第八十三話
生徒会の仕事はどうだったのか。先輩たちは納得して集まることになったのか。演説は出来上がって卒業式に間に合うようになったのはわかったが、その他のことは何もわからなかった。神埼は詳しく聞きたかったが、緒方は自分を不思議な温かい目で見るので落ち着かない。緒方の瞳のなかに今まで見たこともないような強く、優しく、熱い光が輝いていてその目で見つめられると体の奥が急に熱くなり息が苦しくなる。緒方に抱き締められていないのに、まるで何もかも捕らえられて身動きが取れなくなる。心臓の音が耳に大きく響き、鼓動が独りでに踊り出す。居たたまれなくて神埼はそっと目をふせた。「神埼くん、今日は焼肉美味しかったです。遅くなってしまい、疲れたでしょう。帰ったら先にお風呂に入ってくださいね」大塚と林に別れを告げてアパートへの道を歩いていく。神埼は緒方と目を合わせたくなくて下を向いていた。緒方のそばにいるとドキドキして苦しい。昨日まで普通に話していたのに。そばにいることが温かくて優しくて、ほっと安心していた。でも今日は何かが違う。緒方のあの目を見ると苦しい。自分が自分でなくなってしまうような。何かを求めているような。知りたいけれど、怖い。知ってしまったら自分は、もう今の自分に戻れなくなってしまう。神埼は直感的にそう思った。突然、顔を持ち上げられる。びっくりして目の前を見ると緒方の顔が間近にあった。緒方はしかめた顔をしており、眉にシワを寄せている。目は真剣でどこか不機嫌そうで、神埼を睨んでいた。「神埼くん。先程からずっと呼んでいます。なのに、なぜ返事をしてくれないのですか?疲れましたか?遅くなり過ぎて怒っているのですか?」怒った緒方の顔。大塚と林が散歩に行ってくると席を外した時、緒方は急に顔を持ち上げてきて、神埼の唇を自身のそれでふさいだ。いつも触れるだけなのに、今日は強引にこじ開けてきていつまでも離れなかった。少し隙ができた神埼に緒方の熱い想いが流れ込んでくる。執拗に神埼を求めてきて、引こうと思ったのに。逃がしません。と呟かれた。そのまま奪われてしまった。あの時のキスを思い出し神埼は体がかっと熱くなる。緒方は好きだが主導権を取られるのは癪にさわる。それに緒方に委ねることを考えると心のどこかで悔しい。緒方とは対等でいたいのだ。守られるだけの存在ではなく、自分も緒方を守りたい。負けたくない。自分が緒方に劣等感を持っていることを神埼は嫌というほど自覚している。頑張っても努力しても緒方には敵わない。自分がどれだけ欲しいと思っても手に入らないものを緒方は当たり前のように持っている。緒方は好きだ。でもこの対抗心は消えない。緒方に委ねるのは嫌だ。睨んでいるように見えたのだろう。緒方の顔が歪んでいた。「神埼くん。。。すみません。無理を言ってしまいましたね。。神埼くんが私にぶつかってきてくれて嬉しかったのです。あなたの感情を真っ直ぐ私に向けてくれた。嬉しくて、熱くなって。浮かれてしまいました。申し訳ありません」緒方はそっと手を離すと下を向いた。アパートへの道は灯りが少なく元々暗い。緒方の顔が見えなくなった。神埼は急に不安になる。「帰りましょうか。今日はもう寝ましょう。明日、学校ですしね」下を向いていた顔を上げて笑っている。違う。これは笑顔じゃない。作り笑いだ。緒方はまた隠した。また?神埼は溢れてきた小さな不安がどんどん大きくなって確信に変わっていくのを感じた。緒方は今まで諦めてきた。自分の感情をそのままぶつければ、迷惑そうにされたのではないか。欲しいものを欲しいと言ったら、背けられたのではないか?緒方の要求は確かに大きく身も、心も、魂さえも持っていかれる。強くて激しくて純粋で。だから人は無意識に避けてきたのだろう。緒方も心ではわかっている。だから求めず諦めて。ぶつかることを避け、優しく冷たくなったのではないか。神埼の脳裏に緒方の悲しそうな不安そうな目が浮かぶ。今日、キスをする一瞬の間。緒方はとても悲しそうな嬉しそうな。遠慮した目をした。緒方のその目が悲しくて、自分が信じられていないようで悔しくて。緒方の目を強く見つめ返した。なのに。自分は自分のつまらない意地で、対抗心で緒方から逃げた。緒方の真っ直ぐな不安な心を避けて逃げてしまった。緒方は今、傷ついている。信頼できる、ぶつけてもいいと思えた相手に避けられたのだから。前を行く緒方の肩を掴む。勝手に涙が溢れてくるが知ったことではない。緒方と向き合うんだ。自分のすべてを捨てて。緒方のためなら、こいつのためならば、なんの悔いもない。持っていきたければ、すべて持っていけ。この身も、心も、魂さえも。神埼は緒方のネクタイを引っ張り、強引に緒方の唇を奪った。背の高い緒方を屈ませるのは大変だが、それどころではない。緒方に思い知らせてやらねば。お前がこれからたくさんの人に避けられても、俺だけはぶつかってくるお前から逃げない。ずっと受け止めて俺もお前にこのすべてを持ってぶつかる。心から溢れる想いを込めて神埼は緒方に口づける。それは一時のことだったかもしれないが、神埼にはとても長い時間が流れたかのように思った。突然のことで固まっていた緒方の手が神埼を捕らえる。強く包み込み離れなくなった。求めて侵入してきた神埼を受け入れ優しく受け止める。為されるがままだったが、神埼が疲れてふっと引いた瞬間、噛みつくように神埼を求めてきた。そのまま強く己を主張してくる。今度は神埼がそのままの緒方を受け入れた。何度も求めては受け入れ、受け入れては求めて。繰り返しお互いを求める。心が満足するまで、緒方が止めるまで。神埼は目を閉じていた。やがて緒方の攻撃が終わる。長い攻防戦に息が上がってどうしようもない。体が熱くて力が入らず緒方にもたれ掛かっていた。緒方は優しく神埼の頭を撫でる。緒方の目のなかにある光。ちゃんと自分を信頼しているか。求めることを諦めていないか。神埼はしっかり確認する。その目が不意に細められた。「神埼くんには、やはり。。。敵いませんね。。あなたを守ろうとした私が愚かでした。私はずっとあなたに守られていた。ありがとう。神埼くん。これからも私はあなたに付いていきますから」だから、そんな目で見ないでください。わかっているのですよ。私たちは学生ですから。キスまでです。困ったような嬉しさを噛み締めているような、不思議な笑顔をしている。温かい血の通った笑顔だ。神埼はその笑顔が嬉しかった。意地も対抗心も捨てよう。緒方が大切だ。こんな弱くて、女々しくて、心の小さい奴でごめんな。静かに手を解く緒方を見つめながら、もう一度緒方に触れるだけのキスをした。緒方の目が見開いて手で口を抑えている。手を繋ぐために触れてみると、びっくりするほど熱い。今日は寒いのになぜだろう。カイロでもポケットに入れていたのだろうか。「お前、手ぇ熱い!熱あるのかもな。風邪ひいたか?気をつけないと」本気で心配になった。緒方はまだ動かない。寒くないか?心配そうに気遣う神埼の手を握りしめながら緒方は呆然としていた。体中に回る熱が熱くて、神埼の目が熱くて、動けなかった。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
春ですね~!昨日のフィギュアのエキシビションに感動し、大島優子さんがファンに伝えた言葉に感動し、心が熱くなっとります。素晴らしい。。キラキラ光っていて温かくなりました。じーん。。涙もろくなってしまった。。
ではでは、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




