第八十六話
卒業式が始まり全生徒へと生徒会からの演説が行われた。送辞も兼ねた演説はとても素晴らしく堂々としていて、生徒たちの心を掴むには十分すぎるほどで、終わったあと大きな喝采に包まれた。演説を終えた杉本は複雑な心境で舞台から下りる。予想以上に反応は良く、これからのかつての仲間との火種になるだろうと警戒していた。卒業式も滞りなく終わり、林の描いた絵や神埼の飾りつけなどにも注目が集まった。地元の風景のなかに卒業生を送ろうという温かい心が表現されていて、生徒による卒業式の設置が今年初めてということもあり、卒業生だけではなく保護者からも称賛された。先生たちも嬉しそうだ。「生徒自ら考え、行動している。来年の生徒会の活動が楽しみですね」そんな周りの反響もそのまま卒業式の運営をやり遂げた1年の後輩たちに返ってくるだろうなと思い、杉本は心配している。杉本は昔から何もできず周囲から馬鹿にされることが多かった。卒業式での演説も設置も自分の力ではないことは重々承知しているが、かつての仲間だった同級生たちはそうは考えていない。「想像以上だな。。飾りつけも素晴らしいし、何より温かさが溢れている。ますますあいつらは絡んでくるだろう」演説にたくさんの指示と指摘をしてきた。だからこそ、あんな素晴らしい演説ができたのだと同級生は思っている。これからも生徒会で何かをするときには、たくさんの指摘をしてくるだろう。本人たちはそれが生徒会のためだと思っている。自分たちが成し遂げられなかった分、指摘したことで力になったのだ、貢献したのだと思っているようだ。「厄介だなぁ。。指摘よりも実際に手伝ってくれた方がどんなにありがたいか。口で言うのと実際にやってみるのでは全然違うんだぞ」そこにお互いの認識の差が生まれ、ズレが大きくなっていく。杉本は大きなため息をついた。それでも自分は後輩たちの盾になりたい。緒方も大塚もこうなるとわかっていて力を尽くしてくれた。今までどんなに自分たち先輩のことを気にして窮屈な思いをしてきたのだろう。これからは後輩たちにはのびのびとその才能を発揮して、いろんなことをやり遂げてもらいたい。そのために力を尽くそうと杉本は思っている。杉本は小さい頃から自分が人の何倍もかかってやっと物事をできるようになるのだと実感していた。鈍臭くのろまで、普段人が平均的に感覚でわかることが杉本にはわからない。自分なりにやってみても、うまくできず結局周りに手間をかけてしまうので、いつも仲間外れになっていた。一人で遊ぶことが多かった杉本は、不思議と寂しいと思ったことはなかった。それはどんなに自分が鈍くて何もできなくても、そのままの杉本を両親がとても可愛がってくれたからだ。杉本は両親からよく言われていた。「命というものは、そのままで美しい。お前にはお前の、かけがえのないものがあり、みんなに祝福されてここに存在している。お前がとても愛しいよ。今日もここにいてくれてありがとう」自分を真っ直ぐ見てくれる両親がいつもそばにいてくれた。何とか人並みにできるようになろうと杉本は努力していたが、その人並みが程遠い。人がすぐできることが杉本には5倍の努力が必要だった。両親はそのままでいいと言ってくれたが、本当にこのままでいいのだろうか。関わる人に自分は努力しても、どんなに自分を磨いても届かない。結果できるまで時間がかかり、面倒をかけてしまう。このままでいいのか。日々葛藤する杉本はある時、こんな言葉と出会った。「私は私なりに自分を磨いて修行してやるだけやってみたのだが、結局私というものは、何の役に立たないちっぽけな存在だということがよくわかった。ならばこの私というものを最下層に置いて、見るものすべてのものが師だと心得て、教えを乞おう。周りのすべてから教わり、少しでも役に立てるような道を考えよう」その言葉に出会ったとき、杉本は自分の道を見つけた気がした。「あいつらからも学ぶことはたくさんある。俺がすることは後輩たちや同級生の意見を聞きながら、軋轢が起こらないようにみんなの役に立つような道を探す。そこに精一杯力を尽くすことだ」卒業式が終わり緒方はクラスメイトから演説のことや飾りつけなど、素晴らしかったとたくさん誉められた。とても嬉しかったが、自分を刺すような視線を感じてちらりと視線を向ける。案の定、生徒会のかつての先輩たちが自分を見つめていた。「こうなることはわかっていましたが、やり過ぎましたね。。。でも、中途半端が大変なことは今回でよくわかりましたから。逃げることはできませんね」隣にいる神埼を見る。クラスメイトたちに誉められて嬉しそうだ。きっと生徒会の想いが伝わったことが一番嬉しいのだろう。神埼が背中を押してくれなかったら確実に手を抜いていたし、中途半端に終わって何も変わらなかった。これは避けてはいけないことだ。緒方は神埼を優しく見つめた。「神埼くんがそばにいてくれますから。私は何も怖くない。背中を任せられる人が恋人だなんて。。私は果報者ですね」じんわりと幸せを味わっていた緒方に携帯が鳴る。杉本から祝賀会をしようとの誘いに、はい、と笑って答えた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
音楽を聞いていますと時間を忘れます。ついうっかり!が多いニケでございます。昨日のご飯の味付けが少し塩辛かったような。。気のせい気のせい。
ではでは、皆様これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




