第四十話
たこ焼きが食べたくなった。眠っていて知らなかったが昨日は嵐でとても天気が酷かったらしい。激しい風は吹き止まず、町にも少し被害が出たようだ。緒方が朝から慌てたように話しかけてきた。「神埼くん!風に吹き飛ばされて怪我をなさった方もいらっしゃるようです。突発的な風で予測もつかなかったそうですよ!」緒方の慌てように、本当に稀な、もしかしたら初めての嵐だったかもしれない。学校のみんなや緒方の家族は大丈夫だったのだろうか。気になる。「緒方、今日は天気もいいし、様子を見に散歩に行こう。それでたこ焼きを食べるぞ。」たこ焼きは決定だからな。体を起こし出かける準備をし始めた神埼に、あ、神埼くんは、たこ焼きが食べたいのですね、と緒方は嬉しそうに笑った。町に出掛けてみると、建物があちこちで壊れている。風で飛ばされてきたのだろう。屋根の一部もそこらじゅうに散らばっている。結構、すごい嵐だったんだな。。。寝ていた自分にはわからなかったけれど。「大丈夫ですか?片付けを手伝いましょう。」隣にいた緒方がいつの間にか前で話しかけている。こんなに今日は天気がいいのに。たった一日で変わるものなんだな。神埼は緒方と話している老人の元へと駆け寄った。「ありがとうな。こんな状態じゃあ、一人ではとてもとても。。何日かかるか、諦めとったよ。」片付けをしながら、老人が笑う。家が壊れて少し、寂しそうだ。神埼にとって長い間、家は帰りたくない、怖い嫌なイメージだったが、もし緒方と一緒にいるあのアパートが壊れたらと思うと、耐えられない。もし、そうなったら別のアパートに引っ越せばいいのだが、なぜだろう。寂しい。風で飛ばされてきた砂や砂利が砂場のように積もっている。これは一人では大変だ。スコップを借りてひとかきしてみたが、ずしりと腕にくる。重い。かき出してもかき出しても、砂利。砂利。砂利。。。。砂利はそんなに家のなかが好きなのだろうか。神埼は考える。こんなところも!?という小さな箇所にも積もっていて、細かい作業に神経も使う。腕力と、繊細な神経と、根気。片付け作業は大変だ。ある程度綺麗になり、三人は顔を見合わせて笑った。「林さん、たこ焼きを食べませんか?これから材料を買って作るのですよ。」神埼くんが食べたいと駄々をこねるんです。緒方がいきなり嬉しそうに笑って老人に伝えた。「な!俺は確かにたこ焼きが食べたいけど。駄々までこねてないだろ!」「こねましたね。私はちゃんと見てました。」「それはお前の勝手な思い込みだ!お前だって食べたそうにしてたくせに。食べたいもの見ると口がだらけるよな。」「そんな!だらけていません!!」「嘘つけ!俺はちゃんと見てたぞ。」神埼が緒方の口元をつねる。痛いですよーと緒方は笑った。老人はきょとんと見たあと、豪快に笑った。「あっはっはっは!にいちゃんたち、どっちもどっちじゃ。」そんなことないです!緒方と同じタイミングで老人の方を向いてしまった。三人でひとしきり笑ったあと、別れを告げてスーパーへと行く。買い物をしながら緒方に聞いてみた。「アパートが壊れたら?それは寂しいですよ。神埼くん、これから作るたこ焼きに愛を込めますよ!!」林さんに食べてもらうんです!!緒方は燃えている。そうだよな。。家が壊れたら寂しいと思う。愛というものはよくわからない。でも俺も緒方みたいに心を込めようかな。あの老人、林さんのことを思い浮かべながら、神埼は美味しそうなたこを手に取った。




