表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常識くんと愛さん   作者: ニケ
62/319

第六十二話

キムチ鍋がほとんど無くなっている。しめにうどんを入れてふかふかに煮たうどんをほうばる。熱くて辛くて美味しい。いつもより多くうどんを食べた。緒方はいつのまにか寝ている。大塚が神埼に聞いたあと残りの麺をすべて自分の受け皿に入れている。あれからしばらく泣いていた大塚がすっきりしたように顔を上げた。両手を強く握り返して大きく振り上げる。不意に笑って神埼と緒方を交互に見つめた。「ありがとな。すっきりしたよ。なんかお腹空いてきた。」力も抜けたし、楽になったよ。そっと手を離して自分の両手を握りしめた。「。。あったかいな。。」大塚は目を閉じてじっとしている。その目から一筋の涙が溢れて流れていく。神埼は何も言えずその光景を見守った。人が泣く姿はこんなにも美しいものなのだろうか。いろんな涙があるだろうが、大塚のこの静かな涙はとても美しく優しいものを感じた。やがて目を開いて目の前を見る。鍋、食べるか。大きく息を吸って笑っている。穏やかな優しい笑顔だった。緒方は隣で寝ている。疲れていたのだろうか。ぐっすりと寝ている。神埼に野菜と肉を薦めて緒方自身もよく食べていたが、しめの麺を入れたあと寝転がってしまった。そのうち起きるだろうと思っていたのに今日はそのまま寝ている。神埼は奥の部屋から毛布を持ってきて寝ている緒方に掛けてやった。様子を見ると、深い呼吸が聞こえてきて完全に寝ているのだなぁと思った。「緒方、寝たのか。疲れていたんだろうな。」大塚が緒方を見ながら呟いた。こいつは見かけによらず気を使うやつだからな。静かに囁く。そうなのか?と神埼は聞いてみる。神埼にとって緒方はいつも図太く我が道をゆき、飄々としていた気がする。「緒方が気を使わない相手って、神埼と俺くらいだよ。家族関係は知らないけど、あんまり心を見せるやつじゃないから。」冷静だしな。大塚はうどんを食べながらのんびりと言った。一見、心を開いているように見えるが本性は隠している。自分とよく似ているから。そう大塚は言う。「俺は家族の期待やらで押し潰されそうだからだけど。神埼と一緒にいる前の緒方って、周りと一線引いてたな。巧妙だったから誰も気づかなかったけどな。」理由まではわからなかったよ。こいつ秘密主義だし。受け皿を持ちながらちらっと緒方の方を見る。そのあとに神埼の方を見た。「お前と一緒にいるようになって変わったよ、緒方。優しくなった。周りは誰も気づかないだろうけどな。」うどんを食べ終えた大塚は残ったキムチ鍋の汁をおたまですくっている。うまいなぁとぼやきながら。神埼は意味がわからず大塚を見たあと寝ている緒方を見た。全然心当たりがない。緒方はいつも神埼が呆れるほど自分に素直だった。「緒方が神埼を好きな理由がよくわかるぜ。こいつ、何があってもお前から離れないから。覚悟してろよ。」キムチ鍋の汁をすすりながら大塚は笑う。楽しそうに、嬉しそうに笑っている。ほんと、良かったなって思ってるんだぜ。人間らしくなったなって。自分の受け皿を置いて大塚は黙った。何かを考えているようだ。神埼は大塚が言った言葉がよくわからなくて頭がぼんやりとしていた。自分の知っている緒方と大塚から聞く緒方は全く違う。己の感情に素直な緒方とそれを隠していた緒方。どっちが本当の緒方なんだろう。「俺も、こいつみたいに守りたいものができればなぁ。。」大塚が呟いていたが、神埼には届かなかった。すやすやと寝ている緒方を見ながら、なんとも言えない気持ちになる。今すぐに緒方を起こして、さっき大塚が言っていたことを聞いてみたい。でも、聞かずにそばにいて自分で見つけてみたい気もする。「謎を見つけてしまった。」ぼそっと小さく呟いたのに、隣にいた大塚はその言葉に大きく笑う。謎ってなんだよ!神埼の方を見て問いかけた。緒方はよくわからないよ。口を尖らせて言えば大塚はさらに笑う。「いいんだよ、わからなくて。つーか、わかってたら面白くない。」見物しているこっちの身にもなれよ。楽しみが減るだろ。と言われれば、このままわからなくてもいいのかなぁという気がして神埼は首を傾げる。明日は学校かー。背伸びしている大塚を見ながら神埼はそうだったと思い出す。すっかり忘れてた。そう言うと大塚と二人で笑いあった。見たいテレビがあるからもう少し起きていよう。緒方、おやすみ。テレビのリモコンを持って番組を選んでいる大塚の横で神埼はそっと緒方の頬を優しく撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ