第四十五話
何人かに別れて片付け作業を手伝う。皆、雑談していて楽しそうだ。夕日の淡い光が優しく包み込んでいる。作業中にクラスメイトがその優しい色に見とれて、にっこりと老人に話しかけた。「あれまあ、本当に。昨日はあの赤い夕日の色が怖くて、恐ろしかったのに。今日は優しい色だねぇ。」老人は笑っている。同じ色なのに不思議だねぇ。片付け作業をしながら笑い合った。「俺さ、あの夕日、すごく怖かった日があるから。おばあさんの気持ちが伝わってきたんだよ。」作業を終えて、暗くなったから帰ろうと皆、引き上げていた。その中で大塚が不意に言った。大塚は帰ったら塾に行くそうだ。この頃は勉強ばかりしている。「学校は楽しいけど、終わって塾に行きながら一人でこの道を歩くだろ。その時に妙に虚しくて。今、自分がやっていることが無駄なんじゃないかって怖くなる。」本当に自分は勉強をやりたいのか。何のために塾に行くのか。言い様のない不安と虚しさ。淡々と過ぎていく日々。神埼にも覚えがあったので、心がまた傷んだ。緒方も黙って聞いている。「でも、誰かとこうやって歩いて、会話はなくても温かくて。夕日は夕日なんだって思えたよ。」優しい色だよな。大塚は笑った。神埼はその言葉に大きく頷いて答える。誰でも寂しさを抱えて、虚しさを抱えて、知らぬ間に不安になって。立ち止まりながら、進みながら少しずつ自分の道を歩いていく。大塚も同じだった。一人で何かを抱えている。しばらく三人で歩いたあと、神埼は言った。「大塚、また一緒に帰ろう。寂しくなったら。いつでも。」伸びやかに長くのびていた三人の影が暗闇に消えていく。また明日と笑って緒方と二人、アパートへの道を歩いた。もう辺りは暗い。神埼は片付け作業が終わったらコンビニに行くつもりだったが、なぜだかそんな気にはなれなかった。一人で苦しかったのは、自分だけだと思っていた。寂しさも虚しさも、みんな抱えていなくて、感じたことすらないと思っていた。大塚はなに不自由なく、なんでもできて人のなかにすんなりと入っていたから。リーダー的存在で楽しそうに見えたから。見えたけれど、そうではなかった。大塚は大塚だけしか知らないものを抱えて悩んでいて、それは一人だった自分と何ら変わらない。大塚が感じている不安や虚しさも、見えないところで存在していた。自分が一人で苦しんだように。抱えているもの、感じているものは人それぞれ違う。大塚が感じるものと神埼の感じるものは違う。でも、大塚も知らないところで向き合っていたのだ。人知れず自分と同じ一人で。気づかなかった。見えなかった。あの時は自分だけが苦しんでいると思っていた。真っ暗でよかったと思う。自分はきっと今、泣いているから。浅はかだった自分。気づけなかった自分。世界はすべて自分しかなかった自分。悔しくて、悔しくて。あまり泣くと緒方が気づくから、はらはらと流れていく涙をそのまま流した。緒方は何も言わずに歩いている。夜がきて、星がキラキラと輝きだした。この空をどれだけの人が見ているのだろう。どう、感じているのだろう。神埼はそっと涙を拭うと緒方に話しかける。緒方は神埼のほうを見て優しく笑っている。焼きそばは今度にして、今日はラーメンが食べたいな。そんな神埼に緒方は笑う。今日の神埼くんは麺が食べたいのですね。緒方は神埼の手を握った。繋いだ手からふんわりとした温かさが伝わってくる。また涙が流れそうで神埼はまいったなと思う。温かさは時にどうしようもなく涙を誘う。泣いてしまいたい思いを引き出すから厄介だ。緒方、俺、自分勝手だったよ。神埼は心の中でそっと呟いた。




