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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第八話

冷え込みが続いた。神埼の仕事部屋は一番奥の東向きで、ここしばらくは、暗く、寒い。電気をつけているのだが、明るい光を嫌う患者もいて、神埼はいつも患者一人一人に合わせて、落ち着く光を選んでいた。光に心は敏感で、自分を無意識に責めている患者にとっては、あんな綺麗なものは自分には似合わない、と拒絶してしまうのだ。それは、神埼もよくわかるので、少し暗めにしている。心地よい暗さで、温かく。神埼は努めていた。「冷え込みが続きますね。冬は悲しくなります。消えてしまいそうで。早く消えろと言われているようで。」神埼は黙って静かに耳を傾けている。人は居場所がほしい。愛がほしい。安心してぐっすり眠れる温かなものがほしい。そして、人を拒絶していても、心のどこかでまた人との繋がりを求めている。人を信じたくないようで、実は信じたい。信じられたくないようで、信じてほしい。そんな声なき叫びを、神埼は静かに聞いている。「お疲れさまでした。今日のカウンセリングはこれで終わりです。」ひとしきり満足すると、患者はゆっくり去っていく。聞いてもらうことで少しすっきりするのかもしれない。神埼は否定をしない。否定は、心が落ち着く場所を奪ってしまう。患者だって、これではだめだ、なんとか良くなろうと思ってカウンセリングに来ているのだ。傷と向き合うのは思った以上に、苦しい。その苦しさを乗り越えて、ここに来て話をする。やっとできた心の休み処を壊すわけにはいかない。神埼は患者自身にその傷を乗り越える力があると信じている。患者が自分自身を信じていなくても、神埼は信じている。「今日も寒いな。緒方には鍋でも作ってやるか。」久しぶりにキムチ鍋なんかどうだろう。辛くて熱くて体が温まる。「体があったまれば、あいつも少しは落ち着くだろ。」バレンタインデーが近づいているからか、緒方はいろいろとせわしく動いている。あれやこれやとテレビを見たり雑誌をあさったりして余念がない。今年は何を企んでいるのだろう。去年は、年の数だけ薔薇の花束をもらった。情熱の赤い薔薇です。一面に広がる薔薇の中にひょっこりと緒方の顔がある。その満面の笑みで玄関に立たれたとき、ある程度の事は受け入れようと心構えをしていた神埼の心を見事に撃ち抜いた。。。恐ろしい男だ。「まあ、あと一ヶ月以上もあるし、そんなに凝ったやつでもないだろう。」チョコレートをくれればいい。本音は、緒方が元気でいてくれればいい。今年は、トリュフに挑戦してみようと神埼は思った。緒方は悩んでいた。この溢れるような愛を、どう神埼に伝えようか。季節の行事は大切にしている。特に愛を伝えるイベントは。普段、愛を伝える機会があまりないのだ。緒方にとって何かのイベントはありがたく、嬉しかった。「去年は花束でしたから、今年は何か残るものがいいのでしょうか。」いろいろと考えてはいるし、探してはいるのだか、これだ!と思うものに巡り会えない。「なんて残酷な、運命の悪戯でしょうか。。せめて愛の欠片でも残してくれたら。。」アクセサリーなど、身につけるものを神埼は好まない。神埼は物に頼ることを極端に嫌う。心に残したい。心で繋がっていたい。そんな考え方が彼らしい。「ああ!クリスマスにはケーキを食べてしまいましたし。チョコレートは神埼くんが作ってくれる。私はどうしたら!どうしたらいいのですか!!」この溢れる愛を!愛を!!緒方の苦悩は続く。

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