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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第六十八話

アパートの扉を開くと甘い美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。早くプレゼントを渡したくて気づかないうちに早足になっていたらしい。家に帰ってくると少し息が上がっていた。「おかえり~。外は寒かったか?」台所に行ってみると神埼が鍋にグツグツと何かを煮ている。鍋から苺の甘い匂いがしている。そばにはヨーグルトがあって食べながら作業をしていたらしい。ええ、昨日よりは寒かったですよ、そう言いながらコートを脱いで鍋を覗きこむ。神埼はたくさんの苺を一つ一つ手に取ると、包丁でへたを取っていた。少し腐れてしまった部分も丁寧に切り落としていく。「どうしたのですか?こんなにたくさん。」苺ジャムを作れるくらいだ。相当量が多い苺だろう。神埼がへたを切っている苺はずいぶんと小さい。うん。と神埼は言う。「もうシーズンも終わってこれは売れ残りの苺なんだって。売れ残った上に腐れ始めているから安くで買ったんだよ。」アパートの近くには小さい市場がある。新鮮で安いがスーパーで買った野菜よりもすぐ傷んでしまうので保存には向かない。なので少量の野菜や肉なら神埼はその市場によく買いに行っていた。緒方が出掛けている間にその市場に行ってきたのだろう。「今日で売り場から下ろされるんだって。せっかく育ったのに勿体ないだろ。で、市場のおばちゃんと話してたらジャムだったら保存できるだろうって。」それで作ってんの。誰かさんが甘いものが好きだって言ってたしな。穏やかに笑っている。その笑顔が優しくて柔らかい。緒方はくすぐったい気持ちになった。「一つ一つが大切に育てられたのですね。ではありがたく頂きましょうか。」緒方は神埼と話しつつ、さりげなくプレゼントを鞄から出した。ゆっくりと神埼の前に持ってくる。「神埼くん、ホワイトデーのプレゼントです。バレンタインチョコのお礼に。」プレゼントを見た神埼は目をぱちぱちとさせている。驚いているようだ。まさかプレゼントがあるとは思ってなかったのだろう。いいのか?と言いながらプレゼントを受け取った。開けてみて歓声を上げている。これって、リラックスグッツだろ?すごい!アロマも入ってるじゃないか!苺をひとまずそのままにしておいて、神埼はしげしげとプレゼントを見つめた。「可愛いな!こうやって使うの?」プレゼントを首から肩にかけてのせて、にこにこ笑っている。気持ちいい~!電子レンジで温めてみてもいいかな?わくわくしながら緒方に尋ねてきた。心から喜んでいるようだ。緒方は嬉しくなった。すべての苺が綺麗に洗われて細かく切られていく。鍋の中に入れられた。砂糖を足しつつ味を確かめつつ弱火でコトコト煮ている。その間も神埼は緒方からのプレゼントを肩にのせている。「。。。これ、緒方2号って名付けよう。温かいしほっとする。」ふふふと笑いながら緒方を見上げた。穏やかな笑顔に緒方は神埼にずっと聞きたかったことを言ってみようと思った。神埼の手を取って目を見つめながら伝える。ごまかしてほしくない。正直な気持ちを聞かせてほしい。「神埼くん、私はあなたを本当に愛することができているでしょうか?何か見落としていることはありませんか?私といて辛いことはありませんか?」ずっと聞きたかったこと。心のどこかで引っ掛かっていたこと。神埼にぶつけてみたい。手を握りしめながらなるべく優しく伝えた。神埼は驚いたように目を見開いて黙っている。鍋のコトコトとした音が辺りに響いた。緒方を見つめて下を向きながら考えるように黙ったあと、神埼は緒方を見上げた。「。。ひとつだけ。。お前が感じたこと、思ったこと。何でもいいから話してほしい。。かな。。どんな些細なことでもいいんだ。小さなことでも。今日は風が強かったとか、あのテレビ、面白いとか。」お前、一人の時よくぶつぶつ何か言ってるだろ?それも俺の前でもやってほしい。そう言うと神埼はいたずらっ子のように笑っている。まるで秘密を見つけてばらしたかのように。緒方は苦笑した。「聞いていたのですか?。。恥ずかしいです。」独り言が多くなってしまったのは認めるとしても、聞かれていたなんて。神埼は楽しそうだ。これからは俺の前でもぶつぶつ言うんだぞ。緒方はまいったなと思った。「わかりました。言うようにします。しかし、聞かれているとなるとあまり言いたくなくなってしまいますね。」鍋をかき回しながら緒方の言葉に神埼は笑った。甘い優しい匂いがたちこめている。幸せだなぁと思いながら緒方は神埼にそっと口づけを贈った。

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