第八十九話
ふと目が覚めた。隣を見ると神埼が穏やかに眠っている。生徒会の仕事に昨日の祝賀会と、いつもと違う環境が続いてとても疲れていたのだろう。ぐっすり眠っている。昨日、祝賀会が終わってアパートに着いたら眠そうに目を擦っていた。寝室へと連れていくとにっこり笑って抱きついてくる。甘えん坊な神埼が可愛くて優しく受け止める。とても愛しく思った。緒方は神埼の寝顔を見ながら今までのことを思い出していた。本気で物事と向き合うことを止めたのはいつだったか。先輩たちの視線や嫉妬が嫌になって、避けるように仕向けたのはいつからだっただろう。もう随分と精一杯やることから逃げてきた気がする。緒方は何事も徹底的にやることが好きで、限界だと思ったその先の世界を見るのがとても心地よかった。辛くて止めたくなるような状態から、もう一歩踏み込んでやってみる。すると、思いがけない想像を超えた世界が広がっていて、その世界がとても綺麗で夢中になっていた。しかし周りを見渡せば、いつの間にか人との距離が広がっていた。気づけば同級生が自分を遠巻きに見ていて、大人たちがとても喜んでいる。そして、冷たい突き放すような視線を感じた。自分の知らないところで自分のことをいろいろ話される。あることないこと言われ続け、いつも誰かに監視されているような居心地の悪い状態が続いた。その状態を避けるように、緒方は何かに集中することよりも周囲に気を使うことを優先するようになった。成果も周りから目立たないような結果になるように力を抜いた。足並みからずれないように。目立たないように。周りをよく観察して。特に警戒したのは上級生だ。何かをする時はわざとできないふりをして、上級生たちに華を持たせるようにし、自分は泥を被った。できないふりをしていると周りは嬉しそうに自分に寄ってくる。絡まれなくなって楽になったが、心のどこかがすーっと冷めていく。手を抜き続けていると、その不思議な冷たさが心の奥に根付いて、時々疼く。どうしようもなくなった時、一人になったのを確認して自分一人の闘いに集中した。自分で目標を立てて思う存分自分を律する。抑えていた分その孤独な闘いは緒方にとって楽しく、力を意図的に抜くことで自分を抑えていたストレスを発散していた。たまたま大塚と林に見抜かれて、二人の前では気を使わなくていいことがわかり、ずいぶん楽になったが、心の奥の冷たさは消えなかった。自分が自分を押し殺しているような。自分を観察し、抑えながら周りと歩幅を合わせる。とても窮屈で悲しく、まるで自分が自分であることを拒絶しているかのようだった。目立ってはいけない。周りの機嫌を損ねてはいけない。小さい頃、本家に預けられていた時と同じ肩身の狭い、冷たい世界。そうでなくてはいけないのだと知らぬ間に自分を縛っていた。こんなに集中して何かをすることは久しぶりだ。ふと杉本と宮田の顔が目の前に浮かぶ。力を尽くした自分を温かく受け入れてくれる上級生は初めてでまだ信じられない。力が抜けて体が軽くなる。杉本や宮田を何度も観察してみるが、その度に温かい優しいものが心のなかに流れ込んできて、ガチガチだった肩が緩み、心がほっとして安心する。嫉妬されたり距離を置かれたり、目立つことが悪いことだと思っていた。背中を押され、応援されたのは初めてだ。緒方が投げ出そうとした時、神埼は責めもせず、言いくるめず、真っ直ぐ自分にぶつかってきた。投げ出そうとした自分は、今思えば理不尽な先輩たちの責任にして、力を発揮することから逃げようとしていた気がする。誰かのせいにすれば、逃げることへの言い訳ができる。誰にも気づかれず自分は正当なのだと主張できる。責任逃れをしようとした自分を神埼は見抜いたのではないかなと思う。力を尽くしても集中しても、神埼は真っ直ぐ見ていてくれる。心の奥に閉まっていた、力を発揮して物事を成し遂げたいという願望を神埼は受け入れてくれた。たとえ一人になっても、嫉妬され批判されても構わない。神埼がそばにいて、真っ直ぐ受け止めてくれる。緒方を縛っていた緒方自身の恐れが一気に消えていった。今回も上級生に目をつけられたが心は驚くほど穏やかだった。とても静かで落ち着いており、嫉妬や悪意を冷静に受け止めることができている。周りの反応よりも自分に嘘をつかなかったこと、誠心誠意を込めて物事と向き合い、力を尽くせたことがとても嬉しい。長い間閉じていた冷たい扉に清々しい爽やかな風が激しく吹き抜け、一気に開いた。とても気持ちがよかった。「神埼くんといると、私が私でいられます。周りが全く気にならなくなるのです。あんなに恐れていたのに。。不思議ですね。あなたが私を見ていてくれる。どんな私もそのまま受け入れて包み込んでしまう。どんなにぶつかっても、逃げず、あなたの声を聞かせてくれる。安心します。ありがとう。神埼くん」それが緒方には叫びたくなるほど嬉しく、とても幸運なことだと実感していた。本気をぶつけても避けられることが多かった緒方にとって、ありがたい奇跡的なことだ。寝ている神埼の頬をそっと撫でる。神埼が愛しい。出会えてよかった。そばにいることができてよかった。今の幸せを噛み締める。私はもう逃げませんから。自然と笑みがこぼれてくる。寝ている神埼の頬に口づけて囁いた。辺りはまだ暗く朝は遠い。緒方は神埼の頬を撫でながら穏やかな寝顔をずっと眺めていた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
ドラマの一挙放送を見ていますと、とても面白いテレビ番組がたくさんあったのだなぁとしみじみです。ゆっくり見たいと思います。楽しいなぁ。。
ではでは、皆様これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




