第四十四話
授業が終わり、クラスメイトたちと片付け作業について話し合った。道具を持っていくこと、暗い中の作業は大変なので、午後七時までとすること、いくつかのグループに別れて共同で作業をすること、お互いに何でも言い合って決めていくこと。「なんだか自分たちで話し合って決めたら、安心するんだよね。」クラスメイトでリーダー的存在の大塚が言った。話し合うことでどんな些細なことでも不安が解消されるからかもしれない。他のクラスメイトたちも頷く。「こんなこと言っちゃいけないとか、中学生の時は押さえ込んだり言われた通りにしてたけど、相談してみんなのやりやすいように決めていくって楽で面白いよね。」より頑張れるの。学級委員を務める木村さんだ。自分たちを信頼して送り出してくれる先生や親たちも凄いと思うけど。木村さんはにこやかに笑った。長いウェーブの髪が揺れている。片付け作業を手伝いに行くのだと教師に告げると、教師は少し考えてから、一つだけ伝えた。お互いに信頼し合って決めていけ。少しの呟きも見逃すな。クラスメイトたちは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。神埼はクラスメイトたちが凄いなぁと思うのは、みんな根底に愛というものをしっかりと持っていることだ。親の愛を知らない神埼にとって、自分を満たすことに精一杯でその根底にある愛が眩しく、力強く見えた。一人だったときには、与えられているクラスメイトたちはその愛が当たり前で無意識に受け取っているから気づかないだろうと思っていたのに。クラスメイトたちはちゃんと愛を与えられていることを知っていて、その愛に感謝している。その愛をさらに与えようとしている。神埼は自分がクラスメイトたちに心を開かなかったのは、羨ましいのもあるが、その愛に心を開き、受け取ることが怖かったからかもしれないと思った。愛を知らない自分が迷惑をかけることが一番嫌だったが、本当はその愛を知りたくて、でも知って受け取ることが怖かったのかもしれない。愛を受け取るには勇気がいる。自分の価値を認めて、自分は愛される存在だと認めること。その勇気。傷ついて、逃げていることが楽で自分の弱さを見なくてもいいから都合がいい。そんな逃げの場所を手放して、堂々と愛を受け取ることを決める。それはとても勇気がいる。神埼はぎゅうと強く拳を握った。傷ついたら臆病になる。臆病になったら、怖くなって逃げたくなる。逃げ続けたら一人になった。神埼は心が痛くて、自分のこの弱さを感じることが痛くて、苦しくて。強く目をつぶった。怖かった。愛を知りたかった。でもいざ前にこられたら、受け取っていいと両手を広げられたら。怖くて怖くて。逃げたくなる。でも。「神埼くん、今日は外食ですよ。美味しいものを買って帰りましょうね。」強く目をつぶった暗闇のそばで緒方の声がする。その声は穏やかでゆるやかで安心する。少しずつでいいんだ。自分のペースで。緒方がいつか言っていた。「急に受け取れるようになるなんて。またあなたは自分の心の声を無視するのですか。それだけ傷ついているのですよ。なぜ比べたり形を求めてそれに自分を当てはめるのです。あなた自身の声とペースを尊重してください。」手を握られて、頭を撫でられながら言われた。その時の緒方の顔が真っ赤で、まるで猿のようだと笑えたけど。嬉しかった。「外食、なんでもいいんだろ?焼きそば食べたいな。売ってるかな。」コンビニかスーパーに行けばあるでしょう。家に電子レンジもありますから。大丈夫ですよ。穏やかに笑っている。そうだよな、緒方。焦ることないし、焦って自分を見失ったら。お前がまた怒って猿になるよな。神埼はあの時の緒方を思い浮かべながら、可笑しくなって笑った。「?そんなに焼きそばが楽しみなのですか?神埼くんは、可愛いですね。」笑う神埼を見て、緒方も楽しそうに笑う。夜まではまだ遠い。クラスメイトたちも穏やかに笑っている。愛を受け取ること。自分の弱さを見つめること。穏やかにゆっくりと教えてくれる。神埼は緒方やクラスメイトたちと一緒にいられることにとても感謝した。




