第十一話
温かな食卓が並んでいる。温かい湯気がたっている。「愛ー!早く下りてきなさい。ご飯よー!」母はいつもうるさい。そして、強い。「お母さん、私はもうここにきて、晩御飯の用意を手伝っているではありませんか。上にいるのは、兄二人です。」あら、そうだったかしら。ごめんなさいね。にこりと笑って今度は兄二人の名前を叫ぶ。勇気!元気!愛!緒方兄弟の名前だ。。。なんでも父がこの言葉それぞれに思い出があるらしく。いつもそれぞれの名前を呼ぶと、じーっと子供の目を見てしばらくの間を置く。思い出に浸っているのだろう。感慨深さが見てとれる。「もう、お父さん、早くこちらに戻ってきてください。」ご飯ですから。父のしばらくはやや長い。いつものことなので誰も気にしない。今日は、たくさんの餃子だ。三人の食べ盛りに父が加わっている。この量でも足りないだろう。「母さんの餃子は旨いなぁ。世界一だね!」父は軽い。これでも医者だ。三人兄弟の一番上の兄は大学病院に勤めている。二番目の兄は医大生。そして自分は医学部を目指している。「父さん、もう少し食べる量を遠慮してくれませんか。早すぎます。」さっきまであった餃子が半分無くなっている。あっという間の出来事だ。二番目の兄、元気があきれ顔で言った。元気はその名の通り活発な青年で剣道5段である。自分もこの二番目の兄と一緒に道場に通っている。緒方家は、代々医者の家系だ。生まれた子供は本家の祖父のところに預けられる。母は抵抗し、せめて子供たちのご飯を側で作らせてくれと三人が預けられている間、一緒に暮らしていた。父は祖父にばれないように変装し、使用人に化けていた。「お前たち、そんな悠長なことを言って!軟弱者め!あの家が全てだと思うなよ!ここは、俺の家だー!」素早く残りの餃子をかっさらった。祖父の家では、ご飯のおかずは個人個人に振り分けられていて、きちんと正座をし、姿勢を正しくしながらゆっくり噛んで食べる。ここでは通用しない。「全く、父さんらしいですね。」一番上の兄、勇気が静かに微笑んだ。この兄は静かだが、気性は母譲りである。全く気にしない。父は祖父の、型にはまった教育や考え方にうんざりし家を飛び出した。医者としての祖父を尊敬していたようだが、一つのことを成し遂げるとそこに執着する。父は祖父の何かに反発し、出ていったのだろう。自分たち兄弟を預けることにも激しく反対したらしい。しかし、父の兄弟たちには子供ができなかったため、周りから散々懇願されて泣く泣く自分たち兄弟を預けた。一番上の兄、勇気が医者になり将来家を継ぐことを約束すると、祖父は安心し、一家が祖父の家を出ることを許した。一番下の自分が小学校を卒業すると同時に祖父の家を家族全員で出ていった。時々、勇気は祖父の家に行っている。祖父の意思のまま、緒方の家を継ぐことになった勇気を心配した父が、祖父とまた大喧嘩したらしい。当の勇気は、私があのお祖父さんに負けると思いますか?と静かに笑っている。母の次にこの兄が強い。自分は、この母と兄には敵わない。「何か嬉しいことでもあったのですか?顔が緩んでいます。」。。やはり、この兄には敵わない。




