第六十話
久しぶりに大塚と帰り道を歩く。大塚は不意に一緒に帰らないかと誘ってくる。そんなときの大塚は何かに疲れていて、緒方と神埼の前ではそれを遠慮しない。周りを心配させないように振る舞う大塚だか、緒方と神埼の様子を見て気を使う必要はないと判断したらしい。「お前らはぶっ飛んでるからな。」思い出したように笑っている。遠慮するだけ無駄だと思ったんだよ。思い当たることが神埼にはわからない。だが、大塚が穏やかに笑っているので嬉しくなる。帰り道を歩いてみても、大塚はいつもと様子が違った。今日は特にあまり家に帰りたがらない。大塚との別れ道が近づくにつれて足取りが重くなる。神埼は少し心配になった。「なあ、大塚。今日は俺たちのアパートに泊まらないか?ちょうど鍋をしようと思ってたし。」暗い顔をしていた大塚に話しかける。鍋は人数が多い方が楽しいからさ。な!と緒方に視線を送る。緒方は神埼が、俺たちのアパート、と言ったことがとても嬉しかったらしい。いつものように顔をだらけさせている。神埼は遠い目をして見つめた。相変わらず緊張感ないよなぁ。緒方の口元をむにむにとつねる。うふふふと緒方は笑っている。「。。いいのか?。。」下を向いていた大塚が少し顔をあげた。二人が大きく頷くと、ほっとしたように笑う。お泊まり用の荷物を取りに大塚の家に寄ることになった。大塚の両親は今日、親戚の所に泊まるらしい。誰もいない家へ帰ることがわかっているからだろう。大塚はいつもより気が抜けているような気がした。「弟が親戚の家に預けられてるんだよ。だから、時々、親達が様子を見に泊まりにいくんだ。」大塚の家に着いたあと、しばらく荷物をまとめて出てくるのを待つ。周りはもう暗くなっていて、外にある街灯だけが穏やかに光っている。一人だとわかっている家へと帰るのは辛い。自分では何ともないと思っていたのに、心はそう感じてはくれない。神埼にも経験があるので大塚を放ってはおけない。なるべくそばにいたくなる。ふと、心配になって緒方の方を見る。ちゃんと了解を得ていなかった。「緒方。。。その。。急に決めてごめんな。勝手だったかな。。?」人との付き合いがあまりない神埼にとって、気の使い方がよくわからない。わからないときは聞くのが早い。ありのまま言えばいいのだと緒方から耳にタコができるほど言われている。緒方を見ると、さっきから笑いっぱなしだ。うふふふと口元があがっている。「神埼くんは優しいですからね。みんなの人気者です。私はちゃんとわかっていますよ。」人気者のパートナーは辛いものなのです。陰ながら支えるのですよ。嬉しそうに笑いながら、訳のわからないことを言っている。大丈夫のようだ。神埼は安心した。なんだよ、それ。緒方の表情がまた誇らしげで胸を張って言うので神埼としてはそっぽを向きたくなる。緒方は緒方で楽しそうだ。その事が神埼は嬉しかった。「鍋のしめは何がいいかな?麺か、ご飯か。大塚は何が好きなんだろう。」そうですねぇ。神埼の言葉に緒方は考えるように首をかしげる。そうしていると大塚が荷物とともにやって来た。明日も学校だから鞄も一緒だ。荷物持つよ。神埼が手を伸ばす。その動作が緒方とも重なり、二人から手を伸ばされた大塚は笑っている。「お前ら一心同体か!!どんだけタイミングがいいんだよ。」三人は笑いあった。今日の鍋のしめは何がいいですか?神埼が言おうとしたことを緒方が大塚に言う。今、言おうとしたのに!!と神埼が叫べば、また笑いあった。お前らって、やっぱぶっ飛んでるよなぁ。大塚のしみじみとした声が暗い闇に響き渡る。楽しい夜になりそうだ。いつもは二人だが、今日は三人でアパートへの道を歩いていく。しめは麺がいいな、うどんがいいと大塚が言えば、うどん好きが増えた!と神埼は嬉しそうに声を上げる。鍋が楽しみだ。




