みんな笑っている。「緒方!待ってくれ。」帰り支度をして、今日も寒いので図書館へ暖をとりながら勉強をしよう。席を立ち上がった緒方は、切羽詰まった呼びかけに振り向いた。「何でしょうか?」のんびりと見つめる。教師が帰る自分に声を掛けることは珍しい。教師は言いにくそうに口を開いた。「神埼を、知っているだろう。あいつはずっと一人でいるから、きっと今日も一人で帰るんだろう。申し訳ないが、緒方。神埼と一緒に帰ってくれんか。。。。心配でな。」すまなそうに頭を掻きながら、教師は緒方に言う。彼の事は自分も心配だと思う。いつも一人でいて、放心したように呆けているのかと思えば、人が変わったように勉強していた。変にもほどがある。しかし、彼自身が人を拒絶している以上、こちらからは何もできない。話し掛けようにも、下を向くばかりで早く立ち去ってほしいようだ。「。。はぁ。。」気のない返事をした。なぜ自分なんだと緒方は思ったが、なるほど、自分は教師受けがいい。「すまん。頼むよ。」教師も神埼のことは気にかかっていた。しかし、神埼自身が人に心を全く開かない。一緒にいても、居心地が悪そうにしている。いろいろと考えてやってはみたのだか、手応えというものがない。結局は、よくわからないのだ。「わかりました。」教師も悩んでいるのだなと緒方はぼんやり思った。自分も彼にはなんとも言えない不可思議を感じる。一人が好きなら好きでいっこうにかまわない。それなら堂々としていたらいいじゃないか。人など気にせずに。楽しく、気楽に。理解しようにも、全く彼がわからない。校庭で一人佇む彼を見つけた。神埼はいつも何をしているのだろう。これだけ一人でいるのだ。一人が好きだと思う。でも、一人で、寂しくはないのだろうか。彼は、もしかしたら、家族など身内の人間にしか心を開けない、とか。まあ、自分たちは高校生だ。そういうこともあるだろう。「神埼くん!」緒方の呼びかけにビクッと体が動く。まさか自分に声をかける存在がいるとは思わない。「一緒に帰りましょう。危ないですから。」やっと彼のところにたどり着いた。声をかけたら早くいかないと。神埼のことだ、またどこかへ行ってしまう。「。。。俺と。。?」なぜ一緒に帰るのか。久しぶりに合った目は、黒く濁ってよく見えない。「ホームルームで先生がおっしゃっていたでしょう。学生が襲われているのです。一緒に帰りましょう。神埼くん。」今度は、正面からはっきりと強く言ってみた。神埼の目が少しだけ明るくなる。「。。。うん。。」緒方と合った目を数回瞬きしながら、また神埼は下を向いてしまった。