第十話
図書館への道を二人で歩く。相変わらず、寒い。少しは温かくなればいいのに。緒方は、空に向かって息を吹きかけた。自分の息は温かい。白くなって消えてゆく。「図書館へ行こうと思うのですが、神埼くんもどうですか?」彼が必死に勉強していることを知っている。神埼は、この間の中間テストで20番以内だったはずだ。勉強が好きなのだろうと緒方は思った。「。。図書館。。?」「冬は温かいですし、快適です。まあ、夏も涼しくて快適ですが。」それじゃあ、一年中、快適ってことだろ。神埼が少し、笑った。そうとも言いますねぇ。。のんびりと緒方が答えると、彼はきょとんとしたあと、今度は大きく笑った。「緒方って面白いのな。もっととっつきにくい奴かと思ってた。」。。。神埼に言われたくない。そう返したかったが、彼が珍しく笑っているので、静かに聞き流した。笑ったら幼い。いつもそうやって笑っていればいいのに。二人で歩いている間、神埼は体を強張らせたり、ビクビクしたり、自分の様子を伺うような不思議な空気を醸し出す。まるで、なぜ自分と一緒にいてくれるのだろうと、信じられないような、嬉しいような、夢のような。この和やかな空気を壊さないように、緒方が神埼を嫌わないように。彼は、自分に気を使う。言葉を選んでいる。そんな雰囲気を感じると、緒方はあまり居心地がよくない。彼は、彼であったらいいのだ。人には人の流儀がある。自分にだって、自分の流儀がある。神埼にも、何か譲れないものがあるだろうに。そうやって、相手の反応を伺って本来の自分を殺すことはない。堂々と、神埼は神埼であったらいいのだ。彼が弱いとは、緒方は初めから思っていない。神埼が人の機嫌を伺うことをしなければならないとしても、彼自身はそんなに弱くない。あれだけ一人でいたのだ。何かを抱えて。弱いはずがない。無価値でもない。つまらなくもない。無価値な人間などいるものか。おかしなものだ、と緒方は思う。今からちょうど一年前の自分。中学三年の自分は、神埼のこの態度が気に入らなかった。人に媚びていないで、堂々としていたらいい。苛立ってもいた。媚びないことは、周りへの信頼だ。自分が自分でいても受け入れられる。受け入れてくれる、という周りへの信頼。そんな信頼を自分たち、少なくとも自分には持ってもらいたかった。もっと頼ってほしかった。だけど。ビクビクしたり、様子を伺ったり。息を潜めているこの神埼は、神埼なのだ。彼は、彼らしくここにいる。自分のそばにいる。「今日も寒いですねぇ。。いい加減に温かくなればいいのに。」そんなに早く温かくなるわけがないだろ。神埼は、緒方の我が儘に柔らかく笑った。緒方は口を尖らせて、まだぶつぶつと言っている。早く温かくなればいいのに。ふんわり包み込めばいいのに。彼が寒そうじゃないか。




